謎だらけ!? 元祖ユニカムエンジンを搭載するホンダ初の4ストロークモトクロスマシン「CRF450R」(プロトタイプ)爆誕!!
環境問題がレースマシンにも及んだ2000年に登場したホンダ初の4ストロークモトクロスバイク「CRF450R・プロトタイプ」は、元世界チャンピオンのトーテリ選手のライディングで全日本選手権に出場し、見事デビューウインを飾りました。
新時代4ストロークエンジンは謎だらけ!?
モトクロスは世界各国で高い人気を誇るモータースポーツです。プロのレースを観戦するだけでなく、多くのアマチュアライダーがレースを楽しんでいます。そのためモトクロスバイクは競技専用車でありながら、誰でもバイクショップで購入することが可能で、世界全体市場ではバイクメーカーに大きな売り上げをもたらしています。

現在のモトクロスバイクは4ストロークエンジンが主流ですが、クローズドコースを走行する競技としてのモトクロスは今でも2ストローク車で参加できます。
しかし1990年代からコース以外の山野や荒野も走るオフロードバイクは、環境問題への対応(具体的には2ストロークエンジンから4ストロークエンジンへの切り替え)が求められていました。この流れを受けて、モトクロスを含むオフロードバイク業界全体が4ストロークエンジンへと傾いて行きます。
ホンダは当時、競技用には2ストロークの「CR」シリーズ、オフロードには4ストロークの「XR」シリーズを販売していました。しかし時代の要請を踏まえ、排出ガス中に有害物質がより少ない4ストロークエンジンの新型モトクロスバイクを開発します。それが「CRF450R・プロトタイプ」です。
登場したのは2000年の全日本モトクロス選手権の最終戦でした。噂が噂を呼んで、ホンダ4ストロークモトクロスバイクのデビュー戦を一目見ようと、2万人以上のファンがレース会場に訪れました。
この時点ではまだ車両について詳細が明かされていませんでした。レースには出場するものの、車両が一般の観客に見える状態では展示されることもなく、車名もまだ不明で、「CRF450R」と決まったのは後々の事です。大袈裟に言うと、ベールに隠された謎のマシンでした。
当時のレース現場では少ない情報に振りまわされて、DOHCなのかSOHCなのか? はたまたデスモドロミックなのか? 排気量は? と予想百出という状態でした。
4ストロークエンジンであること、排気量は400ccから450ccの間という情報だけが公開されました。この時期に世界選手権を主催するFIMは、2ストローク250ccクラスには4ストローク450ccまで出場可能という排気量格差の新規則を策定中で、今になって振り返れば、満を持してホンダから450ccクラスの4ストローク車が登場、というタイミングだったわけです。

デビュー戦のライダーを務めたのは、元世界チャンピオンのセバスチャン・トーテリ選手でした。レースはぬかるんだ路面コンディションの難しい中、4ストロークのトルクを生かした走りでトーテリ選手はヒート1で優勝し、「CRF」シリーズの船出に花を添えました。
2001年に発売された市販バージョンの「CRF450R」は、吸排気バルブに「ユニカム」と呼ばれるシステムを採用しています。ユニカムは高回転でもバルブが正確に作動するDOHCと、エンジン上部がカムシャフト1本分(回転してジャイロも発生しています)軽量になるSOHCの良い所取りのような構造です。
モトクロスはそれまで2ストロークエンジンで行われていたため、エンジン上部付近の重量がライディングに及ぼす影響も大きく、ホンダは独自のメカニズムであるユニカムを採用しました。
「CRF」シリーズは2003年に「CRF250R」、2006年には子供や初心者にも扱いやすい「CRF150R」も、ユニカムシステムのエンジンを搭載して登場しました。高回転域が重要な「CRF250R」は2018年型からDOHCへ変更しますが「CRF450R」は20年以上ユニカムを使用し、世界トップレベルのレースで活躍しています。
このユニカムは現行の「CRF1100Lアフリカツイン」や「レブル1100」、「ゴールドウイング」、「CB750ホーネット」などのエンジンにも採用されています。
すでに何万台ものホンダ車に採用されているユニカムエンジンの、最初の1台がこの「CRF450R・プロトタイプ」なのです。
■ホンダ「CRF450R・プロトタイプ」(2000年)主要諸元
エンジン種類:水冷4ストローク単気筒SOHC4バルブ
総排気量:449.4cc
乾燥重量:102kg
【取材協力】
ホンダコレクションホール(栃木県/モビリティリゾートもてぎ内)
Writer: 柴田直行
カメラマン。80年代のブームに乗じてバイク雑誌業界へ。前半の20年はモトクロス専門誌「ダートクール」を立ち上げアメリカでレースを撮影。後半の20年は多数のバイクメディアでインプレからツーリング、カスタムまでバイクライフ全般を撮影。休日は愛車のホンダ「GB350」でのんびりライディングを楽しむ。日本レース写真家協会会員








