MotoGPレーシング・サービス・インタビュー ロッシによって改良されたAGVヘルメットの「視界」

MotoGPライダーにヘルメットを供給する「AGV」の、パドックでのレーシング・サービスについて、サンマリノGPで取材しました。インタビューしたのは、AGVを傘下とするダイネーゼのレーシング・ディレクター、マルコ・パストーレさんです。

MotoGPパドックで行われているAGVのレーシング・サービス

 イタリアのヘルメットメーカーである「AGV」を使用するライダーは、2025年シーズン現在、全クラス(MotoGP、Moto2、Moto3クラス)合わせて8名です。MotoGPクラスでは、ルカ・マリーニとマルコ・ベツェッキ、フランコ・モルビデリがAGVユーザーとなります。

サービストラック内で行われているヘルメットのレーシング・サービス(c)Eri Ito
サービストラック内で行われているヘルメットのレーシング・サービス(c)Eri Ito

 この3名は、「DAINESE(ダイネーゼ)」のレザースーツとグローブ、ブーツも使用しています。

 いきなり余談になりますが、ヘルメットからレザースーツまで装具一式を扱うダイネーゼは、「トータルコンセプト」を重視しており、ヘルメットはレザースーツと調和するものになっているということです。エアロダイナミクスの重要性は、レザースーツやヘルメット、ブーツといった装具にも及んでいます。これは、ダイネーゼの強みであり、ダイネーゼだからこそできる作り方であると言えます。

 そんなAGVヘルメットのMotoGPにおけるレーシング・サービスは、ダイネーゼのサービストラック内で行われています。

 ダイネーゼのサービストラックのスタッフは、ヨーロッパラウンドの場合、今回話を伺ったレーシング・ディレクターであるマルコ・パストーレさんを含めて6人で構成されています。AGVヘルメットのレーシング・サービスを担当するのは、そのうちの1人です。

 ライダーが使用するのは、AGVヘルメットの「PISTA SP RR」です。多くのヘルメットメーカーがそうであるように、AGVもまた、プロトタイプではなく市販されているヘルメットと同じものをライダーに供給しています。

 MotoGPライダーの場合、1人あたり3~4個のヘルメットが準備されています。Moto2、Moto3ライダーの場合は、通常3個です。

 水曜日にサービストラックがサーキットのパドックに入り、設営を行います。木曜日には、すでにレーシング・サービスを行う準備が整っている状態です。金曜日になると、走行が始まります。

「各セッションの後にはヘルメットがトラックに戻ってきますので、シールドやティアオフの交換、クリーニング、乾燥などの手順で整備します。ライダーがコースに出るたびに、すべての装備が常に100%の状態で完璧に準備されていなければなりません」と、パストーレさんは週末の基本的なレーシング・サービスについて説明しています。

 いつでも起こりうる「変更」と言えば、天候です。

「雨が降り始めた場合、ライダーはウエットコンディション用のヘルメットが必要になります。その場合、異なるシールドやベンチレーションを備えた仕様に切り替える必要がありますね。ただ、ヘルメットのサイズ自体はシーズンを通して変わりません」

 と言っても、イレギュラーもあります。例えば、フランコ・モルビデリ(プルタミナ・エンデューロVR46・MotoGPレーシングチーム)です。

「以前、フランコ・モルビデリの髪の毛が長かった時期がありました。その後すべてカットしたのですが、そうすると、ヘルメットの中で少し感覚が変わったんですね。そこで内部のパッドを少しだけ調整する必要がありました」

 これは私たち一般のバイク乗りにも理解できます。髪を切ったあと、ヘルメットが少しゆるく感じたことがある人も少なくないでしょう。まして、最高速300km/h以上で走るMotoGPライダーのヘルメットの調整ですから、シビアであるに違いありません。

「それ以外では、ベンチレーションに関する要望が出ることがあります。風の流れを制限したり、完全に遮ったり、あるいは通気性を保ったり。ライダーの好みに応じて調整するんです」

ルカ・マリーニとバレンティーノ・ロッシの開発能力

 AGVを使用するMotoGPライダーでは、「ルカが非常に正確で、とてもプロフェッショナルです。いつも的確で詳細なフィードバックをくれます」と、パストーレさんは言います。

ダイネーゼのレーシング・ディレクター、マルコ・パストーレさん(c)Eri Ito
ダイネーゼのレーシング・ディレクター、マルコ・パストーレさん(c)Eri Ito

「もちろん、フランコとマルコもまた、細部に注意を払うトップライダーたちです。ただ、彼らはもう少しリラックスしていて、“ヘルメットは大丈夫、さあ行こう”というタイプになるでしょう。もちろん、何か問題や不具合があれば、彼らもこちらに来て調整を依頼しますよ」

「ただ、“開発面で私たちを最も助けてくれているライダーは誰か”と聞かれたら、それはルカですね。彼は最高の1人です」

 これは、マリーニの才能であり、キャラクターなのでしょう。実際のところ、囲み取材で走行やマシンの質問をすると、マリーニの回答はとても詳細であることが多いからです。

 ちなみに、マリーニの異父兄である通算9度の世界チャンピオンに輝いたバレンティーノ・ロッシも、もちろんAGVライダーでしたが、パストーレさんによるとロッシの要望によってヘルメットが改良されたということです。

「彼(ロッシ)は特にヘルメットの視界を重視していました。AGVとは、ヘルメット開発の面で非常に大きな取り組みを行ったんです。当初のヘルメットは視界が狭かったのですが、今では“アクチュアル・ヴィスタ(実際の視野)”が、過去と比べて圧倒的に広くなっています」

「こうした改良も、バレンティーノからのリクエストによって生まれたものなんです。彼が要望を出し、私たちはそれを実現しようと努めてきました。最終的な結果はいいものになりました。もちろん、私たちも満足していますよ」

 マリーニのフィードバックの才能もまた、ロッシに通じるものなのでしょうか。実際のところは分かりませんが、パストーレさんのお話からは、近しいものを感じます。

 視界と言えば、雨の日の走行で発生する「曇り」があります。パストーレさんは「私たちのバイザーは非常に優れた曇り止めシステムを備えており、性能は本当にいいものです」と言います。

「その点に関して言えば、近年、AGVは大きく改良を重ねてきました。以前はトラブルが起こることもありましたが、今では私たちはその仕上がりにとても満足しています」

「私たちのヘルメットのホモロゲーションや認証試験、つまり社内ラボでのテスト結果は、基準をはるかに上回っています。現行の規定に照らしても、私たちは可能な限り最高レベルの安全性を提供していると言えますよ」と、パストーレさん。

 AGVヘルメットは、ダイネーゼのレザースーツや装具とともに、ライダーたちの世界最高峰の戦いをサポートし、守っています。

【画像】コレがサービストラック内部です!! 「AGV」ヘルメットを使用するMotoGPライダーを画像で見る(9枚)

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Writer: 伊藤英里

モータースポーツジャーナリスト、ライター。主に二輪関連記事やレース記事を雑誌やウエブ媒体に寄稿している。小柄・ビギナーライダーに寄り添った二輪インプレッション記事を手掛けるほか、MotoGP、電動バイクレースMotoE取材に足を運ぶ。

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