え、なんで!? もはやほとんどのクルマが装備している「エアバッグ」 バイクには無いの?

いまどきのクルマ(4輪車)のほとんどが、事故や衝突時に搭乗者を守る「エアバッグ」を装備しています。ところがバイクはエアバッグを装備していません。クルマで効果があるならバイクにこそ有効だと考えるところですが……実際はどうなのでしょうか。

エアバッグ装備のバイク……じつはある!?

 あまり考えたくありませんが、人間の身体が剥き出しの状態で走るバイクは、事故や転倒した際に大きなケガを負う危険が少なくありません。クルマ(4輪車)の場合は頑丈なボディに囲われていて、飛び出し防止のシートベルトや衝撃を吸収するエアバッグを装備しているのに、なぜかバイクにはどちらも装備していません。

国内の乗用車で初めてエアバッグを装備したホンダ「LEGEND EXCLUSIVE」の、エアバッグを収めたハンドル
国内の乗用車で初めてエアバッグを装備したホンダ「LEGEND EXCLUSIVE」の、エアバッグを収めたハンドル

 じつは、エアバッグを装備するバイクが世の中に1機種だけあります。それがホンダの大型ツーリングモデル「Gold Wing(ゴールドウイング)」です。2007年モデル(国内)で初めてエアバッグ装備車が設定され、現行モデルでは標準装備になっています。

やっぱりホンダ、クルマもバイクも真っ先に市場投下

 ホンダは古くからバイクの安全対策に取り組み、一次安全としてCBS(前後連動ブレーキシステム)やABS(アンチロックブレーキシステム)を開発してきましたが、事故や転倒した際にダメージを低減する二次安全として、1990年から二輪車用エアバッグの研究を開始しました。

 ちなみに国産のクルマ(乗用車)で初めてエアバッグを装備したのもホンダで、1987年に発売した「レジェンド」でした。

 当時ホンダがライダーの死傷データを分析したところ、日米欧ともにバイクの前面での衝突が過半数を超え、衝突時にライダーが前方に投げ出されて、事故の相手車両や路面などとの打撃によることが分かりました。

 そこで、ライダーの飛び出しを抑制して傷害を軽減するエアバッグの開発に着手しました。

 そして2006年の「ゴールドウイング」(北米仕様)で世界に先駆けてエアバッグを装備し、2007年の国内モデルにも採用しました。

バイクならではの、エアバッグ装備の難しさ

「ゴールドウイング」のエアバッグの基本的な構造は、クルマ用と大きく変わりません。しかしバイクは衝突条件(ぶつかる方向など)の違いによって、車体の傾き方や揺れ方などの挙動が大きく異なるため、展開したエアバッグのライダーに対する作用も変化します。ここがバイクとクルマで大きく異なる部分です。

エアバッグを標準装備するホンダ「Gold Wing Tour」(写真は2020年モデル)。ダミータンクの上のリッド内に格納されている
エアバッグを標準装備するホンダ「Gold Wing Tour」(写真は2020年モデル)。ダミータンクの上のリッド内に格納されている

 そのためホンダは、規定されたISO13232(二輪車用の衝突時のライダー保護デバイスの研究評価におけるテストおよび解析手法)に加えて、ホンダが独自に設定した条件の衝突テストや、200通りにも及ぶシミュレーションを行いました。

 また単独転倒時などにエアバッグの誤動作を防ぐ実験や、衝突判定に時間を費やしたと言います。

 こうして完成した「ゴールドウイング」のエアバッグシステムは、センサーが衝突を判定してからわずか0.06秒でエアバッグが開き、トータルで0.15秒後にはライダーが飛び出す運動エネルギーの吸収を完了します。

 このように、ホンダの安全技術の粋を集めて完成した2輪車用エアバッグですが、「ゴールドウイング」以外のバイクには装備していません。

 ちなみに「ゴールドウイング」の2007年モデルは、エアバッグ仕様車が非装備車より21万円高でした。少々高いですが、安全装備として有効なら他の車種にも装備した方が良いのでは……と思わなくもありません。

 普及しない理由は定かではありませんが、エアバッグシステムを配置するスペースや重量など、「ゴールドウイング」のような大型ツアラー以外のバイクではクリアできなかったのではないでしょうか。

 スーパースポーツ車のように強く前傾したライディングポジションだと、ライダーが飛び出さないようにエアバッグを配置するのは、かなり難しいでしょう。

車体がキビシイなら、ライダーがまとえばいい?

 というワケで、バイク本体のエアバッグは普及していませんが「ライダーが着用するエアバッグ」はこの数年で猛烈に進化しています。

 たとえばレーシングスーツやライディングウエアで有名ブランドの「ダイネーゼ」や「アルパインスターズ」は、多数のセンサーやGPSを用いたエアバッグシステムを装備したベストやジャケットなどを販売しています。これらはMotoGP(2018年から全クラスでエアバッグ着用が義務化)などのレースで着用するレーシングスーツ用エアバッグの技術をフィードバックしています。

 愛車にエアバッグを装備するのは無理でも、エアバッグ装備のウエアなら入手できるし、バイクを乗り換えても使えます。

 コスト的にも、ケーブル作動(バイクに繋いだケーブルが転倒時などに強く引っ張られて外れ、エアバッグのガスボンベのバルブを開く)のエアバッグなら比較的安価な製品も増えています。

 万が一に備え、長く安全にバイクライフを楽しむために、着用を検討してはいかがでしょうか。

【画像】これはなかなかキビシイ気が……実際にエアバッグが展開した状態の「ゴールドウイング」を見る(10枚)

画像ギャラリー

Writer: 伊藤康司

二輪専門誌『ライダースクラブ』に在籍した後(~2005年)、フリーランスの二輪ライターとして活動中。メカニズムに長け、旧車から最新テクノロジー、国内外を問わず広い守備範囲でバイクを探求。機械好きが高じてメンテナンスやカスタム、レストアにいそしみ、イベントレース等のメカニックも担当する。

編集部からのおすすめ

摩耗ライフ47%向上のブリヂストン「BATTLAX SPORT TOURING T33」が気になる! ところで…バイクのタイヤってどう選ぶのが正解?「夜道雪」さんと学ぼう【PR】

摩耗ライフ47%向上のブリヂストン「BATTLAX SPORT TOURING T33」が気になる! ところで…バイクのタイヤってどう選ぶのが正解?「夜道雪」さんと学ぼう【PR】

最新記事