クアルタラロが「2019年の気分」を取り戻せた訳とは? ミルvsマルケスの心理戦も見られたポルトガルGP

ファビオ・クアルタラロ(モンスターエナジー・ヤマハ・MotoGP)が前戦ドーハGPに続いてポルトガルGPも制し、ライダーズランキングでもトップに立った。YZR-M1の仕上がりもさることながら、その強さを支えていたのは何だったのだろうか。

熾烈な心理戦が繰り広げられたポルトガルGP

 MotoGP・第3戦ポルトガルGPが開催され、ファビオ・クアルタラロ(モンスターエナジー・ヤマハ・MotoGP)が前戦ドーハGPに続いて2連勝。ライダーズランキングでもトップに立った。

 クアルタラロ+YZR-M1の強さが印象に残ったが、それを支えていたのは、もしかしたら精神面の成長なのかもしれない。

今季2勝目を挙げたヤマハのファビオ・クアルタラロ

 また、レースウィークを通じて新旧王者による意地のぶつかり合いも垣間見られ、モータースポーツがマシンによる争いであると同時に人間同士による心理的な戦いであることにも改めて気付かされた。

 ポルティマオのアルガルベ・インターナショナル・サーキットでは、世界最高峰のライダーたちによる熾烈な心理戦が繰り広げられていたのだ。

メンタルトレーニングに励んだクアルタラロ

 フランチェスコ・バニャイア(ドゥカティ・レノボ・チーム)のスーパーラップがイエローフラッグ無視により抹消となったため、ポールポジションスタートからのスタートとなったクアルタラロは、初戦、第2戦と同じようにスタートでやや出遅れたが、すぐにマルク・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)、ジャック・ミラー(ドゥカティ・レノボ・チーム)をかわして4番手まで挽回。続いて前年王者のジョアン・ミル(チーム・スズキ・エクスター)、第2戦を終えた時点でランキングトップのヨハン・ザルコ(プラマック・レーシング・ドゥカティ)もパスして2位につけた。

ファビオ・クアルタラロとファステストラップを更新し合ったものの、スリップダウンを喫したスズキのアレックス・リンス

 8周目にはアレックス・リンス(チーム・スズキ・エクスター)を捕まえて首位を奪い、リンスとファステストラップを更新し合う展開となるが、リンスが1分39秒450のサーキットレコードを記録した次のラップに痛恨のスリップダウン。11番グリッドから2番手まで浮上したバニャイアを4秒809差で従え、トップでゴールした。

「バイクはとてもよく機能していて、正直なところ、(大活躍したルーキーイヤーの)2019年みたいな気分です」とレース後に話したようにカタール・ラウンドで見つけたベースセッティングがポルティマオにも合っていたこと、リンスが前後ミディアムタイヤを選択したのに対し、右コーナーでのフィーリングが良く、耐久性に余裕のあるハードをリアに履いていたことが勝因に挙げられるが、オフシーズンから取り組んできたメンタルトレーニングも効果を発揮した。

 それが実を結び、リンスが猛烈な勢いでプレッシャーをかけてきた時にも落ち着いていられたようだ。

「後ろに誰かがいる時も僕は逃げ切ることだけを考えます。最終ラップではプレッシャーがかかるかもしれませんが、リンスのペースを詳細に分析して、僕は彼より少し速く走れることが分かっていたので、あまり重圧を感じませんでした。前に出てプッシュしましたが、彼が思ったより長く持ちこたえることができたので驚きました。僕は心理学者と一緒に仕事をしていますが、彼が提案してくれた全てのエクササイズが気持ちを落ち着かせるのに役立ちました。シーズンに向けた心の準備に満足しています」

 一方、クラッシュして敗れ去ったリンスは「データを分析しましたが、前のラップと何も変わりませんでした。これはおそらくミシュランではなく、コースコンディションが最適でなかったせいだと思います。Moto3がウォームアップするのを見た時、トラックがカタールに戻ったように感じました」と語るが、フロントタイヤに依存する自身のライディングスタイル、勝負所で転倒してしまう悪癖が災いしたと見ることもできる。

 昨年のアラゴンGPでは序盤でトップに立ち、そのままリードを守り切る力強い走りで優勝し、課題を克服したようにも思えたが、やはり接近戦になるとその辺りの脆さが顔をのぞかせてしまうのかもしれない。

