ほとんどのハーレーが採用している「ベルトドライブ」 なぜ他メーカーではあまり使わないの?

バイクはエンジン(トランスミッション)から後輪に回転力を伝えるのはチェーン駆動が主流で、少数派ですがシャフト駆動もあります。そして忘れてはならないのが「ベルト駆動」で、ハーレーダビッドソンのほとんどの車両が採用しています……が、なぜ他のメーカーは使わないのでしょうか?

新世代の駆動方式として登場した「ベルトドライブ」

 クルーザーやツアラー、と言うより「アメリカンスタイル」で人気の高いハーレーダビッドソンですが、現行モデルのほとんどが後輪を「ベルト」で駆動しています(=ベルトドライブ)。ところが他のメーカーでは、ベルトドライブはほとんど採用していません。一体なぜなのでしょうか?

ハーレーダビッドソンのほとんどが採用する「ベルトドライブ」
ハーレーダビッドソンのほとんどが採用する「ベルトドライブ」

 じつはハーレーダビッドソンも、1970年代までは一般的な「チェーン駆動」でした。

 米国では1960年代頃に州間自動車道(インターステート・ハイウェイ)の整備が一気に進んだことで、長距離ツーリングも盛んになりました。

 ハーレーのように大トルクのエンジンに重量のある車体だと、当時のチェーンでは耐久性に問題があり、張り調整や注油を頻繁に行う必要がありました。

 そこで登場したのが「ベルトドライブ」です。一見するとゴム製のベルトに見えますが、実際はNASAが開発した「コグドベルト」と呼ぶベルトで、ケブラー繊維をシリコンラバーで包んだ、非常に頑丈な構造です。

 ハーレーのドライブベルト(コグドベルト)は当時のチェーンをはるかにしのぐ長寿命で、一説には10万kmと言われています。しかも耐衝撃性(頑丈なうえに乗り心地が良い)や静粛性に優れ、チェーンのような清掃・潤滑や張り調整といったメンテナンスもほとんど不要です。

 ちなみにBMWモトラッドなどが採用するシャフトドライブもメンテナンスフリーで静音ですが、既存のハーレーに採用するには大幅な構造変更が必要なうえに、重量や部品点数の多さ(=コスト上昇)があるため採用しなかったと思われます。

 反対にベルトドライブは、基本的には前後のドライブスプロケットをコグドベルト用のプーリーに交換するだけで済むので、コスト上昇も抑えられます。

 こうしてハーレーは1980年発売の「FXBスタージス」に初めてベルトドライブを採用し、以降のモデルも順次ベルトドライブ化して現在に至る……という流れです。

クルーザー系ならメリットいっぱいだが……

 そんなメリット沢山のベルトドライブですが、現在ではなぜかハーレー以外のメーカーでほとんど使われていません。じつはベルトドライブにもデメリットがあるからです。

スイングアームが上下すると、エンジン側と後輪側のスプロケット(チェーンの場合)やプーリー(ベルトの場合)の軸の間隔が変化する。スイングアームのストローク量が多いほど軸間距離の変化も大きい
スイングアームが上下すると、エンジン側と後輪側のスプロケット(チェーンの場合)やプーリー(ベルトの場合)の軸の間隔が変化する。スイングアームのストローク量が多いほど軸間距離の変化も大きい

 まずチェーン駆動の場合、適切な「張り調整」が重要になります。これは路面からの衝撃でスイングアームが沈んだ時に、エンジン側と後輪側のスプロケットの間隔が広がるため、その長さの変化に対応するために適切な遊びを設ける必要があるからです。

 ところがドライブベルトは張りを緩めて遊びを作ると、プーリーとベルトが「コマ飛び」を起こしやすく、常に適切な張力が必要になります。そのためスイングアームの上下(ストローク量)が多いモデルには不向きです。ハーレーはクルーザーやツアラーが主モデルのためスイングアームのストローク量が少ないので、ベルトドライブを採用できるのです。

 次に、チェーンの場合は構造的に長さの調整がしやすいので(コマを減らしたり増やしたりしやすい)汎用性が高いというメリットがあります。同程度の排気量(パワーやトルク値が近い)なら、バイクのジャンルやコンセプトの違いでスイングアームの長さやスプロケットの歯数(丁数)が変わっても、同じサイズのチェーンでコマ数を変えることで対応できます。

 しかしベルトドライブのコグドベルトは継ぎ目の無い作りで長さを変えられないため、基本的には車種ごとの専用品になります。これは製造コストや補修部品の在庫コストを押し上げる要因になります。

 またチェーンならばカスタムやエンジンチューニングを行う際や、レースやサーキット走行でコースに合わせて二次減速比(ドライブ/ドリブン・スプロケットの歯数)を変えて、それに合わせてチェーンの長さを合わせることができます。ところがベルトドライブは長さを変えられないので、それができません。

ハーレーダビッドソンのアドベンチャーモデル「PAN AMERICA 1250 SPECIAL/ST」はチェーンドライブを採用
ハーレーダビッドソンのアドベンチャーモデル「PAN AMERICA 1250 SPECIAL/ST」はチェーンドライブを採用

