「ル・マン」の熱気はひと味違う!? フランスGPでは水曜日からキャンピングカーがズラリと並ぶ【MotoGPの現場から No.4】

MotoGPのパドックで、HJCヘルメットのレーシングサービスを行なう長谷川朝弘さんによる、現場のリアルです。ヘルメットのレーシングサービスやMotoGPのパドック、そしてMotoGPとともに移動する旅での出会いなど、30年以上にわたってMotoGPに関わり続ける長谷川さんの視点でお届けします。今回は、第6戦フランスGPで伺った話です。

夜まで大騒ぎ!? 「来ることに意義がある」ル・マンとは

 みなさん、こんにちは。MotoGPのパドックでHJCのレーシングサービスを担当している、トミーハセガワ(筆者:長谷川朝弘)です。今回は、ル・マン-ブガッティ・サーキットで開催された2025年シーズンのMotoGP第6戦フランスGPのお話をしたいと思います。

HJCヘルメットのレーシングサービスを務める長谷川さん。フランスGPの決勝レースは、雨によって大忙しだったそうだ
HJCヘルメットのレーシングサービスを務める長谷川さん。フランスGPの決勝レースは、雨によって大忙しだったそうだ

 フランスGPのようにヨーロッパで開催されるレースの場合、僕たちは、火曜日の夜には準備のためにサーキット周辺に来ています。水曜日に、トラックがパドックに入るからです。

 そんなル・マンの水曜日に見られる光景が、キャンピングカーなどがキャンプエリアの入口にズラリと並ぶ様子です。ひとつのエントランスにつき、300メートルくらいのキャンピングカーの列ができているんです。

(編集部注:調べたところ、キャンプエリアの区画は先着順だそうです)

 まだ誰もいないキャンプエリアには、木材の切れ端が山のように積んであります。キャンプができるエリアはいくつかあるのですが、また別のキャンプエリアでも同じ光景を目にしました。

 おそらくですが、近所の人たちがボランティアで、キャンプで使う木材を用意しているんだと思うんです。「どうぞお使いください。みんなで温まってください」とね。夜は寒いですからね。10度以下になりますから。

(編集部注:週末、キャンプエリアでは薪で焚火をしている様子があちこちで見られました)

 ただ、泊まっている人たちはうるさいですね(笑)。まあ、楽しんでいいんですけどね。夜中じゅうエンジンを「ババンバンバン!」って鳴らして騒いでいるし、音楽もフルボリュームでかけています(笑)。

 ライダーのモーターホーム(※ライダーが寝泊まりするトレーラーのこと)はキャンプエリアやグッズ、フードを販売しているエリアに近いんですけど、過去にはうるさくて寝られないからと、アレイシ・エスパルガロ(※2024年で引退。現・ホンダのテストライダー)はモーターホームに防音の壁をつけたらしいです。

 ル・マンに匹敵するほどうるさいのが、ムジェロ(※イタリアGPが開催されるムジェロ・サーキット)ですね。ムジェロは(バレンティーノ・)ロッシ(※通算9度の世界チャンピオンを獲得したイタリア人レジェンドライダー。2021年に引退)が引退したのを境に、ちょっと減ってきましたけどね。

 ムジェロはサーキットが盆地にあるので、どこを向いても山で、東西南北、あらゆる方角から朝の3~4時までエンジンの音が響いてきます。バイクだけではなくて、音を出すために草刈り機のエンジンだけ持ってきたりするんですよ! とにかく音を出して楽しんでいますね。

 僕はMotoGPの週末は1日のうち23時間、パドックに停めたトレーラーで過ごします。仕事、食事、寝る時もトレーラーの中です。ル・マンは大丈夫ですが、さすがにムジェロでは寝る時に耳栓をしますね。

 キャンプエリアで簡易トイレを見たことがないけど、どうしているんでしょうね? 男性なら、酔っ払っているからキャンプエリアのいちばん端のほうに行って、外に向かって立ち小便をする人がいますけど。

 キャンプエリアと道は塀でさえぎられていて、僕たちはその外側をクルマで走っているわけですが、ちょっと横を見たら、そういう人が僕(が運転するクルマ)に向かって立ち小便していたり……。何人も見たことがありますよ(笑)。

カメラを向けると勝手にピース(笑)。まだ昼の時間なのでこれでも穏やかな雰囲気。夜になると歩く人みんなが酔っ払っている
カメラを向けると勝手にピース(笑)。まだ昼の時間なのでこれでも穏やかな雰囲気。夜になると歩く人みんなが酔っ払っている

