さらば「普通二輪免許で乗れるハーレー」!! 生産終了の「X350」がこれまでのブランドの先入観を覆した!?
ハーレーダビッドソン・ジャパンは、2026年6月に、並列2気筒エンジンを搭載したアンダー400ccモデル「X350」の生産終了を発表しました。在庫限りで販売終了となり、追加供給の予定はありません。2023年末に登場し、中免(普通二輪免許)で乗れるハーレーとして大きな注目を集めた話題作は、実際にはどのようなバイクなのでしょうか。その実力を振り返ります。
「ハーレー」というブランドが持つ特別な存在感
身の周りを見渡せば、中国の製品であふれています。国産メーカーであっても、2輪・4輪を問わずメイド・イン・チャイナは珍しくありません。
しかし、あのハーレーダビッドソンが中国生産となると話は別です。それだけハーレーというブランドが持つ特別な価値は大きいのです。
バイク好きではない人と話していても、「ハーレーに乗っている」という一言の破壊力は別格だと感じます。芸能人が乗っていることが報じられれば話題になり、「かっこいい」と憧れる人もいれば、「ハーレーは苦手」と拒否反応を示す人もいます。
好き嫌いも含めて、ここまで感情を動かすバイクブランドはそうありません。
排気量の大きさばかりを気にする、いわゆる「ナンシー(ソレなんcc?)おじさん」が1000cc超の大型バイクを熱く語っていても、一般の人の反応は意外と淡泊です。しかし、ハーレーダビッドソンだけは少し違います。「ハーレー乗ってるの!?」と、一気に空気が変わるのです。
その理由は映画なのか、アメリカンカルチャーなのか、理由はひとつではないでしょう。ただ、「ハーレー」という名前だけで通じるブランドは、もはやバイクという枠を超え、広く社会に認知される存在となっています。

一方で、これまでは大型二輪免許が必要という高いハードルがありました。そこへ登場したのが、中免(普通二輪免許)で乗れる「X350」です。
70万円を切る戦略的な価格設定も大きな話題となり、多くのライダーにとって、それまで遠い存在だったハーレーを一気に身近なものへと変えました。
もちろん、「こんなのハーレーじゃない」という声も少なくありません。伝統の大排気量Vツインではなく、並列2気筒エンジンを採用し、従来のハーレー像とは大きく異なることもあって、デビュー当初から賛否が分かれました。
しかし、それだけ議論を呼んだということは、多くの人が「ハーレーとは何か」を真剣に考えた証しでもあります。「X350」は、その存在自体がハーレーというブランドの特別さを改めて浮き彫りにしたモデルだったのです。
新しさの中に息づくハーレーのDNA
改めて実車を見ると、従来のハーレー像とはまったく異なるキャラクターであることがよく分かります。
角張った燃料タンクや大型シートカウルなど、全体の雰囲気は日欧メーカーのスポーツネイキッドに近いものです。
一方で、ハーレーのオールドファンなら、往年のフラットトラックレーサー「XR750」を思わせる意匠が随所に取り入れられていることにも気付くでしょう。ブランドの歴史を知るファンにも、納得のいくデザインに仕上がっています。

360度クランクが生む親しみやすい走り
エンジンを始動すると、360度クランクならではの等間隔爆発が生み出すハスキーで乾いた排気音が心地よく響き、小気味よい鼓動感を味わえます。
左右シリンダーのピストンが同時に上下する360度クランクは、クランク1回転ごとに1回燃焼するため、規則正しいパルス(脈動)が特徴です。低回転から粘り強く、発進時もエンストしにくい特性を備え、街中では扱いやすさが際立ちます。
スロットルを開けた分だけ素直に加速し、唐突さはありません。街乗りはもちろん、ツーリングでも疲れにくいエンジンフィールです。

走り出して最初に感じたのは、その素直な操縦性でした。発進、旋回、ブレーキングのすべてが自然で、ライダーに余計な緊張を強いません。これこそが「X350」最大の魅力だと感じます。
クラッチレバーは軽く、少し回転を上げるだけでスルスルと発進。低回転から十分なトルクを発揮し、アクセル操作にも神経質さはありません。ビギナーでも安心して乗り始められるでしょう。
アジア市場向けに開発されたモデルですが、北米ではライディング・アカデミーの教習車「X350RA」として採用されていました。
このフレンドリーな乗り味と懐の深さは、そんな背景を知れば納得です。
スポーツネイキッドとして価格を超えた完成度
サウンドに存在感がある一方、振動は巧みに抑えられており、低回転から高回転まで終始スムーズ。スロットルのオン/オフでもギクシャクすることがなく、市街地では扱いやすさが際立ちます。
前後ラジアルタイヤやφ41mm倒立フロントフォーク、ウェーブディスクブレーキなど足まわりも本格的で、価格から想像するような安っぽさは感じません。

右側にリンクレスでオフセット装着されたシングルショックは、伸び側減衰力アジャスターとダブルナット式プリロードアジャスターを装備。スイングアームは丸パイプを2本束ねた独特の構造とし、リアブレーキにもウェーブディスクを採用しています。
さらに、ハーレーとしては珍しいチェーンドライブを採用しています。スプロケット交換によってファイナル比を変更しやすく、好みに合わせた走りを楽しめます。
見た目だけでなく、車体全体の完成度も高く、スポーツネイキッドとして十分な実力を備えています。だからこそ、従来のハーレーファンだけでなく、これまでブランドに縁のなかったライダーからも支持を集めたのでしょう。
生産終了により、新車で手に入れられるのは全国の正規ディーラーに残る在庫のみ。普通二輪免許で乗れるハーレーという唯一無二の存在は、まもなく歴史の1ページになります。
気になっていた人にとっては、まさに今が最後のチャンス。迷っている時間はありません。

Writer: 青木タカオ(モーターサイクルジャーナリスト)
バイク専門誌編集部員を経て、二輪ジャーナリストに転身。自らのモトクロスレース活動や、多くの専門誌への試乗インプレッション寄稿で得た経験をもとにした独自の視点とともに、ビギナーの目線に絶えず立ち返ってわかりやすく解説。休日にバイクを楽しむ等身大のライダーそのものの感覚が幅広く支持され、現在多数のバイク専門誌、一般総合誌、WEBメディアで執筆中。バイク技術関連著書もある。












