カワサキ「空冷Z」バイヤーズガイド ~2輪系ライター中村トモヒコの、旧車好き目線で~ Vol.5

旧車価格高騰でも人気のカワサキ空冷「Z(ゼット)」シリーズは、機種や年式によって特徴もさまざまです。これまで複数の空冷Zを経験してきたライターの中村友彦さんが、代表的なモデルの乗り味を解説します。

年代によって異なる乗り味

 ここ20年くらいで価格が高騰しましたが、いつかは手に入れたい旧車として、1970年代から1980年代前半のカワサキ空冷「Z(ゼット)」シリーズに憧れを抱いているライダーは、少なからず存在すると思います。そして実際にこのシリーズを購入するとなったら、たいていの人はルックスで選ぶことになるでしょう。

同時代のライバル勢が750ccに注力する中、カワサキが初めてゼロから手がけた4ストロークビッグバイクの「Z1」(1973年)は、900ccという排気量を選択。82psの最高出力は、当時の量産車ではダントツのトップだった

 とはいえ、じつは空冷Zの乗り味は年代によって異なるので、安易にルックスだけで選ぶと、購入後に後悔することになるかもしれません。その失敗を避けるため……という表現では上から目線みたいで恐縮ですが、私(筆者:中村友彦)はこれまでにそれなりの数の空冷Zシリーズを経験していますので、何らかの参考になればという気持ちで、以下に代表車の乗り味を記したいと思います。

初代「Z1」は、いろいろな意味で軽快

 空冷Zシリーズの第1号車となった初代「Z1(ゼットワン)」の乗り味は、とにかく軽快です。その主な理由としては、シリーズの中ではかなり軽い部類となる230kgの乾燥重量や、当時の大排気量車としては立ち気味のキャスター角と短いトレールなどがあるのですが、4本出しマフラーの採用で重量配分がリアヘビーになり、結果的に前輪荷重が軽くなっていることも、「Z1」の軽快さを語るうえでは欠かせない要素でしょう。なおエンジンに関しても、主要部品であるクランクシャフトやピストンの重量が軽い「Z1」は、後継車にあたる「Z1000」や「Z1000MkII」より軽快な印象です。

当時のカワサキは完全新設計の排気量900ccの4気筒エンジンをアピール。他メーカーとの違いを見せつけ、「これがスーパーバイクの新しいスタンダードだ」と謳っていた

 もっとも現役時代の「Z1」は、軽快さを追求し過ぎたためか、高速域での安定性不足を指摘されることが少なくなかったようです。ただし、きちんとレストアをして新車時の性能を取り戻した「Z1」に現代のタイヤを履けば、ストリートを常識的なペースで走るぶんには大きな不安は感じない……というのが私の印象です。

重厚にして安定指向になった「Z1000MkII

 説明するのが遅くなりましたが、1970年代から1980年代の空冷Zシリーズは、「Z1」系(1973年型から1980年型)、「Z1000J/R」系(1981年型から1984年型)、「GPz1100」(1983年型から1985年型)の3種に大別できます。1979年に登場した「Z1000MkII」は、独創的なスクエアスタイルを導入していますが、エンジンとフレーム基本構成はあくまでもZ1系の発展型です。

「Z1000MkII」(1979年)。1970年代末のカワサキは、空冷並列2気筒の「Z250FT」から水冷並列6気筒の「Z1300」まで、あらゆる排気量帯のロードバイクにスクエアスタイルを導入。その造形は、現代の目で見ても斬新

 ただし初代「Z1」と比較するなら、乾燥重量がプラス15kgの245kgとなった「Z1000MkII」の乗り味は、重厚にして安定指向です。その背景には、フレームに追加された補強材やクランクケースの肉厚化などがあるようですが、高速域での安定性が高まった一方で、低中速域では初代「Z1」ほどのヒラヒラ感は味わえなくなりました。

 もっとも、パワーが初代「Z1」比でプラス11psの93psになったことを考えると、「Z1000MkII」は決して鈍重ではないのですが、ノーマル派が多い初代「Z1」と比較すると、「Z1000MkII」は軽量化を念頭に置いたカスタムが行われることが多いようです。

大幅なレベルアップを果たした第二世代

 1981年から発売が始まった「Z1000J」と、その派生機種である「Z1000R」、兄貴分の「Z1100GP」は、誤解を恐れずに言うなら、初代「Z1」に通じる軽快さと「Z1000MkII」を上回る安定感を高いレベルで両立したモデルです。

「Z1100GP」(1981年)は「Z1000J」(1981年)の上位機種として開発された。レースユースを想定しない、当時のカワサキのフラッグシップ。「Z1000J」の気化器が負圧式キャブレターだったのに対して、「Z1100GP」はフューエルインジェクションを採用

「そんなに都合よくいいとこ取りが出来るものか?」と感じる人がいるかもしれませんが、空冷Zシリーズの開発に着手して10年以上が経過した当時のカワサキは、スチール製ダブルクレードルフレームと空冷並列4気筒エンジンの組み合わせに関するノウハウをかなり蓄積していたのでしょう。ちなみに、全面新設計で第二世代となった空冷Zシリーズの乾燥重量は、「J」が230kg、「R」が222kg、「GP」が237.5kgです。

 なお第二世代の空冷Zを見ると、私は1970年代後半からモリワキが走らせたZレーサーを思い出します。と言うのも、当時のモリワキが第一世代の空冷Zシリーズの車体に行なったモディファイ、キャスター角とトレールの増加、リアショックのレイダウン、エンジン前側のラバーマウント化などは、第二世代の空冷Zシリーズに通じる要素なのです。この件に関して、カワサキとモリワキが公式な発言をしたことはありませんが、第二世代の空冷Zシリーズの見事なレベルアップには、モリワキが何らかの形で貢献したはず……と、私は感じています。

最終型は高速域重視のスポーツツアラー

 ルックスは完全な別物になりましたが、1983年にデビューした「GPz1100」は、空冷Zシリーズの一員にして最終仕様です。このモデルの最大の魅力は、ハーフカウルやリンク式モノショックの導入を主な理由とする抜群の高速安定性ですが、市販レーサー「Z1000S」で培った技術を転用して、シリーズ最強となる120psの最高出力を得たエンジンも、デビュー時には大きな注目を集めました。

中古車市場での人気はいまひとつのようだが、1983年に登場した「GPz1100」は、カワサキ空冷Zシリーズで最もパワフルなモデル。120psを発揮するエンジンには、市販レーサー「Z1000S」で培った技術が転用されていた

 そんな「GPz1100」のマイナス要素を挙げるとしたら、日本に多いチマチマした峠道で、ハンドリングがやや重く感じることでしょうか。乾燥重量は「Z1000MkII」と同等の244kgで、軸間距離はシリーズ最長の1565mmですから、それはまあ当然なのですが、既存の空冷Zシリーズと比較すると、「GPz1100」は常用域の軽快さをある程度切り捨て、高速域での安定性を重視して開発されたようです。

【了】

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Writer: 中村友彦

二輪専門誌『バイカーズステーション』(1996年から2003年)に在籍し、以後はフリーランスとして活動中。年式や国籍、排気量を問わず、ありとあらゆるバイクが興味の対象で、メカいじりやレースも大好き。バイク関連で最も好きなことはツーリングで、どんなに仕事が忙しくても月に1度以上は必ず、愛車を駆ってロングランに出かけている。

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