 そしてコグドベルトは凄く丈夫ですが、ベルトとプーリーの間に小石などの異物が挟まると穴が開いたり、その穴を起点に裂けたりして、突然切れることもあります。そのためハーレーのドライブベルト周囲には、異物を飛び込みにくくするカバーを設けています。とはいえ相応にキレイな舗装路はともかく、砂利道や林道などダート走行を目的としたオフロード車にはベルトドライブは不向きといえます。

 そのためハーレーの中でもアドベンチャーモデルの「パンアメリカ1250スペシャル/ST」はチェーン駆動を採用しています。これはスイングアームのストローク量の多さと、未舗装路での異物によるベルトの破損を避けるためでしょう。

 またクルーザーやツアラー、かつての空冷スポーツスターなどでカスタムやエンジンチューニングを行う際も、二次減速比を調整したりスイングアームのストローク量に対応するために、ベルト駆動からチェーン駆動に改造するのもメジャーです。

 ちなみにハーレーの「X350」と「X500」はチェーン駆動ですが、これはベースモデルになっているベネリのコンポーネントをそのまま使用しているからでしょう。

日本メーカーも(一次的に)こぞって採用

 とはいえハーレー以外のメーカーがベルトドライブを全く採用しなかったワケではありません。日本メーカーではカワサキが1982年にアメリカンスタイルの「Z400LTD」(国産第1号)と「Z250LTD twin」にベルトドライブ仕様車を用意しました。じつは当時のカタログでも、最初の1ページをフルに使って、新採用のベルトドライブの優位性を語っています。

カワサキが1982年に発売した「Z400LTD/Z250LTD」は、カタログ内でベルトドライブのメリットを詳細に解説
カワサキが1982年に発売した「Z400LTD/Z250LTD」は、カタログ内でベルトドライブのメリットを詳細に解説

 そして翌1983年にはロードスポーツの「GPz250」もベルトドライブを採用。こちらはカタログ表紙に「ベルトドライブ搭載、先鋭スーパークォーター」と書かれ、中面でもしっかり解説しています。

 ……が、その後ロードスポーツ車での採用はなく、国内モデルではアメリカンの「バルカン900クラシック」(2016年に生産終了)に採用していました。

 ホンダも1982年にアメリカンタイプの「250T マスターS・D」にベルトドライブを採用しました。ちなみに車名の「S・D」は「サイレント・ドライブ」の意味となります。

 スズキはビッグシングルエンジンを搭載するアメリカン「サベージLS650」(1986年)と「サベージLS400」(1987年)にベルトドライブを採用します。また1992年にはフルカバードの「SW-1」に採用していますが、こちらは静粛性とメンテナンスフリーを狙ったようです。

 ヤマハがベルトドライブを採用したのは少々遅く、1999年発売の「XV1600 ROADSTAR」が初になりますが、後の多くの「STAR」シリーズに採用し、「BOLT-R」(2021年発売モデルで生産終了)もベルトドライブでした。

 そして変わり種ではスポーツスクーターの「TMAX」は、2012年の「TMAX530」からベルトドライブを採用しています。したがって現在の日本メーカーの国内モデルでは、ベルトドライブ車はヤマハ「TMAX560」だけになります。

 外国車ではBMWモトラッドが2002年に発売した「F650CS Scarver(スカーバー)」にベルトドライブを採用します。ベースモデルの「F 650」や「F 650 GS」がオフロード走行も想定したチェーン駆動だったのに対し、「スカーバー」は当時のBMW流ストリートコミューターだったので、差別化を図ったのかもしれません。

 その後に登場した並列2気筒の「F 800 S」や「F 800 ST」、「F 800 GT」もベルトドライブでしたが、ロードスポーツの「F 800 R」やアドベンチャーの「GS」はチェーン駆動でした。

 しかし後継モデルの「F 900」シリーズはすべてチェーン駆動になり、現在は電動モビリティの「CE 04」および「CE 02」がベルトドライブを採用しています。

 ドゥカティは2016年に発売した「Xディアベル」に初めてベルトドライブを採用しました。シリーズのベースとなった「ディアベル」よりもクルーザーとしてのキャラクターを強めたからかもしれません。

 そして現行モデル(2気筒エンジン車)もベルトドライブを継続していますが、新型の4気筒エンジンを搭載した「XディアベルV4」ではチェーンドライブになっています。

 このように、現在のスポーツバイクでベルトドライブを採用するのは、ハーレーの他はごく一部になります。

 これはベルトドライブの汎用性やコスト的な問題もさることながら、ベルトドライブが登場した1980年代初頭と比べて、チェーンの耐久性や静粛性など総合的な性能が飛躍的に向上したのも大きな理由ではないでしょうか。

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Writer: 伊藤康司

二輪専門誌『ライダースクラブ』に在籍した後(~2005年)、フリーランスの二輪ライターとして活動中。メカニズムに長け、旧車から最新テクノロジー、国内外を問わず広い守備範囲でバイクを探求。機械好きが高じてメンテナンスやカスタム、レストアにいそしみ、イベントレース等のメカニックも担当する。

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