カワサキ初の4気筒「Z1/Z2」エンジンは他社と異なる設計思考!? 腰下組立て作業で見えたその特徴とは〜日本の至宝「空冷4発」を未来へ継承〜Vol.33

メイド・イン・ジャパンのモーターサイクルを代表する一台として、誰もが認める存在なのがカワサキ「Z1/Z2」シリーズです。1975年式750RSの中古車をフルレストア中で、いよいよエンジン腰下の組み立てが完了します。項目をひとつひとつの確認しながら進めていくフルレストアは大変ですが、充実感満点です。

メンテナンス性を重視したカワサキ初の4気筒エンジン

 今まさに、エンジン腰下の組み立て作業を進行していますが、カワサキのZ1E/Z2E型エンジンは、後の自社製を含めて、他メーカーの4気筒エンジンと比較しても、異なった設計思想であることがわかります。

威風堂々と言ったフォルムを持4本マフラー仕様のカワサキ750RS/Z2-A。年式的には、1973年モデルが「火の玉カラー」のZ2で、1974年式が「タイガー」カラーのZ2-A前記モデル。そしてこの「青玉虫/茶玉虫」が1975年モデルのZ2-A後期モデルになります。
威風堂々と言ったフォルムを持4本マフラー仕様のカワサキ750RS/Z2-A。年式的には、1973年モデルが「火の玉カラー」のZ2で、1974年式が「タイガー」カラーのZ2-A前記モデル。そしてこの「青玉虫/茶玉虫」が1975年モデルのZ2-A後期モデルになります。

 第一に挙げられるのが、組み立て式のクランクシャフトを採用している点です。カワサキ製初代4気筒シリーズの900 Super Four(Z1)と750RS(Z2)、そして、スズキ製初代4気筒モデルのGS1000系(GSX1000Sも同様)には、国産車としては珍しい組み立て式クランクシャフトが採用されていました (国外ではイタリアのMVアグスタ製の初代4気筒シリーズが組み立て式でした)。

 一体型クランクシャフト+プレーンメタルを組み合わせた現代的なクランクシャフトに対して、芯出し振れ取りがしっかりなされた組み立て式クランクシャフトの方が、圧倒的にフリクションロスが少なく、エンジンもスムーズに回る特徴があります。また、メタルへのオイル給油と比較して、油圧を高圧にする必要が無いベアリング式の方が、エンジンの心臓部であるオイルポンプ開発に対するハードルも下げることができます。

 アドバンテージがある一方で、クランクシャフトの軽量化には不向きで、圧倒的なコスト高にもなってしまいます。すでに先行発売されていたホンダCB750FOURが、一体型クランクシャフト+プレーンメタルであることを考えると、そこには明らかに設計思想の違いがあります。

 どちらが良いのかは、個人個人の考え方で異なりますが、少なからず言えるのは、一体型クランクシャフト+プレーンメタル方式の方が、量産性に適していて、コストダウンでは優位といえます。現代の最新鋭エンジンの構造を見れば、それは確かだと頷くことができます。

 メカニックの目線から見ると、興味深い印象もあります。それが「メンテナンス性」の良さです。他のエンジンでは見られない、メンテナンス性に配慮された設計でした。単純な上下2分割式クランクケースではなく、エンジン左右が前後ともにカバー構造となっています。

 一般的にエンジン腰下は、上下クランクケース+オルタネーターカバー+クラッチカバーの4点構成になります。一方、Z1E/Z2E系エンジンは、前述の4点にプラスして、点火系のポイントケース(右エンジンカバー)やミッションケースもカバー構造となっていました。右側に転倒してしまい、ポイントケースが欠損しても、クランクケース交換ではなく、ポイントケースのみ交換できる構造でした。

 また、ミッションシフトの入りが悪い時に、ミッションケースカバーを外すことで、内部の状況を目視確認でき、しかもシフトフォークやフォークスピンドルは、エンジンを分解せずに交換できる構造でした。エンジン腰下の組み立て作業を通じて、改めてメンテナンス性の良さを再認識しました。

 今回も作業に関する注意点などは写真とキャプションでレポートしていますので、そちらを参照してください。

【画像】ついに腰下の組立が完了!! カワサキ「Z2」エンジン組立の様子を画像で見る(30枚以上)

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Writer: たぐちかつみ

フリーランスライター。バイクも作る国内自動車メーカーの生産技術開発部門を経てから大人向けのバイク専門誌「クラブマン」誌へ合流。同誌のメンテナンスコーナーが縁で、1995年春には「モト・メンテナンス」誌を創刊し編集長を務めた。同誌休刊後の2019年秋からは、内外出版社にて「モトメカニック」誌を創刊。現在も同誌編集長を務めている。

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