ラリースト、レーシングドライバー、ライダー、ある意味クレイジー(賛辞)なのは誰? ~木下隆之の、またがっちゃいましたVol.201~
レーシングドライバーの木下隆之さん(筆者)は、レース仲間とのたわいもない会話で、ライダーこそクレイジーではないか、と言います。どういうことなのでしょうか?
いつものたわいもない会話、いきつくのは「ライダーって……」
「ラリーストとレーシングドライバーを比較した場合、どちらがクレイジー(賛辞)だろうか?」 僕(筆者:木下隆之)らは時に、こんなたわいもない会話で盛り上がることがあります。

ラリーストはレーシングドライバーこそ命知らずだと考えます。頭のねじが外れていないと、時速300キロを超えるスピードでライバルと数センチのバトルを繰り返せるはずがないと言います。
カテゴリーにもよりますが、一般的にはサーキットレースの方が速度は高く、ラリーのようにタイム競技ではなく、先陣争いが競技そのものですから、確かにラリーストの意見も尊重できます。
ただし、一方のレーシングドライバーにしてみれば、先の見えない未舗装路を、助手席のコドライバーが読み上げるペースノートを頼りにカウンタージャンプするなど、気が狂れていないと挑めるはずがないと主張します。
有視界走行ではなく、他人の指示通りにブラインドコーナーを攻め立てるなんて、信じらいないというわけです。
しかも、コース幅が狭い。森を切り開いただけの未舗装路では、ちょっとコースを外れれば大木に激突します。崖っぷちを攻めることも少なくありません。時には、街中の軒下をかすめることもあるのです。これはもう、正気の沙汰ではありませんよね。
もちろん答えが出るはずもない議論なのですが、大概その攻防は、ニュルブルクリンクに挑むドライバーこそ、最強のクレイジードライバーではないかというのが落とし所になります。
速度は確かにラリーよりレースの方が優っています。コース幅が狭いので、接近バトルは接触覚悟の攻防です。それでいて、ラリーのようにブラインドコーナーばかりであり、ジャンプスポットも点在しています。ラリーコースの危険さと、サーキットレースの危険な速度を掛け合わせたのがニュルブルクリンクだと主張するのです。
確かに、ニュルブルクリンクは乱暴なレースとして有名ですね。
実際に、僕はニュルブルクリンクでレースをしていますが、世界から集結するドライバーはどこかクレイジーです。クラッシュをいとわずに攻め込みます。
ただし、ライダーこそが真の勇者であり、命知らずではないだろうか? 僕がそう口にすると、ここで意見はピタリと一致します。とくにマン島TTレースに挑むライダーは、頭のねじが1本抜けているどころか、そもそもネジが無いように思います。
マン島の公道を使ったレースで、コースオフエリアはありません。ジャンピングスポットも点在しています。しかも速度はハイスピードです。
そうです、先の見えないコースに挑むラリーストの勇敢さと、レースの世界の異常な速度を、むき身の体で挑むのです。
マン島TTレースに挑むライダーのクレイジー度を表現する言葉は、ありません。
Writer: 木下隆之
1960年5月5日生まれ。明治学院大学卒業後、出版社編集部勤務し独立。プロレーシングドライバーとして全日本選手権レースで優勝するなど国内外のトップカテゴリーで活躍。スーパー耐久レースでは5度のチャンピオン獲得。最多勝記録更新中。ニュルブルクリンク24時間レースでも優勝。自動車評論家としても活動。日本カーオブザイヤー選考委員。日本ボートオブザイヤー選考委員。