ホンダの苦戦は今年いっぱい続く? タイヤで振り返るMotoGP開幕2連戦

2021年シーズンのMotoGPは第2戦を終え、ヤマハ勢が好調な滑り出しを見せています。そのひとつの要因にはタイヤマネジメントがあるようですが、各ライダーやタイヤを供給するミシュランはどのような印象を抱いているのでしょうか。

120kmのレース距離でグリップを保つ難しさ

 2021年シーズンのMotoGP。開幕戦のカタールGPはマーベリック・ビニャーレスが、第2戦のドーハGPはファビオ・クアルタラロ(両者ともモンスターエナジー・ヤマハ・MotoGP)がそれぞれ制し、ヤマハ・ファクトリー勢がカタール・ラウンドで開幕2連勝を飾った。

2021年シーズンのMotoGP初戦、第二戦で連勝を飾ったモンスターエナジー・ヤマハ・MotoGP(左:ファビオ・クアルタラロ/右:マーベリック・ビニャーレス)

 昨シーズンはスタートで一回順位を落とすと、そのままズルズル後退していく展開がふたりとも多かったが、いずれのレースもスタートで出遅れながら後半に首位を奪っての快勝で、現地のロサイル・インターナショナル・サーキットで実施されたプレシーズンテストから取り組んでいたロングランでのペース維持や課題だったタイヤの耐久性に対する解決策が、うまく効果を発揮したといえるだろう。

 ドゥカティも昨年はミシュランのリアタイヤとの相性に苦しめられたが、この2連戦は2位と3位を計4席獲得。エンジンパワーがものをいうコースレイアウトが優位に働いたことも大きいが、ある程度、タイヤマネジメントにも成功した。

 同じV4勢の中ではアレイシ・エスパルガロ(アプリリア・レーシング・チーム・グレシーニ)が健闘したが、ホンダ、KTMに至っては、開幕戦のポル・エルパルガロ(レプソル・ホンダ・チーム)、第2戦のブラッド・ビンダー(レッドブル・KTM・ファクトリー・レーシング)の8位が陣営最高位。フロントタイヤが合わず、精彩を欠いた。

 ウェイン・レイニー、ケビン・シュワンツらが「タイヤを焼きすぎないように気を付けていた」ようにタイヤが勝負の鍵を握るのは今に始まったことではないが、現在のMotoGPマシンのパワーは300馬力前後に達するため、時間にして約40分、およそ120kmに及ぶレース距離でグリップを保つのはより難しくなっている。

ワンランク硬くなったミシュランの新タイヤ

 昨シーズン、タイヤの耐久性に問題を抱えたチームが多かったこともあり、ミシュランは2021年用のタイヤをワンランク硬くしてきた。

 ミシュランの2輪モータースポーツ責任者、ピエロ・タラマッソは「我々の信条は“グリップを長持ちさせる”ことです。(本社のある)クレルモン・フェランとサーキットで行ってきた仕事を誇りに思っています。既存の技術と2020年の経験に基づいて、新しいMotoGPタイヤを開発しました。よりシンプルで幅広く性能を発揮する2021年用のタイヤは、これまでよりバイクのセットアップを容易にしてくれるでしょう。グリップとパフォーマンスを最大化しながらタイヤの一貫性にも取り組んだ結果、硬度レベルはわずかに高くなっています」と説明する。

V4勢の中で健闘を見せているアレイシ・エスパルガロ(アプリリア・レーシング・チーム・グレシーニ)

 ドーハGPで優勝したクアルタラロと10位のアレイシ・エスパルガロとのギャップは5.382秒。平均スピードはクアルタラロの167.4km/hに対して167.0km/hと、わずか0.4km/hの差しかない。このデータは上位を走るライダーがタイヤの性能を限界まで引き出していたことを示すものだが、逆に表現するとセッティングが決まらず、うまくタイヤを機能させられなければ、はなから勝負にならない状態に陥ってしまうともいえる。

 中継で各チームのスタッフが駆け足でピットからグリッドまでタイヤを運ぶ光景がしばしば見られるが、これもタイヤを適切な温度に保つため、ギリギリまでタイヤウォーマーを被せているのが理由だろう。現在では全てのファクトリーが、タイヤを専門に担当するエンジニアを雇っている。

 比較的タイヤをうまく機能させていたドゥカティ勢だが、カタールでのプレシーズンテストでは絶好調だったジャック・ミラー(ドゥカティ・レノボ・チーム)のリアタイヤ右側が変形してグリップが低下し、徐々に順位を落とした。

カタールGPではテストで絶好調だったジャック・ミラー(ドゥカティ・レノボ・チーム)

