レーダーではなく人間と同じ2つの目「ステレオカメラ」で前方検知! スピードバンプも認知!! 2輪車用先進運転支援システムの最先端を知る!!
バイク用の先進的な電子制御テクノロジーはまだまだ今後、次々に登場する模様です。Astemo(アステモ)のメディア向け技術説明会に参加したバイクジャーリストの青木タカオさんが、メーカーがまだ採用する前段階の最新電子技術を開発拠点からレポートいたしましょう!
経営統合で巨大企業になった恩恵
自動でブレーキを操作したり、車線から逸脱しそうになった際に警告してくれるアシスト機能が、四輪車では普及が進む先進運転支援システム「ADAS(Advanced Driver Assistance Systems)」です。

2024年11月のEICMA(イタリア・ミラノモーターサイクルショー)にて、Astemo(アステモ)が開発した世界初の2輪車用路面検知機能を発表。半年が経った今年の5月下旬、すでに実用段階に入っていることがわかりました。
Astemoは日立オートモーティブシステム、ケーヒン、ショーワ、日信工業(ニッシン)が経営統合し、クルマやバイクにおける先進的なモビリティソリューションを創出するメガサプライヤーです。
我々バイク乗りにとっては、馴染み深いブランド名がズラッと並んでいます。2021年に誕生し、エンジンからブレーキ、電子制御部門に至るまで幅広い事業を展開し、世界中に拠点を置きます。2025年4月1日から社名は、日立AstemoからAstemoに変更されました。
日立オートモティブシステムズは、四輪自動車の先進運転支援システム「ADAS(Advanced Driver Assistance Systems)」向けにステレオカメラを開発・提供し、広い視野角と遠方検知能力を両立することで、交差点での衝突被害軽減ブレーキ(AEB)やアダプティブクルーズコントロール(ACC)などの機能を実現してきた実績を誇ります。
となれば「バイクにも!」と、期待せずにはいられません。「もちろんですとも!」と言わんばかりに、これまで毎年11月に行われるEICMA(イタリア・ミラノモーターサイクルショーショー)で、二輪用車ADASを2022年から23年、24年と続けて発表してきました。
標識やセンターラインも認識できる
先行車との車間距離を維持しながら追従走行を支援するACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)。二輪車では他社がミリ波レーダーを用いるのに対し、Astemoでは人間の目と同じ2つのステレオカメラで検知します。

Astemoの開発担当者は「ステレオカメラなら標識やセンターラインの認識もできます」と、胸を張ります。
左右2つのカメラで捉える視差により、対象物の有無やその距離はもちろんのこと、大きさや形状、さらには重なり合った複数の対象物が、より正確に認識することができるのです。
四輪技術で培った技術と知見を活かして、バイクにも応用。ステレオカメラとADAS用ECUを一体化したシステムをバイクに搭載することを実現しました。
EICMA2022と2023で発表した前方検知用ステレオカメラを使ったADASの機能を維持しつつ、最新バージョンでは二輪車では初の路面検知(バンプ検知)機能を得ています。

危険な路面を事前に検知することで、ライダーへの注意喚起に加え、他の電子制御デバイスと連携することで、ライダーと車体の安全性向上に貢献します。
日本でも生活道路などで見かけますが、欧州やアジアでは市街地での速度抑制のために「スピードバンプ」あるいは「ハンプ」と呼ばれる一部を隆起させた構造物が道路に配置されています。
これらの設置は通過するクルマのスピードを落とす効果があり、比較的低コストであることから、住宅街で住民や児童を守るのに非常に効果的と言えます。話しは逸れますが、欧州のように日本でももっと設置していくべきだと筆者は考えます。
ただし、スピードを上げて生活道路を走る四輪車に対策したものであり、これに気づかず二輪車が通過すると、バランスを崩しやすく危険な場合もあります。
Astemoでは前方検知機能に新たに路面検知(バンプ検知)機能を2輪車用ADAS機能として世界で初めて追加しました。
おそらく、製品化も間近なのでしょう。栃木県にあるAstemoのテストコースにて、ADASを筆者が体験できるというお話をいただいていたのでした。

前車との車間距離を保ちつつ(速度調整して)追従するACCはもちろん、危険を検知すると作動するFCW(Forward Collision Warning Warning=前方衝突警報)や、ライダーのブレーキ操作をサポートするEBA(Emergency Brake Assist=緊急ブレーキアシスト)、それでもブレーキ入力が甘い時にブレーキ操作に強制介入するAEB(Automatic Emergency Braking Braking=自動緊急ブレーキ)を搭載します。
二輪車はライダーが急減速の準備なしに強くブレーキをかけると危険を伴うため、ブレーキへの介入を最適化させることは難易度が非常に高いのですが、ついにAstemoはジャーナリストが乗っていい段階まで開発を進めていることが今回わかりました。

しかし筆者の、日頃のおこないが悪すぎたのでしょう。あいにくの雨天(時々やむ)。車載システムの防水性がまだ完全ではないことから、残念ながら試乗はお預けとなってしまいました。
それでも、シミュレーターでステレオカメラを使った二輪車用ADASをバーチャル体験。レーダーではなく、ステレオカメラでのACCおよびADASが、まもなくニューモデルに搭載されるのではないかと、期待するばかりです。
フォークとキャリパーが一体化!?
SHOWAとNISSINが手を組んだからこそ生まれた一例がコレ! 共同開発のサスペンション&ブレーキシステムは常識を覆す形状です。

倒立式フロントフォークのボトムにあるアクスルホルダーが伸びて、なんとブレーキキャリパーをそのまま連結しているではありませんか!!
Astemoの担当者は、フロントフォークアクスルとブレーキキャリパーの機能協調デザインをコンセプトに掲げた「Harmonized Function Design(ハーモナイズド・ファンクション・デザイン)」と説明してくれます。

締結部品が削減されることによる軽量化と放熱効果にメリットが大きく、従来品に対し、バネ下重量を123グラム軽量化(締結部品の削減含むシステム重量1,449g→1,326g)。
フロントフォークのアクスルホルダーと、ブレーキキャリパーの接触面積を30%増加させたことで、ブレーキの発する熱をフロントフォーク側へ放熱させるヒートシンク効果を拡大することを実現し、キャリパーの平均温度を5%低減しています。

サスペンションのSHOWA、ブレーキのNISSIN、双方のメンバーが共同解析をおこない、究極の性能を追求した結果、アクスルホルダーとブレーキキャリパーに必要な剛性を確保した上で最適な形状を設計したのです。
このように、スペシャリストの集合体となったAstemoの技術力を目の当たりにしましたが、ステレオカメラを使ったバイク用ADASの試乗ができなかったことだけはやはり心残りです。
また近いうちに機会を得て、リベンジのレポートをしたいと思います。楽しみです!!

Writer: 青木タカオ(モーターサイクルジャーナリスト)
バイク専門誌編集部員を経て、二輪ジャーナリストに転身。自らのモトクロスレース活動や、多くの専門誌への試乗インプレッション寄稿で得た経験をもとにした独自の視点とともに、ビギナーの目線に絶えず立ち返ってわかりやすく解説。休日にバイクを楽しむ等身大のライダーそのものの感覚が幅広く支持され、現在多数のバイク専門誌、一般総合誌、WEBメディアで執筆中。バイク技術関連著書もある。