「ビースト」なのにジェントルマン? ライバル勢とは方向性が異なるKTM「1390スーパーデュークRエボ」の特徴とは フロントマスクのデザインも独創的!?

2024年型で排気量を1350ccに拡大した水冷75度V型2気筒エンジンを搭載するKTM「1390 SUPER DUKE R EVO」は、2005年から続く「スーパーデューク」シリーズの最新モデルです。一体どのように進化したのか、試乗しました。

ライバル勢とは異なる素性と変遷

 2005年から展開が始まったKTMの「SUPER DUKE(スーパーデューク)」シリーズは、近年かなりのハイペースでモデルチェンジを行っています。具体的な話をするなら、初代の構成に決別する形で2014年にデビューした「1290スーパーデュークR」は、2017年型でエンジンと電子制御を中心とした仕様変更、2020年型ではシャシーの全面刷新を行い、2022年には上級仕様の「EVO(エボ)」を追加しました。

KTM「1390 SUPER DUKE R EVO」(2024年型)に試乗する筆者(中村友彦)
KTM「1390 SUPER DUKE R EVO」(2024年型)に試乗する筆者(中村友彦)

 そして2024年からは、当記事で紹介する「1390 SUPER DUKE R EVO(1390スーパーデューク・アール・エボ)」の発売が始まっています(日本市場では「EVO」のみ販売。価格は283万4000円・消費税10%込み)。他メーカーの大排気量スポーツネイキイッドで、ここまで頻繁な改革を行っている事例は存在しないでしょう。

 なお、近年の大排気量スポーツネイキッドはスーパースポーツをベースに開発するのが一般的で、ドゥカティ「ストリートファイターV4」は「パニガーレV4」、BMW Motorrad「S 1000 R」、「M 1000 R」は「S 1000 RR」、「M 1000 RR」、アプリリア「トゥオーノV4ファクトリー」は「RSV4ファクトリー」、ヤマハ「MT-10」は「YZF-R1」の基本設計を転用しています。

 そういった視点から見ても、スーパーデュークシリーズは異例の存在と言っていいのかもしれません。何と言っても、初代の開発ベースはパリ-ダカレーサーレプリカの「950アドベンチャー」で、2014年型以降はエンジンの基本設計をスーパースポーツの「RC8/R」から転用しながらも、当初から排気量の拡大を筆頭とする大幅刷新を行い、シャシーは一貫して専用設計なのですから。

 ちなみに、トライアンフ「スピードトリプル1200」もスーパースポーツが開発ベースではありませんが、速さにかける情熱や最先端電子デバイスに対する積極性という面では、KTMの方が上ではないかと思います。

約60%の部品を新規開発

 外観で目を引くのは、従来型以上にアグレッシブなデザインになったフロントマスクですが、「1390スーパーデュークRエボ」は約60%の部品が新規開発です。

 先代と同様の構成を維持するメインフレームやセミアクティブ式のWP製前後ショック、豊富なメニューを揃える電子デバイスなども、先代とは別物に進化しています。

 ただしこのモデルで最も注目するべき要素は、排気量を1301ccから1350ccに拡大すると同時に、吸気側に可変バルブタイミング機構を導入した水冷75度Vツインのエンジンでしょう。

 そういった変更に加えて、ラムエアシステムやエアクリーナーボックス、スロットルボディなどを見直し、先代モデルを10psも上回る190psの最高出力を獲得しました。

より速く、より快適に

 2014年以降のスーパーデュークシリーズは、「The Beast」というキャッチフレーズを継続して使用しています。確かに、このシリーズの乗り味は「猛獣」を思わせるところがありますが、一方で、市街地の移動やツーリングに気軽に使えるほど紳士的な資質を備えていたのです。

KTM「1390 SUPER DUKE R EVO」(2024年型)
KTM「1390 SUPER DUKE R EVO」(2024年型)

 そういったキャラクターは「1390スーパーデュークRエボ」も同様ですが、先代と比較するなら、より速く、より快適になっています。と言うより、今回の試乗中に前述した他メーカーの大排気量スポーツネイキッドと脳内比較を行った私(筆者:中村友彦)は、速さと快適性の両立という見方なら、このモデルがナンバーワンじゃないか? と感じました。

 その理由の筆頭として私が挙げたいのは、エンジンの低中回転域の力強さと扱いやすさです。絶対的なパワーではドゥカティ「ストリートファイターV4」やBMW Motorrad「M 1000 RR」に及ばなくても、最高出力発生回転数がライバルの3気筒・4気筒勢より低く、最大トルクがライバル勢を大幅に上回る「1390スーパーデュークRエボ」は、頑張ってエンジンを回さずとも速い、という印象なのです。

 以下に記す各車の最高出力と最大トルクを見れば、ライバル勢とは方向性が異なる「1390スーパーデュークRエボ」のエンジンの資質が理解できるでしょう。

「1390スーパーデュークRエボ」
190ps/10000rpm・14.8kg-m/8000rpm

「ストリートファイターV4」
214ps/13500rpm・12.2kg-m/11250rpm

「M 1000 RR」
210ps/13750rpm・11.5kg-m/11000rpm

「スピードトリプルRS」
180ps/10750rpm・13.05kg-m/8750rpm

「トゥオーノV4ファクトリー」
175ps/11350rpm・12.3kg-m/9000rpm

「MT-10」
166ps/11500rpm・11.4kg-m/9000rpm

 エンジンに続いて私が述べたい「1390スーパーデュークRエボ」の魅力は、悪路・悪天候や勝手を知らない道への適応力です。と言ってもこのモデルはオンロードバイクで、KTMが広報に使用する写真と動画はクローズドコースがほとんどなのですが、もともとがオフロードメーカーだからでしょうか、「1390スーパーデュークRエボ」の車体は環境の変化に柔軟に対応できるのです。

 そういった特性の構築にはいろいろな要素が絡んでいるのですが、私が重要と感じたのは前後ホイールトラベルです。ライバル勢の数値がフロント120~125/リア120~135mmであるのに対して、「1390スーパーデュークRエボ」はフロント125/リア140mmです。その数値をどう感じるかは人それぞれですが、わずかな長さには、KTMのこだわりが表れているように思います。

 冒頭で述べたように、近年のスーパーデュークシリーズはハイペースでモデルチェンジを行っています。その事実は裏を返せば、次のモデルチェンジでさらに進化するのが怖くて購入しづらい……という状況を招いていたような気がしますが、「1390スーパーデュークRエボ」を体験した私は「シリーズの完成形」という言葉を頭に思い浮かべ、今が買い時かも? という印象を抱きました。

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Writer: 中村友彦

二輪専門誌『バイカーズステーション』(1996年から2003年)に在籍し、以後はフリーランスとして活動中。年式や国籍、排気量を問わず、ありとあらゆるバイクが興味の対象で、メカいじりやレースも大好き。バイク関連で最も好きなことはツーリングで、どんなに仕事が忙しくても月に1度以上は必ず、愛車を駆ってロングランに出かけている。

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