クラッチ操作なしでバイクがますますスポーティ!? ウソじゃなかったホンダ意欲作「Eクラッチ」の楽しさ!!
ホンダ「Eクラッチ」の報道発表会(2023年12月)に参加し、開発チームに取材したバイクジャーナリストの青木タカオさんが5月に開かれた試乗会で体験走行しました。会場は修善寺サイクルスポーツセンター、クローズドコースにてじっくりと走り込みました。
バイクって意外と運転が難しい!?
生まれて初めてバイクに乗ったとき、多くの人が難しいと感じたのはクラッチレバーの操作ではないでしょうか。

両腕で自転車のようにハンドルを握って、ブレーキレバーを操作するだけではなく、両手それぞれで意外なほど繊細な作業をしなければなりません。
というのも、右手でスロットルグリップをひねれば、エンジンの回転が上がり前へ進んでいくのは想像できたかもしれません。
しかし、問題は左手です。初心者はまず発進時から、それに直面します。右手のグリップ操作に連動しつつ、握ったレバーを丁寧に離していくという繊細なコントロールが求められます。
構造を理解していなければ、教習所の教官や先輩ライダーらが口にする「クラッチを切る」とか「つなぐ」という表現も、きっと意味がわからないはずでしょう。
たとえば、坂道発進などで「半クラを使って」などと言われても、半クラとはなんぞや、いったいどうすればいいのか……!?
さらに右足でフットブレーキ、左足ではシフトコントロール、オートバイの運転って見た目以上に複雑と思った人は少なくないはずです。
クラッチを駆使して操るのがバイクの面白さ
街で見かけるライダーは、何事もなく発進と停止を繰り返し、そんなにも複雑な操作をしているようには見えません。

交差点では、信号が青になったと同時にクラッチレバーを握りつつトランスミッションをニュートラルからロー(1速)に入れ、すぐさまクラッチミートして走り出していきます。ビギナーの頃は時間を要した作業も慣れていくにつれ、素早く操作できるでしょう。
四輪自動車がオートマチック化され、マニュアルミッション車が少数派となった現代、オートバイの魅力のひとつは、そんなふうに複雑である運転操作であり、テクニカルな部分だという意見も多く耳にします。
筆者も同感です。趣味として愛用しているバイクですから、複雑難解な操作をわざわざするのもまた楽しみのうちのひとつ。クラッチワークを駆使してライディングするのもまた醍醐味と言えるでしょう。
ホンダが挑むのはイージーさだけではない
一方で、長時間走ったときや渋滞時にはクラッチ操作が煩わしいとも思います。左手を激しく疲労することも珍しくありません。
趣味ではなく、配達業務など仕事でバイクを運転するのなら、そんな思いはしたくないはず。ホンダ創業者の本田宗一郎氏は「自動遠心クラッチ」を採用した『スーパーカブ』(1958年~)で、クラッチ操作の煩わしさから乗り手を解放しました。
そんなホンダはホビーユース向けのスポーツバイクに対しても、これまでクラッチ操作をなくする技術を次々に開発し、ユーザーに提案してきました。
製品化するだけでなく、1991年にはオートマチックトランスミッションの『RC250MA』を全日本モトクロス選手権シリーズで走らせ、レーシングシーンでも優位性を試しています。
レースは走る実験台と本田宗一郎が言うとおり、開発を進める上で重要な場所であると同時に、表彰台に立つこと、勝利することも大きな目標。つまり、運転操作を容易くするだけではなく、勝つための技術でもあるということです。
進むクラッチレス技術
クラッチ操作がなければ、バイクは面白くないのか? そんなことはないと真っ向勝負しているのが、ホンダの開発技術陣であり、2008年には油圧機械式無段変速機「HFT(ヒューマン・フレンドリー・トランスミッション)」を『DN-01』に搭載し、発売しました。

2009年には「DCT(デュアルクラッチトランスミッション)」を発表し、『VFR1200F』をリリース。最新の『CRF1100Lアフリカツイン』では6軸IMUとの組み合わせで、電子制御をより熟成・進化させて、ライダーの意志に近い操作フィールを獲得しています。