小林ゆきは見た! ホンダのブースにはファンと実用と深イイ歴史が!?【TMS2019】
東京モーターショー2019に出展したホンダは、見る人に何を伝えようとしていたのでしょうか? モーターサイクルジャーナリスト小林ゆきが紐解きます。
ホンダが訴えたかったのは何なのか?
ホンダブースのメインに据えられたのは、想像上の近未来的なコンセプトモデルでもなく、性能至上主義的なスポーツモデルでもなく、意外にもロングセラーの実用モデル「ベンリイ」と「ジャイロ」のコンセプトを引き継いだ2台の電動バイクでした。
メインステージのイメージカラーは“白”。良く知られているように、ホンダの工場の作業着は、ホンダ創業者の本田宗一郎氏のこだわりで、あえて汚れが目立つよう伝統的に白が採用されています。
そんなホンダイズムを思い出させるような白いステージ上には、左右に4輪の「HONDA e」と「FIT HOME」、その間に2輪の「GYRO e:(ジャイロ・イー)」と「BENLY e:(ベンリイ・イー)」が展示されていました。
これまで東京モーターショーのステージと言えば、華々しい未来型のコンセプトモデルが鎮座するのが普通だったので、今回は「地味」にも思える実用モデルを中心に据えたというのが、ある意味サプライズでもありました。
……と思ったのですが、プレスデーが終わり一般公開期間になると、電動バイクはステージから下ろされ、同じバッテリーユニットを持つ「PCX electric」はリースのみ対応のモデルであることから、これら電動バイクは今すぐ一般ユーザー向けに発売できるものではないのだな、ということをまざまざと知った次第です。
ただ、電動バイクをめぐる情勢としてはまだ世界的な共通規格が定まっておらず、2019年4月に国内4メーカーによるコンソーシアムができたばかり。そんな中、ブースのメインに電動バイクを持ってきたというのは、この電池ユニット「Honda Mobile Power Pack」で電動バイクの覇権を狙うのだろうな、と思わせるに十分なブース構成でした。
いっぽう、通路からすぐの位置にスーパースポーツなどではなく「CC110」やハンターカブイメージの「CT125」をイチオシとして展示していたのも印象的でした。
かつては実用バイクとしてくくられていたスーパーカブ系モデルですが、「乗り物として楽しい」ことを再発見して欲しいという願いを強く感じます。
また、スクーター界のSUV的存在の「ADV150」は特に注目度が高く、人だかりが絶えません。
ブース入口側の一番目立つ場所には、間もなく発売される予定のニューモデル「CRF1100L Africa Twin Adventure Sports ES Dual Clutch」が展示。道路交通法の改正で大型二輪AT限定免許の650cc限定が撤廃される予定で、クラッチ操作のいらないDCTモデルは多いに注目を集めていました。
ホンダならではの歴史、深みのある展示
ブースのキャッチとしてのモデルは、どちらかというと実用モデルとアウトドア系ファンバイクに力を入れていたホンダですが、もちろんスポーツバイクやアイコンモデルも東京モーターショーならではの展示でした。
2019年はオリンピックの影響で展示面積に制約があったため、またがり可能なバイクの台数は少なかったものの、そのぶんミュージアム的な見応えのある二つの展示エリアが展開されていました。
ひとつはスポーツモデルのアイコンである「CBシリーズ」発売60周年の記念展示エリアで、まさしく博物館。歴代CBから現行CBまで、歴史をたどる写真や文言に囲まれての展示は圧巻でした。
もうひとつの展示は、ホンダのレーシングヒストリーを実車とともになぞるもので、F1と2輪のロードレーサーを交互に展示。世界でホンダしか作り得ない歴史を堪能できるエリアとなりました。
前回(2017年)の東京モーターショーと比べると、大きく革新となった技術やモビリティをめぐる新たなる仕組みの提案はなかったものの、国内2輪車需要の核となっている原付や、エントリーモデルをしっかり支えていこうとしている姿勢を感じるホンダブースでした。
【了】
Writer: 小林ゆき(モーターサイクルジャーナリスト)
モーターサイクルジャーナリスト・ライダーとして、メディアへの出演や寄稿など精力的に活動中。バイクで日本一周、海外ツーリング経験も豊富。二輪専門誌「クラブマン」元編集部員。レースはライダーのほか、鈴鹿8耐ではチーム監督として参戦経験も。世界最古の公道バイクレース・マン島TTレースへは1996年から通い続けている。