 ル・マンのお客さんの熱はすごいですね。あと、団結心があるように思います。ホテルで1人のMotoGPファンに会ったんです。彼もキャンプでMotoGP観戦をする1人だったのですが、「去年は観客人数を更新したから、今年もまた、みんなで更新してやるぞ!」と言っていました。

(編集部注:2025年フランスGPは、週末通算で史上最多の観客動員数31万1797人を達成しました)

 そういえば、フランス人の気質なんでしょうけど、知らない人とすれ違ったり、同じ場所にいる時などは、必ず声をかけられますね。街中はともかく、郊外では必ずです。

 ホテルですれ違う時、もちろんエレベーターの中などでも、「Bonsoir(こんばんは)」「Bonjour!(こんにちは)」と。誰にでも声をかける気質なのかもしれないですけど。それが酔っ払っている人になると、怖いときもありますけどね(笑)。

 これは僕の想像ですけど、いろいろな人種が入ってきているから、敵意がないことを伝えるためのあいさつなのかもしれないです。

 これも余談ですが、HJCのサポートライダーであるファビオ(・クアルタラロ)もフランス人です。スペインGPで2位表彰台を獲得したのですが、ローマ教皇が亡くなったためにシャンパンファイトがなかったんですね。

 僕がヘルメットの回収に行ったら、ファビオがシャンパンを持ってチームスタッフのところに行って、シャンパンを開けていました。でも彼、フランス人なのに「Vamos!(バモス!)」って叫びながらシャンパンを撒いていたんですよね(笑)。スペイン語で直訳すると「行こう!」という意味なのですが、フランス人なのにどうしてスペイン語で言っていたんだろう? チームもイタリアがベースのはずなんですけどね。

 今回の話とは関係ないですけどね。ただ、ファビオからはお客さんのようなル・マンの熱に近いものは、あまり感じないですね。

 これは僕の主観ですが、スペインやイタリアのお客さんは、「ワー!」という、明るい盛り上がり方なんです。フランス(ル・マン)は、下から響いてくるような「ウオオオォォォ!」という感じ。種類が違うように感じます。

 熱気としては、15万人を集めたような、全盛期の鈴鹿8耐以上にすごいです。でも、日曜日に10万人が入ったとして(※2025年は日曜日だけで12万403人の観客動員数だった)、全員がレースを見ているわけではないと思うんですよね。私見ですが、ル・マンに行くことに意義がある、という人もいるんじゃないかな、と感じます。

 ヘレスでもお客さんはたくさん入っていましたけど、金曜日はまだそこまで多くはないんです。フランスGPは木曜日から来る人が多いです。事前に準備して、「ル・マンに行くぞ!」という意気込みがあるんでしょうね。

 ただ、昼間からビールを飲んだくれているものだから、彼らは列をなしてゾンビのように襲ってくるんですよ(笑)。けっこう救急車の稼働もあります。アルコール中毒でしょうね。レーシングトラックに入る救急車よりも多いです……。レースも好きなんでしょうけど、ル・マンに来るのが好きな人が多いんでしょうね。

 準備万端でキャンピングカーで来て、そこで寝泊まりして、夜中じゅう騒いで、ビールを飲んで、昼間はぼんやりとして寝てるんじゃないかな(笑)。

 ル・マンは20回以上来ていますけど、僕がGPで仕事を始めてから、ずっとこんな感じ。ル・マンのお客さんの気質は変わらないです。「大人の全力の遊び場」なのかもしれないですね。

■HJC HELMETS
韓国のヘルメットメーカー「HJC」は、2025年シーズンは3名のMotoGPライダー、ファビオ・クアルタラロ、ブラッド・ビンダー、ミゲール・オリベイラをサポート。彼らが使用するのは市販製品である「RPHA1」(※モデル名は販売国によって異なる)

(まとめ:伊藤英里)

【画像】尋常じゃない!? ル・マンに集まるMotoGPファンたちの「熱」を見る(9枚)

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Writer: 長谷川朝弘

2001年からシーズンを通してMotoGPを転々とし、パドックでヘルメットのレーシングサービスに携わる。2016年、HJCのレーシングサービス担当者に。最大限かつ最も重要なサポートとして「視界をクリアに保つこと」をポリシーに、日々試行錯誤を続けている。

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