目指したのは「傾いて曲がるころばない3輪バイク」!? 「生産終了」だがヤマハのLMWはスゴイ!!
「3輪バイク」と言えば前1輪/後2輪がメジャーですが、反対に「前2輪/後1輪」も存在します。いずれも「ハンドルを切って曲がる」が主流かもしれませんが、ヤマハの「LMW」は、スポーツバイクのようにしっかりバンクして曲がるのです。
「傾けて曲がる」楽しさと安心感を両立
「バイクは車体を傾けて(リーンして)曲がる乗りもの」と、ライダーなら誰もが知るところで、それがバイクの楽しさや醍醐味とも言えます。
その反面、とくにバイクに乗ったことがない人にとっては、タイヤが前後に並んで2つしかないので、「傾けたら転んでしまうかも……」と不安を感じてもおかしくはありません。
そんな相反する感覚をクリアし、「リーンする楽しさ」と「転ばない安心感」の両立を目指したのが、ヤマハの「LMW」です。

「LMW」とは「Leaning Multi Wheel(リーニング・マルチ・ホイール)」の略称で、バイクのようにリーン(傾斜)して旋回する、3輪以上の車両の総称です(ヤマハが商標登録)。
じつはヤマハの以前にも、転ばないように安定性を重視した前2輪/後1輪の3輪バイクが存在します。しかしそれは車体が直立した状態で、ハンドルを切って曲がる車体が主流でした。
それがヤマハのLMWは、あくまでバイクとして操る楽しさを追求した機構なのです。
LMWがコミューターの可能性を拡大!
歴史を遡ると、ヤマハは1970年代からLMWに取り組み、大人気だった原付スクーター「パッソル」をベースにLMWの研究試作車を作っていたほどでした。
その後も前1輪/後2輪の3輪や、「4輪バイク」など様々なLMWの研究を積み上げ、ついに2014年に市販車第1号となる「TRICITY(トリシティ)125」を発売しました。
フロント2輪は「パラレログラムリンク」と「片持ちテレスコピックサスペンション」を組み合わせたのが最大の特徴です。
パラレログラムリンクは、左右の車輪を常に平行に保ちながら、車体と同調してリーンさせる(傾ける)ための仕組みです。これがバイク(2輪車)で馴染みのある自然なリーンのフィーリングを実現しています。
そして片側2本ずつ、左右で独立した片持ちテレスコピックサスペンションによって、路面のギャップ(凸凹)を柔軟に吸収しつつ、もし片方のタイヤが段差に乗った場合も、もう一方のタイヤがしっかりと接地し続けて安定性を維持します。

一般的なバイク(2輪車)は、1本の前輪が操舵や衝撃吸収、制動など多くの役目を担っていますが、ヤマハのLMWはこれらの仕事を2本のタイヤで分担しています。
そのため、タイヤの接地面積が増えて滑りやすい路面(水や砂、マンホールなど)でもスリップしにくく、ブレーキ時もタイヤがロックしにくいメリットがあります。
そして2017年には排気量を155ccに拡大した「トリシティ155」が登場します。原付2種で確立した安心感の大きさや取り回しの良さはそのままに、軽二輪になったことで高速道路を使ったツーリングも可能にしてLMWの可能性を拡大しました。
LMWでスポーツライディングを極めろ!
「トリシティ125/155」でコミューターとしてLMWのメリットやフィーリングを周知しましたが、ヤマハはスポーツライディングを高めるための装備としてLMWを昇華させ、2015年の東京モーターショーで「MWT-9」を出展しました。
それを元に、2017年のEICMA(ミラノショー)で市販予定車の「NIKEN(ナイケン)」を発表し、2018年には日本でも販売を開始しました。

「トリシティ」では片持ちテレスコピックサスペンション(フロントフォーク)が車輪の内側に配置していましたが、この構造だと深くバンクさせると左右のフロントフォークが接触してしまいます。
そこでスポーツバイクとしてバンク角を稼ぐために、フロントフォークを車輪の外側に配置しています。
さらに、パラレログラムリンクを進化させた「LMWアッカーマン・ジオメトリ」を採用します。
これは操舵系(ステアリング系)に加えて、独立した傾斜系の軸を設定した構造により、旋回時に前輪の内輪と外輪が同心円を描くように設計されています。
……少々難解ですが、すごくザックリ言うと、旋回時には左右の車輪が並行ではなく、最適な角度でズレることで、45度ほど深く車体を傾けても滑らかな旋回性を発揮できるのです。
このLMWアッカーマン・ジオメトリは、2023年にモデルチェンジした「トリシティ125/155」にも採用されています。
そしてナイケンは2023年に排気量を拡大し(845cc→888cc)、新設計のハイブリッドフレームを採用した「NIKEN GT」にモデルチェンジされました。
また時間的に少し前後しますが、2020年にはLMWの都市型モビリティの完成系として、欧州で先行発売していた「トリシティ300」の国内販売が始まりました。

そんな時代の先端を行くかのようなヤマハのLMWですが、本格スポーツの「NIKEN GT」は2024年4月21日に受注予約を終了し、生産終了となりました。
そして「トリシティ300」も生産終了し(2026年6月2日発表)、「トリシティ125」は2026年夏に、「トリシティ155」は2026年秋に生産終了予定と発表されました。
すべてのLMWを生産終了した理由は公式に発表されていませんが、複雑な構造や部品点数の多さにより、同クラスのスクーターやスポーツバイクよりも車両価格やメンテナンス費用が高コストなため、販売台数が伸びなかったのが要因のひとつかもしれません。
またヤマハとしてLMWの技術実証が一区切りしたとの見方もあり、「今回、製品ラインナップからは姿を消すことになりますが、LMWで培った技術を活かしながら、ヤマハ発動機ではこれからもモビリティの可能性を次世代へ広げて行きます。ぜひ、ご期待ください。」という公式のコメントもあるので、今後の動向が気になります。
ともあれ、「トリシティ125/155/300」は、まだ新車の在庫を持つ販売店もあるようなので、手に入れたいと考えているなら急ぐのが「吉」でしょう。
Writer: 伊藤康司
二輪専門誌『ライダースクラブ』に在籍した後(~2005年)、フリーランスの二輪ライターとして活動中。メカニズムに長け、旧車から最新テクノロジー、国内外を問わず広い守備範囲でバイクを探求。機械好きが高じてメンテナンスやカスタム、レストアにいそしみ、イベントレース等のメカニックも担当する。














