シフトダウン時の「空ブカシ」ナゼ? やった方がイイの? その仕組みを徹底解説
峠道のカーブ手前や街中の信号前のシフトダウンで、「ブワ~ンッ」とエンジンを空ブカシするライダーを見かけますが、何のためにやっているのでしょうか? やった方が良いのでしょうか?
シフトダウン時の空ブカシは「回転合わせ」
シフトダウンする際に、エンジンを空ブカシするライダーを目にする(耳にする)ことがあります。また昔のレース映像などを見ていると、やはりカーブの手前で「ワーン! ワーン!」と空ブカシしているようなエンジン音が聞こえます。そんな空ブカシのことを「ブリッピング」と呼んだりしますが、どんな意味があるのでしょうか?

空ブカシは、シフトダウン時のエンジンの「回転合わせ」のために行っています。「回転合わせ」とは、何の回転を合わせるのでしょうか?
バイクのエンジン(ピストンやクランクシャフト)が生み出す力(トルク)は意外と小さく、そのままではバイクの重量やライダーの体重や荷物を動かすには十分ではないため、歯車などを使って回転数を減速し、代わりに大きなトルクを得ています(一次減速比や二次減速比)。
さらに、平坦な道や坂道、一般道や高速道路などの走るシーンや速度レンジに合った効率の良い回転数に切り替えられるように、現代のスポーツバイクの多くは5速または6速のトランスミッション(変速機)を装備しています。
そして実際にMTバイクに乗っているライダーなら、だれもがギアチェンジを行っています。
ギアチェンジは走行シーンに合ったギアを選択しているワケなので、各ギアで走行速度などの守備範囲が異なる、すなわち変速比が異なるということが理解できます。
じつは1990年代頃までのスポーツバイクのカタログには、大抵は裏表紙などに性能曲線図や変速比(ギアレシオ)のグラフが記載されていました。なぜか近年は表記されなくなりましたが、この変速比のグラフを見ると「回転合わせ」の意味が分かります。
変速比の異なるギアの、回転差を埋める
そこでカワサキ「Z900RS」の変速比のグラフを作ってみました(スペック表の数値をベースに計算しているので完全に正確ではない)。縦軸がエンジンの回転数で、横軸が走行スピードです。空気抵抗や路面の走行抵抗などが加味されないので、けっこうスピードが高めですが、そこは無視してください。ここで大事なのは、各ギアでのスピードとエンジン回転数の関係です。

変速比のグラフには、比較しやすいよう60km/hのところに縦線を入れました。この線と各ギアの線の交点からエンジンの回転数が分かります。
たとえば5速で走っていれば、エンジン回転数は約3000rpmですが、4速だと約3500rpmです。ということは、5速から4速にシフトダウンすると、約500rpmの回転差があります。このシフトダウンを「回転合わせナシ」で行うと、後輪の回転数とエンジン回転数がマッチしないため、一瞬エンジンブレーキが強く効いてしまい、ガクッと車体が揺れてショックが発生します。
そこで、シフトダウンの際にエンジンを空ブカシして、5速と4速の回転差を埋めてあげればショックの無いスムーズなシフトダウンが行えるというワケです。
このメリットを考えると、シフトダウンの空ブカシは「やったほうが良い」ということになります。
どれくらいフカせばいい?
それでは、実際にどれくらい空ブカシすれば良いのでしょうか? 先に挙げた「Z900RS」で、60km/hで走行時に5速から4速にシフトダウンする場合を例に考えてみましょう。
エンジンの回転数の差は約500回転で、それほど大きくありません。またシフトダウンがカーブや信号の手前の減速時なら、スロットルを戻しているしブレーキもかけているので、実際には回転差はもっと小さくなっています。
ということは、シフトダウン前の5速3000rpmの状態から、最大でも3500rpmになるように、ほんの軽く空ブカシすればOKです。
またシフトダウンは「クラッチを切る→シフトペダルを踏み下げる→クラッチを繋ぐ」操作をしますが、空ブカシを行うのはクラッチを切っているほんのわずかな合間です。その間はフロントブレーキも操作しているので、素早く的確な空ブカシはけっこう難しかったりします。
反対に、盛大にブワ~ンッと空ブカシを行うと、その間はクラッチをずっと切っているので、エンジンの回転数はアイドリング付近まで下がってしまいます。
ということは、5速3000rpm→4速3500rpmの回転差ではなく、結果として5速3000rpm→4速1000rpm(アイドリング付近)と、別の意味で回転差が大きくなってしまうので、かえってシフトダウン時のショックが大きくなる可能性があります。
つまり、素早く的確な空ブカシはメリットがありますが、派手な空ブカシだと逆効果になってしまいます。
ちなみに、同じ速度域でも低いギアほど回転数の差が大きく、また速度域が高くなるほど回転数の差が大きくなるので、それに合わせて空ブカシの大きさも変えたほうが良いでしょう。その意味でもスキルを必要とするライディングテクニックだと言えます。
いまどきのバイクは、空ブカシしなくても大丈夫だけど……
ここまでシフトダウン時の空ブカシ=回転合わせの理由を解説しましたが、最近の「双方向クイックシフター」装備車なら、ライダーが空ブカシを行う必要はありません。それはバイク自身がシフトダウン時の各ギアの回転数の差などを検知して、ライド・バイ・ワイヤシステムによって最適な空ブカシを自動的に行うからです。この機能を「オートブリッパー」と呼びます。
さらに最近のスーパースポーツ系は、エンジンブレーキの強さを制御するEBCや、過大なエンジンブレーキによる後輪のロックを防ぐスリッパークラッチを装備しています。
また近年は250ccクラスでもアシスト&スリッパークラッチの装備車が増えているので、高速・高回転からのシフトダウンを空ブカシせずに(回転合わせナシで)行っても、後輪がロックする危険は少ないと言えます。
逆に言えば、双方向クイックシフターやアシスト&スリッパークラッチ等を装備しないバイクでスポーティに走るなら、シフトダウン時に空ブカシで回転合わせを行った方が良いでしょう。
とはいえ、それらのバイクでも、いわゆる街乗りで制限速度内での走行なら、空ブカシを行わなくても特に問題はないでしょう。しかしよりスムーズなシフトダウンを目指し、ライディングテクニックを磨くという意味では、空ブカシや回転合わせにチャレンジする価値はあるでしょう。
Writer: 伊藤康司
二輪専門誌『ライダースクラブ』に在籍した後(~2005年)、フリーランスの二輪ライターとして活動中。メカニズムに長け、旧車から最新テクノロジー、国内外を問わず広い守備範囲でバイクを探求。機械好きが高じてメンテナンスやカスタム、レストアにいそしみ、イベントレース等のメカニックも担当する。












