バイクとコーヒーを語る上では外せない人物⁉︎ 80年代の若者に多大な影響を与えた”人気作家”とは? デイドリップ通信Vol.63
バイク乗りの店主、黒田悟志さんによる連載コラム。今回は70年代終わりから80年代にかけて当時の若者に一大ブームを生んだ片岡義男さんについて触れています。
人生に多大な影響を与えた「片岡作品」の魅力とは
こんにちは、Day Drip Coffeeのクロダです。都内のとある住宅街で小さなロースターカフェをやっている、バイクの好きな店主です。
このコラムは「バイクとコーヒー」をテーマに、この二つの世界を行き来して感じた様々なトピックをお届けしています。
僕は今50代後半ですが、来年には一つ上のエイジグループになろうとしています。

ティーンエイジャーの頃はちょうど80年代のバイクブーム真っ只中でした。そんな僕が「バイクとコーヒー」をテーマに掲げる時、決して外すことの出来ないキーワードがあります。
それは「片岡義男」です。
その当時“若者”だった世代の人間には、彼の小説やエッセイに影響を受けた人が少なくありません。いや、もっと正しく言うならば、非常に多大な影響を受けた人が大勢いた、と表現すべきでしょうか。
Z世代はもちろん、その上のミレニアル世代(と呼ぶらしいが)では知らない人が多いと思うので簡単に説明すると、片岡義男さんは70年代の終わりから80年代にかけて、一大ブームを巻き起こした人気作家です。
アメリカ英語圏にルーツを持つ日系3世で、日本語の文章に見られがちなウエットさが無い、独特の言語感覚を持った人でした。(当時の)若者像を乾いた文体で描き出した、都会的でスタイリッシュな作風にはとても魅了されました。
同世代で彼の作品にハマった人にとっては、片岡さんといえば赤い背表紙の文庫本のイメージではないでしょうか。僕自身は片岡マニアなどではないごく普通の青少年でしたが、それでも彼の文庫本を現在も所有していて、数えてみたら50冊ほどもありました。
また彼が監修というか制作に携わった1冊の雑誌(それは1982年の「POPEYE」で、内容はハワイ特集のもの)を今でも大切に取ってあります。ちなみに僕が最初に彼の名前を認識したのがこの雑誌でした。
そんな彼が小説やエッセイにテーマとして取り上げたのは、まだキラキラしていた頃のアメリカンカルチャー全般、ジャズなどの音楽、夏という季節、車、サーフィン、そして何よりバイクとコーヒーは何度も登場しました。
特にバイクに関しては、「バイク小説」とも呼べるジャンルを生み出したと言え、代表作の一つ『彼のオートバイ、彼女の島』はのちに映画化もされました。
登場するバイクは今で言うミドルクラスの古いトラディショナルなバイクが多い印象で、『彼のオートバイ、彼女の島』でもカワサキの650RS-W3、いわゆる“ダブサン”が主人公の相棒として登場します。
もちろん時にはハーレーや4気筒バイクが描かれることもあるけれど、片岡さんの好みは空冷4ストロークの並列2気筒または単気筒の650ccクラスで、英国の伝統的なスタイルやアメリカンバイクの流れを組むスタイルがストライクゾーンなのだと思います。
コーヒーも彼の小説には欠かせないものです。物語の中で度々登場し、彼の世界観を形成する重要な小道具の役目を果たしています。恐らくですがペーパードリップが多く、パーコレーターやコーヒーメーカーも多く見られます。
またインスタントコーヒーもよく登場します。これらは当時のアメリカ文化における日常的なコーヒーで、日系人としての彼のライフスタイルが垣間見えるものでもあります。
それとは別にもう一つ繰り返し登場するコーヒーがあります。それは自動販売機の紙コップのコーヒーです。バイクで走った先のどこかで、例えばガードレールにもたれながら飲むコーヒー、といったシーンで出てくるのが自動販売機のコーヒーです。
ただし、一つの作品の中でバイクとコーヒーが両方とも描かれているケースは意外と少ないかもしれません。
文庫本をざっと読み返した限りでは、『吹いていく風のバラッド』で若い女性ライダーが夜の公園の入り口前でコーヒーを飲むシーンがありました。
また、どの本か分かりませんが、僕の記憶にはバイクに乗る青年が自動販売機のコーヒーを飲む話があったはずでした。でも手持ちの本からは見つけられず、本を無くしたか、あるいは誰かに渡したままの本に載っているのであろうと結論づけました。
他にも『俺のハートがNOと言う』には、バイクで3時間ほども走った先の喫茶店でコーヒーを飲むシーンがあります。物語が突如として緊張感を持ち始める重要な場面で、コーヒーが効果的に使われています。
片岡作品ではバイクもコーヒーもその魅力が存分に描かれ、少なくとも僕に取っては憧れの対象となり得ました。なぜなら、彼が描き出すものは彼の美学であり、読み手の僕(もしくは僕ら)はその美学にこそ魅了されていたからだと思うのです。
それは多感な時期の人間にはあまりにも強烈で、原体験として刷り込まれたが故に生涯絡め取られたままであり、その人生をも左右することになりました。僕もそんな一人です。
次回コラムでは、そんな片岡義男さんに街で偶然出会った時の顛末を綴ってみようと思います。
Writer: 黒田悟志
世田谷の自家焙煎カフェDay Drip Coffee店主。自転車ロードバイクに20年ほど乗ってきたが、2年前オートバイに目覚めて自動二輪免許取得。両足2気筒から4スト単気筒へ。昨年はSSTRにも初参加しバイクライフを堪能中。








