【インタビュー】2024年MotoE電動レーサー、ドゥカティ「V21L」はいかに進化したのか

2023年から電動バイクレース『FIM Enel MotoE World Championship』に電動レーサー「V21L」を供給するドゥカティは、2024年シーズン、マシンをどう進化させたのでしょうか。MotoE開幕戦ポルトガル大会(MotoGP第2戦ポルトガルGPに併催)で、ドゥカティのeモビリティ・ディレクター、ロベルト・カネさんにインタビューを行ないました。

4年間で段階的に進化する

 電動バイクレースである『FIM Enel MotoE World Championship』(以下、MotoE)は、2024年でドゥカティが「V21L」を供給してから2シーズン目を迎えました。MotoEのために開発された電動レーサー、車両重量225kg、出力110kW(150hp)です。とくに車両重量については2022年までのマシン(車両重量260kg)よりも大幅に軽量化されました。

車重225kgの電動レーサー「V21L」によるレースは、エキゾーストノートが無いことと周回数が少ないことが特徴だが、レースの激しさはMotoGPと変わらない
車重225kgの電動レーサー「V21L」によるレースは、エキゾーストノートが無いことと周回数が少ないことが特徴だが、レースの激しさはMotoGPと変わらない

 2023年シーズンのMotoEは全8戦16レースが行なわれ、その全てでオールタイムラップ・レコードを更新しています。なお、このオールタイムラップ・レコードは、3戦を除き、わずかにMoto3クラスのそれを上回るものでした。最高速としては第2戦イタリア大会(ムジェロ・サーキット)で、281.9km/hが記録されました。

 1周目から最終ラップまでライダーが全力で攻められるレースをコンセプトとするMotoEは、そのために周回数も短く6周から10周ほどで、レースのトータルタイムも15分程度です。車格としては1000ccクラスのバイクに近く、上述のラップタイムと併せて考えれば、MotoEというレースが想像しやすいかもしれません。

 ドゥカティのeモビリティ・ディレクター、ロベルト・カネさんは、「V21L」にとって1年目のシーズン、2023年の満足度についてこう語ります。

「ドゥカティが電動バイクを製造し、レースに投入したのは今回が初めてでした。私たちの電動レーサーで世界選手権を争い、大きな成功を収めたことには非常に満足しています。というのも、私たちにとって、MotoEは選手権であるとともに、電動バイクという新しいテクノロジーのラボ、実験場でもあるのです。ですから、このバイクに関して、性能面でも信頼性でも、これほど素晴らしい結果が得られるとは思っていませんでした」

ドゥカティ eモビリティ・ディレクター、ロベルト・カネさん。2002年ドゥカティ・コルセに入社。MotoGPエレクトロニクス部門の責任者を務める。2019年にドゥカティ・モーター・ホールディングに異動。MotoEプロジェクト、および将来的なドゥカティの電動バイク全般を担当する
ドゥカティ eモビリティ・ディレクター、ロベルト・カネさん。2002年ドゥカティ・コルセに入社。MotoGPエレクトロニクス部門の責任者を務める。2019年にドゥカティ・モーター・ホールディングに異動。MotoEプロジェクト、および将来的なドゥカティの電動バイク全般を担当する

 2023年は大きな満足を得たというカネさん。それならば、2024年シーズンに向けたさらなる進化を期待したくなるというものです。しかし、2024年は「マイナーチェンジ」にとどまったということです。

 これは当初からの予定で、ドゥカティは2023年から2026年までの4年間、MotoEに「V21L」を供給することが決まっており、そのうち2023年と2024年の2年間はほぼ同じバイクを維持し、2025年に大きな改善を行ない、2026年まで2年間のレースをすることになっているからです。

 MotoEはワンメイクマシンであり、その開発にはチャンピオンシップのプロモーターであるドルナの意向が存在します。例えば、車両の軽量化はドルナがドゥカティに求めたことのひとつでした。電動バイクという新たなモビリティによる黎明期の選手権ゆえ、毎シーズンの進化、改善は加速度的というよりも、着実に行なわれていると考えられます。

 2024年シーズンに行なわれた変更、改善は、主にエルゴノミクスと電子制御です。パワートレインについての変更はありません。

 電子制御面では、エンジンブレーキのマッピングが増えました。実際には「エンジン」は搭載されておらず、一般的には回生ブレーキと呼ばれるもので、内燃エンジンのバイクにおける「スロットルを閉じる操作を行なった」とき、減速しながらタイヤがモーターを回転させ、モーターが発電機の働きをすることで電気が発生します。ただ、カネさんたちは「エンジンブレーキ」と表現しているので、この記事ではそれに倣いたいと思います。

MotoEのスイッチボックス。ドゥカティのMotoGPマシン(デスモセディチGP)と同じものが採用されている。赤ボタン=トラクションコントロール、青ボタン=ローンチコントロール、黄ボタン=ライドバイワイヤ(出力)、白ボタン=ピットレーンのスピードリミット、緑ボタン=エンジンブレーキ
MotoEのスイッチボックス。ドゥカティのMotoGPマシン(デスモセディチGP)と同じものが採用されている。赤ボタン=トラクションコントロール、青ボタン=ローンチコントロール、黄ボタン=ライドバイワイヤ(出力)、白ボタン=ピットレーンのスピードリミット、緑ボタン=エンジンブレーキ

 2023年はエンジンブレーキのマッピング、つまり強弱の選択肢が3つだけで、ライダーはそのうちのひとつを選び、選んだマッピングで走りました。2024年は、この選択肢が9つに増えたのです。ライダーとチームはこの中から天候や路面状況に合わせて3つを選んでバイクに組み込み、ライダーは、走行中にその3つのマッピングを切り替えることができます。

 なお、スロットルを回したときのパワー出力のマッピングは3つで、これは2023年から変わりません。電動バイクの場合、内燃エンジンのバイクとは違って、スロットルを開ける操作を行なうと、一気にトルクが出ます。これを電子制御でスムーズにしたり、少しアグレッシブにしたりと味付けするわけですが、その強弱度合いが3つから選べる、ということです。トラクションコントロールについても、3つのマッピングから選ぶことができます。

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