環境が激変してもじつはそれほど変わらない!? フリーランスという不安定な職業だからこそ気付いた意外な現実とは?
『バイクのニュース』へ寄稿くださっているライターの方々に、2020年の振り返りと2021年の展望を伺いました。マン島TTやパイクスピークなど海外レースへの参戦経験を持ち、2輪メディア業界で活動中の伊丹孝裕さんの考察です。
フリーランスとして活動中の身、コロナ禍であっても楽しく仕事ができている
2020年は概ね良い年だったと言えましょう。新型コロナの影響で多少吹っ飛んだ予定がありましたが、我々フリーランスの仕事なんてそもそも不安定極まりなく、常に浮いたり沈んだりしているもの。パソコンとネット環境があればどこでも原稿が書け、ヘルメットとグローブがあればどこでもバイクに乗れるわけですから、これまでも今もこれからも、俯瞰して見ればそれほど変化はないでしょう。

とくに僕(筆者:伊丹孝裕)はひとり仕事を好んでいます。ひとりで勝手に企画して、ひとりでバイクに乗り、ひとりで撮って、編集部に記事を送り付ける。そういうスタイルが珍しくなく、ひとり撮影では限界がある時だけ、カメラマンと行動する感じでしたから“密”とは無縁の仕事だったのです。
2020年はそれが加速。なぜなら、2019年の暮れにスズキの軽トラック「スーパーキャリイ」を手に入れたからです。このクルマのインプレッションはいずれたっぷりとしたためるつもりなのですが、5MT&4WDの走破性を活かし、全国津々浦々縦横無尽にフル活用。荷台にオフロードバイクを載せて林道へ出撃し、一日中誰にも会うことなく山の奥地で過ごす。そんな素敵な趣味時間を満喫させてくれました。
ホンダ「CBR1000RR-R」の異常な速さ、カワサキが送り出してくれたニーゴー4気筒の超高回転サウンド(Ninja ZX-25Rのこと)、近年まれに見る大接戦だったMotoGP界など、2輪業界の話題は尽きることがなかったものの、それらとは一歩離れた場所で遊びに興じることができ、とても心地良い一年だったと満足しております。もっとも「それって不要不急じゃね?」と問われれば、まったくその通りですが。

世の中がギスギスすればするほど「絆」が持てはやされがちです。最近知ったのですが、絆という言葉は牛や馬といった家畜をつなぐための縄のことを言うそうで、そんなものにしばられるのは窮屈の極み。せっかく2輪という自由な乗り物なのですから、人の目を気にし過ぎることなく、親切過ぎる記事や企画に踊らされることもなく、これからも楽しみたいものです。
とそれっぽいことを書いた直後になんですが、2020年最大のヒット作になったホンダ「CT125・ハンターカブ」には踊らされてもいいかな、と思っています。というのもウチの娘が16歳になり、現在小型AT限定の免許を取るために教習所へせっせと通っているからです。
無事、卒業したあかつきにはハンターカブか、クロスカブが欲しいと言い出すのは目に見えていて、だったら父としては娘をダシにしてハンターカブを共有したいところ。これをスーパーキャリイに載せて走れば、日本中走破できないところはないのでは?……と想像してニヤニヤが止まりません。
ハンターカブはなにかにつけて、44万円という価格がやり玉にあげられるものの、その先に広がる遊びの可能性を考えるとまったく高いとは思いません。ちなみに、スーパーキャリイの新車価格は120万円ほどで、2台合わせても166万円弱。ホンダで言えば、「CRF1100Lアフリカツイン」とほぼ同等、スズキで言えば「KATANA」より少し高いくらいですから、購入する時は極めて現実的なコストで収まり、それでいて手に入れてからの夢の広がり方はハンパなし。
そんなわけで、2020年を振り返ればたっぷり遊んだことしか思い出されず、2021年の展望を聞かれると、さらに遊ぶこと、というより他ありません。新進気鋭の若手が参入してこないのが不思議なのですが、2輪のライター業界って、こんな感じで生きていけるのですよ。「バイクに乗って生計を立てたい」という若者はぜひ。
【了】
Writer: 伊丹孝裕
二輪専門誌「クラブマン」編集長を務めた後にフリーランスとなり、二輪誌を中心に編集・ライター、マシンやパーツのインプレッションを伝えるライダーとして活躍。マン島TTやパイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライムなど、世界各国のレースにも参戦するなど、精力的に活動を続けている。