“知る人ぞ知る”的な日本製並列4気筒車とハンドメイドのドイツ製スーパースポーツ 2026年春の『T.O.T.』に参戦したオンリーワンの4ストローク車
国内最大の草レースとして知られる「T.O.T.(テイスト・オブ・ツクバ)」には主力と言うべきモデルが存在しますが、2026年5月の「SATUKI STAGE」で見つけた、主力ではない作り手の強いこだわりが感じられる希少車を紹介します。
多種多様な参戦バイクの中で唯一の存在だった希少車
国内最大の草レースとして知られる「T.O.T.(テイスト・オブ・ツクバ)」には、主力と言うべきモデルが存在しますが、2026年5月の「SATUKI STAGE」を取材した筆者(中村友彦)は、そういった主力モデルではなく、作り手の強いこだわりを感じる希少車に惹かれました。

ホンダ「CBX750F」馬力差をコーナリングスピードでカバー
2005年からZERO-1クラスに参戦し、近年は表彰台の常連になっている赤嶺正弘さんの愛機は、1983~1985年にホンダが販売した「CBX750F」です。デビューイヤーにモリワキのアルミフレーム車が全日本TT-F1を制しましたが、前任の「CB750F」や、同時代の「VF750F」と比較すると、インパクトがいまひとつだったこの車両で、T.O.T.にエントリーするライダーはほとんど存在しません。

「私がCBX750FでTOTに出ようと思った理由は、たまたまウチにあったから……ですね(笑)。もちろん、さすがに20年以上も続けているので、今はかなりの愛着を感じていますが、参戦当初を振り返ってみると、このモデルに思い入れがあったわけではないんです」
赤嶺さんが「CBX750F」をレーサーに仕立てていく際に、問題になったのはチューニングパーツの少なさです。しかもこのモデルは、ナナハン専用設計で抜本的な仕様変更を行わなかったため、同じクラスに参戦するヤマハ「FZ750」やカワサキ「GPz750R」、「GPX750」などのように、兄弟車・後継車用パーツの流用もできません。
「足まわりは全面刷新したので問題ないですし、同系エンジンを搭載するCB750(RC42)が1992年から2008年に生産されていたので、エンジンの補修部品で困ることはあまりないのですが、パワーアップの要になるカムシャフトやバルブ、ピストンは選択肢がないんですよ」
もっとも、他機種用のピストンを用いて排気量を860ccに拡大し、吸排気系や点火系などに手を加えた赤嶺さんの「CBX750F」は、現在は103psの最高出力を獲得しています。
ただしその数値は、ZERO-1クラスの上位陣と比べると10~20psほど低いのですが、赤嶺さんは馬力差をコーナリングスピードでカバーしています。
「最近の問題は、エンジンの油温です。オイルクーラーを2つ装着しているのですが、気温が高い日だと、アッという間に130℃近くにまで行ってしまうので、せめて120℃以下には抑えたい。それが実現できれば、さらに上位を狙えそうな気はしますね」
スズキ「RF400R」草レースはバラエティ感が欲しい
2013年からT.O.T.参戦を開始した山口大輔さんは、当初はホンダ「GL400」、2021年からはスズキ「バンディット400」を愛機とし、20025年からはスズキ「RF400R」でZERO-4クラスに参戦中です。その車種からわかるように、山口さんは他車とは異なることを重視しています。

「サーキット向きではない、変な車両で目立ちたいのかと言うと、必ずしもそうではないですけど、やっぱり草レースはバラエティ感が欲しいじゃないですか。同じような車両ばかりが走っていると、見ている方はあまり面白くないですからね。それに加えて僕の中には、各クラスの主力になっている速いバイクでなくても、レースが楽しめることを証明したい気持ちがあるんです」
そう語る山口さんではありますが、「GL400」と「バンディット400」をレーサーとして仕上げた知識と技量を持ってしても、「RF400R」には難しさを感じるようです。
「RFのキャラクターはスポーツツアラーですが、スチールフレームはツインスパータイプで、エンジンのベースはバンディット400なので、当初は結構イケるんじゃないか……と思っていました。でもサーキットを走ってみたら、ハンドリングはどっしり安定していて、エンジン特性はバンディット400とは別物でした(笑)」
「RF400R」の戦闘力を手早く高める手段として、現在の山口さんが考えているのは車体各部の軽量化です。ただし、このモデルの最大の特徴にして、往年のフェラーリ・テスタロッサを思わせるサイドフィン付きのフェアリングだけは、絶対に交換するつもりはないようです。
クラウザー「MKM1000」走ることに価値を感じている
T.O.T.の主力は日本の旧車ですが、クラスによっては外車も参戦することが可能です。そして2025年以降のT.O.T.で最も注目を集めている外車は、OHV2バルブ時代のBMWボクサーツインを得意とする、『DSDMC』の堀江晋一さんが手がけた、クラウザー「MKM1000」でしょう。

ちなみに「MKM1000」は、ツーリングバッグで有名なドイツのクラウザー(Krauser)が(創始者のミヒャエル・クラウザーは1950年代にサイドカーレーサーとして数々の栄冠を獲得)、1980年から販売を開始したハンドメイドのロードゴーイングレーサーで、航空機の世界で名を馳せたメッサーシュミットの手によるバードケージフレームに、「R 100 RS」用のボクサーツインを搭載しています。
「このレーサーが生まれたきっかけは2つあって、1つ目はMKM1000用フレームのストックがウチにあったこと、2つ目は古くからの友人である清水さんのドゥカティ900MHRにトラブルが発生して、サーキットを走れなくなったことです。だったら、ウチのストックパーツをかき集めて、MKM1000レーサーをゼロから一緒に作りましょうという展開になったんです」(堀江さん)
現役時代には、ノーマルのBMWとは一線を画する運動性や軽さが高く評価された「MKM1000」ですが、現代の視点ではどんな魅力を備えているのでしょうか。
「ディメンションは安定指向なので、ノーマルがサーキットに適しているわけではありません。でも私はメッサーシュミット+BMWのレーサーで、多くの観客が見守るT.O.T.を走ることに価値を感じているんですよ」
「同じ時代に生産されたMHR900と比べると、正直言ってMKM1000は手強いです(笑)。とはいえ、操る手応えは十二分ですし、各部のセッティングを煮詰めれば、まだまだ速く走れそうな気はしますね」(清水さん)
Writer: 中村友彦
二輪専門誌『バイカーズステーション』(1996年から2003年)に在籍し、以後はフリーランスとして活動中。年式や国籍、排気量を問わず、ありとあらゆるバイクが興味の対象で、メカいじりやレースも大好き。バイク関連で最も好きなことはツーリングで、どんなに仕事が忙しくても月に1度以上は必ず、愛車を駆ってロングランに出かけている。


















