ブレーキレバーを握るとブレーキが効く。それなら、なんでレバーを離すと緩むの?

多くのバイクが装備している「油圧式ディスクブレーキ」は、詳しい構造はともかく油圧の力でブレーキパッドをギュ~っとディスクローターに押し付けているイメージがあります。それなら、なぜブレーキレバーやペダルを離すとブレーキが緩むのでしょうか?

「油圧でパッドを押し付ける」のはイメージできるが……

 油圧式のディスクブレーキは、名前の通り「油の圧力」を利用して、ディスクローターとブレーキパッドの摩擦力で制動力を生み出しています。ちなみに、厳密には油(オイル)ではなく、溶剤の原料などに使われるポリエチレングリコールモノエーテルをベースとした液体で、正しくは「ブレーキフルード(Brake Fluid)」と呼びます(Fluid=液体、流体の意味)。

 ブレーキレバーを握って(ブレーキペダルを踏んで)マスターシリンダーで発生した圧力が、ブレーキフルードを介してキャリパーのピストンを押し出し、ブレーキパッドがディスクローターを押し付ける摩擦力によってブレーキが効きくワケです。

 それでは、握ったブレーキレバーを離すとなぜブレーキが緩むのでしょうか? 「離すから効かなくなるのは当たり前でしょ」と言われそうですが、ここは少し掘り下げて考えてみましょう。

油圧式ディスクブレーキの概念図。マスターシリンダーで発生した圧力がブレーキフルードを介してブレーキパッドをディスクローターに押し付ける
油圧式ディスクブレーキの概念図。マスターシリンダーで発生した圧力がブレーキフルードを介してブレーキパッドをディスクローターに押し付ける

ブレーキパッドが戻らないと問題続出!?

 繰り返しになりますが、ブレーキレバーを握るとマスターシリンダーで油圧が発生し、その油圧でブレーキが効きます。なのでブレーキレバーを握るのを止めれば、油圧が無くなるので、ブレーキキャリパーのピストンを押し出す力も無くなり、当然ながらブレーキも緩みます。

 とはいえ、ブレーキレバーを握るのを止めれば油圧は無くなりますが、構造的にブレーキフルードをキャリパー側から吸い戻しているわけではありません。注射器に例えると、ピストンを押すのは止めたけれど、ピストンを引っ張り戻していないのと同じ状態です。

 というコトは、ブレーキレバーを離せばブレーキパッドをディスクローターに“押し付ける力が無くなる”のでブレーキは効かなくなりますが、ブレーキパッドはディスクローターに“接触したまま”になります。

 これだとブレーキをかけていなくてもブレーキパッドが摩耗するし、ずっと擦りっぱなしでは発熱してトラブルの原因(フェード現象やベーパーロックなど)になります。

 また厳密に言えば、ブレーキパッドが引き摺っている抵抗によって、わずかですが燃費も悪化します。

オイルシールの歪みがピストンを引き戻す

 前置きが長くなりましたが、ブレーキレバーを握るのを止めたら、ブレーキパッドがディスクローターに接触したままではない状態になるのが理想です。そして実際に、ブレーキレバーを離すと、ブレーキパッドはホンのわずかに“引っ込む”のです。

 その仕組みは、ブレーキキャリパーとピストンの間で、ブレーキフルードの油圧が抜けないように保っている「オイルシール」にあります。

ブレーキをかけるとピストンにオイルシールが引っ張られて歪み、ブレーキを離すとオイルシールの歪みが元に戻ろうとしてピストンを引っ張る
ブレーキをかけるとピストンにオイルシールが引っ張られて歪み、ブレーキを離すとオイルシールの歪みが元に戻ろうとしてピストンを引っ張る

 ブレーキをかけてピストンが押し出される際に、オイルシールが引っ張られて歪みます。そしてブレーキを離すと、オイルシールの歪みが元に戻ろうとしてピストンを引き戻します。

 身近なモノに例えると、紙に書いた文字を「消しゴム」で消すときに、紙に強く押し付けて擦ると消しゴムが歪み、押し付けて擦る力を緩めると元のカタチに戻る、そんなイメージです。

 とはいえ、ブレーキキャリパーとピストンの間に設けたオイルシールの断面は、1辺が数ミリしかないので、歪みや戻りはホンのわずかです。そのため、ブレーキレバーを離した時のブレーキパッドとディスクローターの隙間も、目に見えないほどわずかですが、それがブレーキの引き摺りを起こさないために大切なのです。

ブレーキを“かけていない時”も重要! メンテナンスも忘れずに!!

 レーシングマシンや市販バイクのブレーキシステムで有名なイタリアのブレンボ社は、2024年に開催されたEICMA(ミラノショー)で、新型のブレーキキャリパー「Hypure(ハイピュア)」を発表しました。

ブレンボ社の新型ブレーキキャリパー「Hypure(ハイピュア)」。画像はドゥカティ「パニガーレV4 S」(2025年モデル)のフロントブレーキ
ブレンボ社の新型ブレーキキャリパー「Hypure(ハイピュア)」。画像はドゥカティ「パニガーレV4 S」(2025年モデル)のフロントブレーキ

 このキャリパーは新しいブレーキパッドの固定方法を採用することで、残留トルク吸収(ブレーキレバーに力を加えない時に、ディスクローター上でパッドが滑る現象)を最大15%抑え、燃費やエミッションを向上しています。

 とかくブレーキは制動力が重視されますが、じつは“ブレーキをかけていない時”も重要だということが伺い知れます。

 ……すごく細かいハナシばかりでしたが、ブレーキの戻りの良し悪しは、じつはライディングテクニックにも影響します。

 とくにカーブに進入してブレーキを離したときに、ライダーが思った通りにスッとリリースできるか否かに、大きく関わってきます。

 そしてブレーキのピストンの戻りは、日頃のメンテナンスで大きく変わります。ブレーキキャリパー内側のピストン周辺は、雨天走行で巻き上げた泥や砂だけでなく、ブレーキパッドやディスクローターの摩耗によるパッド粉や鉄粉がかなり付着します。この汚れを放置すれば、ピストンの戻りは当然ですが悪くなります。

 そのため、ブレーキキャリパーをフロントフォークから外して、ブレーキパッドも外してピストンの周辺をしっかり清掃するのが理想ですが、現実的にはけっこう大変です(ブレーキは重要保安部品なので要注意!)。

ブレーキのピストンの戻りの良さを保つには、マメに洗車して汚れを落とすことが基本
ブレーキのピストンの戻りの良さを保つには、マメに洗車して汚れを落とすことが基本

 しかしフロントフォークに装着した通常の状態でも、洗車用のシャンプーや中性洗剤を使って目に見える範囲(手が届く範囲)をそれなりの頻度で洗車すれば、間違いなく効果はあるのでぜひお試しを。

 ちなみに、パーツクリーナーをジャンジャン吹きかけると簡単に汚れが落ちますが、ゴム製のオイルシールを傷める可能性があるのでオススメしません。

 また高圧洗浄機もオイルシールを傷めたり、内部のブレーキフルードに水が混入する危険があるので、やはり使用しない方が良いでしょう。

【画像】押し付けるのは分かるけど……油圧式ディスクブレーキを画像で見る(9枚)

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Writer: 伊藤康司

二輪専門誌『ライダースクラブ』に在籍した後(~2005年)、フリーランスの二輪ライターとして活動中。メカニズムに長け、旧車から最新テクノロジー、国内外を問わず広い守備範囲でバイクを探求。機械好きが高じてメンテナンスやカスタム、レストアにいそしみ、イベントレース等のメカニックも担当する。

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