 中東での好調をそのまま維持したクアルタラロに対し、初戦で優勝、第2戦でも5位とまずまずの状態で臨んだマーベリック・ビニャーレス(モンスターエナジー・ヤマハ・MotoGP)は11位と下位に沈んだ。

 トラックリミットをほんのわずか越えたために取り消しとなったが、予選では同僚を上回るタイムをマーク。決勝での上位進出を期待させたが、「予選最後のアタックの時だけはグリップが良かったが、ウィーク中、ずっと同じようなフィーリングでグリップが非常に悪く、ペースを上げられなかった。これからが心配だ」とコメントし、サーキットを去った。

 持って生まれた感覚の鋭さゆえなのだろうが、このナイーブさが見え隠れしているうちは、なかなかタイトルが見えてこないことも確かだ。

王者経験者が備える“勝者のメンテリティー”

 リンス、ビニャーレスと比較すると、やはり最高峰クラスのチャンピオン経験者には“勝者のメンタリティー”が備わっているように感じられる。

2020年シーズンチャンピオンのジョアン・ミル。ポルトガルGPでは3位表彰台を獲得した

 9番グリッドからスタートした2020年シーズンチャンピオンのミルは序盤から3番手争いに加わり、その後、一旦は4番手に後退するものの、チームメイトのリンスが転倒リタイアしたため、今季初となる3位表彰台を獲得した。

「ポルティマオはおそらく僕たちにとってベストなコースではなく、それでも表彰台に上がることができたので満足しています。ヘレス(スペインGP)、ル・マン(フランスGP)とスズキにとってあまり良くないコースが続きますが、ここで表彰台に立てたので、ヘレスでも良い結果が得られるかもしれませんね」と冷静に振り返るが、現役王者の真骨頂が発揮されたのは、むしろ予選でのマルク・マルケスとのワンシーンだろう。

 ミルと今回が復帰レースとなったマルケスは共に予選Q1からのスタートだったが、これからアタックに入ろうかというミルをマルケスが待ち伏せ。GSX-RRが追い抜くと今度は追走した。

 するとこの行為に対してミルが憤慨。「マルクをトラックの真ん中で見つけましたが、遅かったので、1ラップを失ってしまった。その後、彼は僕を利用した。Moto3だったらペナルティーを課される危険な行為だ。マルクがこの手のゲームを好むことは前から知っているけど、僕は100%の走りをするだけだよ」と批判を展開した。

ポルトガルGPで復帰を遂げたマルク・マルケス

 マルク・マルケスは「この週末、僕はずっとひとりで走っていたけど、セクションのどこで負けているのか正確に知るために別のバイクを追いかける必要があったんだ。そこで僕はそのセクションで最高の走りをしていた世界チャンピオンを選んだ」と説明したが、往年の王者たちがそうしてきたように手強いライバルに心理戦を仕掛けたとも取れる行動だった。両者は決勝でもスタート直後の3番手争いで2度にわたって接触。レーシングアクシデント範囲内の出来事ではあったが、新旧王者による今後の激しい戦いを予感させた。

 Moto3時代に在籍したレオパード・レーシングのテクニカルディレクター、クリスチャン・ランドバーグが「ジョアンはマルケスに心理的な主導権を握らせない、わずかなライダーのひとりだ。ライダーのほとんどは走る前から心の中で敗北しているが、彼は打ち負かせると考えている」と以前に語ったように、このメンタリティーが参戦2年目での戴冠へと導いたのだろう。

 そのマルケスは「学校の校庭で大きな子に囲まれてサッカーをしているような気分だった。追い越されることを受け入れるのは難しかった」と王者のプライドを大きく傷付けられた様子だが、無事に7位で完走。予選6番手と現地点ですでにある程度のスピードは発揮できており、筋力さえ戻ってくればすぐにでも優勝争いに絡んでくるに違いない。

“勝者のメンテリティー”を備えつつあるクアルタラロ、ディフェンディングチャンピオンのミル、そして帰還した王者マルケスらによる心理的な駆け引きも今シーズンの大きな見所となりそうだ。

【了】

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Writer: 井出 直人

ロードレース専門誌時代にMotoGP、鈴鹿8耐、全日本ロードレース選手権などを精力的に取材。エンターテインメント系フリーペーパーの編集等を経て、現在はフリーランスとして各種媒体に寄稿している。ハンドリングに感銘を受けたヤマハFZ750がバイクの評価基準で、現在はスズキGSX-R1000とベスパLX150を所有する。
Twitter:@naoto_ide

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