 ミラーは「ミシュランのリアは丁寧に扱わないと性能を発揮しない。サーキットによってはコーナーにうまく進入できなかったり、スロットルを開けられなかったりするから、全てをスムーズにこなし、タイヤを温存する必要がある。スムーズにすればするほど速く走れるんだ」と語る。

 ディフェンディングチャンピオンのジョアン・ミルもドーハGPでリアのグリップに不満を訴えたが、前戦のカタールGPと比較してタイムは悪くなく、スズキのエンジニアも「特に問題はなかった」と話す。昨年同様、アグレッシブなキャラクターのV4エンジンよりヤマハやスズキが搭載するスムーズな出力特性の直列4気筒の方が合っているようだが、ミシュランのリアタイヤはコンパウンドによっては劣化が早いため、レースの展開をより複雑なものにしている。

フロントの接地感に苦しんだホンダとKTM

 大まかな傾向として、ミシュランのリアタイヤはフロントと比較してグリップが高く、昨シーズン投入された新しい構造のリアタイヤによってさらにその傾向は強くなった。セッティングでうまくバランスを取れれば良いが、場合によっては後輪が前輪を押すような形で曲がりにくくなる、プッシュアンダーを発生してしまう。そういったタイヤの前後バランスが影響してか、最近のクラッシュはフロントを失っての転倒が多い。

 一方、2009年から2015年まで公式タイヤサプライヤーを務めたブリヂストンはフロントのエッジグリップを重視する傾向があり、そのせいもあってか、当時はリアの急激なグリップ変化によるハイサイドが多かった。

 コーナーを攻め込む際にはフロントのグリップ及び接地感が肝となるが、そこに苦しんだメーカーがカタールでは下位に沈んだようだ。

左右で硬さの違うタイヤの特性に苦しみ、前後ソフトでレースに臨んだアレックス・マルケス(LCRホンダ・カストロール)

 ホンダのRC213Vはブレーキングやコーナーの進入でフロント部分に高い負荷をかけることで旋回力を生み出すタイプのマシンのため、フロントタイヤが負けている状態だとフィーリングがつかみにくい。砂漠に囲まれ、砂が舞い散ったロサイルの路面はただでさえグリップレベルが低く、ハードは選択しようがなかった。

 他の多くのメーカーと同様にホンダ陣営は前後ソフトでレースに臨んだが、フロントの接地感が得られずに大苦戦。カタールに持ち込まれた左右非対称コンパウンドのミディアムは柔らかい左側ラバーと硬い右側ラバーの差が大きすぎ、ライダーにとっては乗れたものではなかったようだ。アレックス・マルケス(LCRホンダ・カストロール)は「左右の差が大きく、右コーナーに入って硬いコンパウンドになるとフロントが切れ込んでしまう。だからライディングスタイルを左と右とで大きく変える必要があった」と感想を漏らしている。

 KTMのRC16はクロモリ鋼のトレリスフレームというマシンの構造もあって、もともとフロントタイヤへの依存度は低いが、やはりフロントが負けている状態だとフィーリングをつかめず、2戦目は4人のKTMライダーが揃ってフロントにミディアムを選んだ。ビンダーは約13.7秒速いタイムで完走し、6つ順位を上げたが、「バイクがほぼ立った状態でブレーキングを終わらせなければならず、倒し込みも静かに行わなければならなかった」と良い印象を得られなかったようだ。

 同じV4勢でも好走したドゥカティとアプリリアの両陣営はメカニカルグリップに加え、空力デバイスによるエアログリップ向上にも注力しており、その差が結果に表れたのかもしれない。

マルク・マルケスのデータを分析し、前後ブレーキをハードにかけることでスピードを発揮した中上貴晶(LCRホンダ・出光)。アレックス・マルケス(LCRホンダ・カストロール)同様、フロントに問題を抱えている印象を受ける

 ヨーロッパ・ラウンドに入り、マルク・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)が復帰すれば状況は変わってくるだろうが、フロントのフィーリングが当面の課題となるホンダとKTMには早急な対応が必要だ。昨年、中上貴晶(LCRホンダ・出光)はマルク・マルケスのデータを分析し、前後ブレーキをハードにかけることでスピードを発揮したが、もしフロントの問題を解決できなければ、来シーズンの投入が予想されている新しい構造のフロントタイヤが登場するまで苦しい戦いが続くことにもなりかねない。

【了】

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Writer: 井出 直人

ロードレース専門誌時代にMotoGP、鈴鹿8耐、全日本ロードレース選手権などを精力的に取材。エンターテインメント系フリーペーパーの編集等を経て、現在はフリーランスとして各種媒体に寄稿している。ハンドリングに感銘を受けたヤマハFZ750がバイクの評価基準で、現在はスズキGSX-R1000とベスパLX150を所有する。
Twitter:@naoto_ide

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