アフリカの砂漠を夢見るライダーへ捧げる ホンダ「アフリカツイン」のロマンと走行性能とは
アフリカの砂漠を1万km走破するパリ-ダカール・ラリーと、長距離を旅するオフロードライダーの夢が重なったホンダ「アフリカツイン」(1988年型)は、スタイルだけでなく冒険を支える本格的な装備と走行性能を持ったホンモノのアドベンチャーバイクでした。
昭和生まれの初期型は、砂漠を走り切るための「ガチ」な機能を標準装備
ホンダ「CRF1100Lアフリカツイン」は、現在のアドベンチャーバイク市場で人気モデルの1台です。今やツーリングバイクの代名詞となったアドベンチャーバイクですが、1980年代の国内では少数派に愛される、マニアックな存在でした。

1988年にリリースされ、アドベンチャースポーツという新しいコンセプトを具現化した初代「Africa Twin(アフリカツイン)」のストーリーは、「世界一過酷なラリー」と称されるパリ-ダカール・ラリー(パリダカ)から始まります。
フランスのパリからアフリカ大陸のセネガルのダカールまで、総走行距離1万kmを走破する過酷なアドベンチャーラリーでした。
当時のオフロードファンは、砂漠を走破するパリダカの壮大なバイクロマンに夢中になりました。その創世記とも言える1982年に、ホンダは当時世界トップレベルのオフロード性能を持っていた「XR500R」を改造したバイクで優勝します。
パリダカでの優勝はタフで走破性の高い、高性能なバイクである証明となり、世界中に向けた有効な宣伝効果がありました。多数のバイクメーカーが参戦して優勝争いが厳しくなる中、ホンダはワークスマシン「NXR750」で再びパリダカに参戦し、4年連続優勝を成し遂げました。
一般的に、競技用オフロードバイクは比較的短時間での走行中に性能を発揮できる車体構成となっています。簡単に言えば飛んだり跳ねたりが得意で、エンジンは単気筒でカウリングは無く、シンプルで軽量な車体です。
一方、パリダカで必要なのは長距離を無給油で走り切れる大きな燃料タンク、ライダーを走行風から守るカウリング、砂山を登るパワーと巡航速度を稼ぐために大きなエンジンも必要でした。
ワークスマシン「NXR750」はそれまでのオフロードバイクと全く違う、現在のアドベンチャーバイクの様な姿をしていました。アフリカの砂漠を制した「NXR750」のノウハウをフィードバックし、市販アドベンチャーバイクとして開発されたのが、初代「アフリカツイン」なのです。
ライダーを疲れさせないために、そして長距離を安全に走り切るためのスタイリングや装備を持った「アフリカツイン」は、欧州を中心に冒険心を刺激された長距離ツーリングライダーの間で人気となりました。

搭載されるエンジンは排気量647ccの水冷V型2気筒で、バランサー無しでも振動を低減できるホンダ独自の位相クランクを採用し、1気筒あたり3バルブ2プラグ方式です。
フレームは軽量、高剛性の角型断面ダブルループタイプです。フロントフォークは当時のオフロードバイク最大径となる43mmのインナーチューブと、エアアシスト機構を装備して220mmのストロークを確保しています。フロントホイールサイズは本格オフロード車と同様の21インチです。
「アフリカツイン」の最も印象的な特徴は、24Lの大容量燃料タンクと、一体化されたフレームマウントのカウリングです。丸目のデュアルヘッドライトと相まって、ワークスマシン「NXR750」とイメージが重なります。
「アフリカツイン」は公道を走るツーリングバイクでしたが、発売翌年からパリダカの市販車無改造クラスに出場し、2年連続クラス優勝するなど、実際の砂漠でもその高性能をアピールしました。
国内でも販売され、1990年のモデルチェンジの際に742ccへ排気量アップと車体の見直しが行われ、1993年にもフルモデルチェンジしています。初期型からここまでが「アフリカツイン」第1期で、同モデルは2001年で生産を終了しました。
現行モデルにつながる第2期「CRF1000Lアフリカツイン」がデビューするのは、15年後の2016年です。
ホンダ「アフリカツイン」(1988年型)の当時の販売価格は74万9000円です。
■ホンダ「Africa Twin」(1988年型)主要諸元
エンジン種類:水冷4ストロークV型2気筒SOHC6バルブ
総排気量:647cc
最高出力:52PS/7500rpm
最大トルク:5.7kg-m/6000rpm
全長×全幅×全高:2310×900×1325mm
シート高:880mm
始動方式:セル
燃料タンク容量:24L
車両重量:221kg
フレーム形式:セミダブルクレードル
タイヤサイズ(F):90/90-21 54S
タイヤサイズ(R):130/90-17 68S
【取材協力】
ホンダコレクションホール(栃木県/モビリティリゾートもてぎ内)
Writer: 柴田直行
カメラマン。80年代のブームに乗じてバイク雑誌業界へ。前半の20年はモトクロス専門誌「ダートクール」を立ち上げアメリカでレースを撮影。後半の20年は多数のバイクメディアでインプレからツーリング、カスタムまでバイクライフ全般を撮影。休日は愛車のホンダ「GB350」でのんびりライディングを楽しむ。日本レース写真家協会会員












