「ヘルメットを気にしないで走ってくるのが一番」アライヘルメットのMotoGPレーシングサービスに聞く
MotoGPパドックで、レーシングサービスを行なうアライヘルメットの古厩透(ふるまやとおる)さんに、2024年シーズンの最終戦、ソリダリティGP・オブ・バルセロナでお話を聞きました。アライヘルメットの安全性の理念「グランシング・オフ」はずっと変わっておらず、ヘルメットの形状も大きくは変わっていません。しかし、レースの現場で培われた技術は、細やかな改良につながっています。
MotoGPパドックにおける、ヘルメットのレーシングサービスのルーティン
MotoGPのパドックで、アライヘルメットのレーシングサービスを行なう古厩透(ふるまやとおる)さんのインタビューは、2024年シーズン最終戦ソリダリティGP・オブ・バルセロナの木曜日午前中の予定でした。
バルセロナ-カタルーニャ・サーキットのメディアセンターからアライのトラックに行くと、古厩さんが迎えてくれます。さあインタビューを、と準備をしていると、ライダーやライダーのヘルパーが次から次にやって来るのです。
「忙しくなってしまいました」
忙しなく対応しながら申し訳なさそうな古厩さんに、また日時をあらためてと約束してトラックを出ました。
翌日、金曜日の午前中に再びアライのトラックを訪れれば、やっぱりインタビューの合間に小椋藍選手の家族が来たりもします。
そう言えば、以前にお邪魔したときには、日本人ライダーなどが続々と顔を覗かせていました。もちろん、その場には日本人としてMotoGPを取材するわたし(筆者:伊藤英里)も含まれています。アライのトラックは、サポートをするライダーたちはもちろん、MotoGPパドックという「外国」の中で、日本人のたまり場になっているようでした。
古厩さんは、元々はメカニックです。1987年からメカニックとして、ロードレース世界選手権(WGP)サイドカークラス、125cc、250ccクラスのチームで活躍してきたそうで、「ファミリーも多いんですよ」と言います。
グランプリが開催される週末、古厩さんがサーキットに入るのは、水曜日の朝かお昼ごろです。本格的に仕事が忙しくなるのは木曜日からで、新しいヘルメットが日本やペインターから届いたり、レース用に新しいバイザーを用意したりします。
走行、予選、レースがある金曜、土曜、日曜日は、ライダーあるいはライダーのヘルパーが、走行後にヘルメットを持ってきます。走行で汚れたり汗をかいたりしたヘルメットをきれいにして乾かし、バイザーを確認してティアオフ(ヘルメットのシールドに貼られる使い捨てフィルム。視界をクリアに保つことが目的)をつけます。そして、再び走れる状態にしてライダーに渡します。それを3クラス、走行後のたびに行なっています。
「例えば、マーベリック(・ビニャーレス)のヘルメットを持ってくるのは、彼のフィジオ(理学療法士)です。その人はフィジオ兼、(ビニャーレスの)身の回りのケアもしているんですよ」
ティアオフと言えば、オーストラリアGPでマルク・マルケス選手(当時グレシーニ・レーシングMotoGP)がスタート前のグリッド上でティアオフをはがし、それがマルケス選手のリアタイヤと地面の間に挟まって、スタートに影響した出来事がありましたが、実際のところ、「レースのときは、ライダーはほとんどティアオフをはがさないんですよ」と、古厩さんは言います。
「集中しているので、そんなことを気にしている暇がないんです。ダニ(・ペドロサ。2018年をもって現役を引退。現KTMテストライダー)が、ものすごく汚れたヘルメットで帰って来たときもありましたよ。“こんなんでよく走るね”っていうくらい! それくらい集中しているんです。
カル(・クラッチロー。2020年をもって現役を引退。現ヤマハテストライダー)がうちのヘルメットだったときも、(2018年の)アルゼンチンでそんなことがありましたよ。“よくこれで勝ったねえ”というくらい。全然前が見えないような状態だったんです」
また、「スペシャルヘルメット」があるレースウイークは、そのヘルメットが届くとFIMに持って行き、認証を受けたという印になるFIMのステッカーをもらいます。ソリダリティGP・オブ・バルセロナの場合は、小椋藍選手が日曜日の決勝レースをスペシャルヘルメットで走りました。
このスペシャルヘルメットは、小椋選手がタイGPでチャンピオンを獲得したときのチャンピオンヘルメットとは少し違っています。特に、上部の色がレーシングスーツと合わせるため、黒になりました。
「チャンピオンヘルメットは(上部が)青でしたよね。あれは藍も気に入っていたみたいですよ。あのヘルメットは、日本で色も考えてペイントしたものでしたね」