【WSBK】イギリス大会でダブル表彰台を獲得したBMW「M1000RR」の現在地。ニッシンとのブレーキ共同開発の行方は?

WSBK(スーパーバイク世界選手権)・第4戦イギリス大会でBMW Motorrad・WorldSBK・チームのトム・サイクス、マイケル・ファン・デル・マークがダブル表彰台を獲得した。着実に競争力を上げてきたBMW Motorradの現在地とは?

イギリス大会でM1000RRがダブル表彰台を獲得

 ドニントンパークで開催されたWSBK(スーパーバイク世界選手権)・第4戦イギリス大会で、トム・サイクス(BMW Motorrad・WorldSBK・チーム)がスーパーポール・レースで2位、レース2でも3位に入り、2019年以来となる今シーズン初の表彰台を獲得。チームメイトのマイケル・ファン・デル・マーク(BMW Motorrad・WorldSBK・チーム)もスーパーポール・レースで3位とBMW移籍後初めてポディウムに立ち、ダブル表彰台となった。

BMW Motorrad・WorldSBK・チームのマイケル・ファン・デル・マーク(#60)とトム・サイクス(#66)

 2019年よりファクトリー体制でのWSBK参戦を再開したBMW Motorradは、今季、これまでのS1000RRを大きく進化させたM1000RRを投入。開幕からここまで目立った結果を残せていなかったが、地道に続けてきた開発が実を結んだ格好だ。

 チタン製コンロッドの採用などにより、S1000RRに比べ、カタログスペックでレブリミットが15,100rpmと500回転上乗せされ、最高出力が212ps(14,500rpm)と5馬力アップした直列4気筒エンジンを搭載し、あらかじめカーボンファイバー製のウィングレットをアッパーカウルに装着したニューマシンは、ライバルたちがイタリア・ブレンボ製のブレーキシステムを選ぶ中、日本のニッシン製を選択し、パドックで異彩を放っている。

BMW Motorrad「M1000RR」を走らせるのユージン・ラバティ(RC・スクアドラ・コルセ)

 2021年シーズン、BMW陣営は計4台のM1000RRを走らせているが、第3戦エミリア・ロマーニャ大会からサテライト・チームのユージン・ラバティ(RC・スクアドラ・コルセ)車には、ブレンボ製のブレーキキャリパーが装着されている。また、ホイールもOZ製からブレンボのグループ会社になったマルケジーニ製のBMW専用品へと履き替えられた。

 開幕前の2月頃から予定されていた変更だそうだが、これにはファクトリー・チームが使用するパーツと実戦を通した比較テストを行うという目的に加え、リスクを分散させる意味合いもあるようだ。

 BMW Motorradのモータースポーツディレクター、マーク・ボンガースは「ニッシンとの契約は私が結びました。これをチャンスだと捉えていますが、もちろん、どんなチャンスにも一定のリスクはつきものです。ブレンボ装着車が1台いることで、リスクを回避できたと思います」と狙いを説明する。

 ブレンボは多数のチームにブレーキシステムを供給しているため、対応が限定されるが、ニッシンとは共同で開発を進められる。

「これまでの協力関係と収集したデータをもとに、ニッシンはBMWのために新しいブレーキキャリパーを2種類設計してくれました。これらのキャリパーは私たちの要求に合わせて作られており、我々は開発に影響を与えることができるのです」

ピストン数が違うキャリパーをニッシンが設計

 新しく設計された2種類のブレーキキャリパーとは、それぞれサイクス用、ファン・デル・マーク用に作られたものだろう。よく観察すると、ふたりのマシンには異なったブレーキシステムが採用されていることが分かる。

6つのピストンを持つフロントキャリパーを使用しているトム・サイクス

 サイクス車はフロントに6ピストンのキャリパーを装着しているが、ボンガースによると「トムは最大限の制動力が安定して発揮されることを望みます。この2年間で多くのデータを収集し、ニッシンと共有して日本とミュンヘンで開発を進めてきましたが、彼の要求は、いつも少し特別なものです。彼は自分なりの解決方法を持っているようで、ブレーキレバーのストローク量が変化するのをとても気にするので、6つのピストンを持つキャリパーを使用している」のだそうだ。

 一方、ファン・デル・マーク車とサテライト・チームのもう1台、ジョナス・フォルガー(ボノボ・MGM・レーシング)車は標準的な4ピストンのキャリパーを装着するが、「私たちはこの分野で大きな一歩を踏み出しました。ブレンボ・ユーザーだったマイケルも非常に満足していますよ」と胸を張る。

BMW Motorrad「M1000RR」に装着された純正キャリパー

 ブレーキキャリパーとマスターシリンダーとの比率調整、さまざまなブレーキパッドや冷却方法、異なる反応を示すブレーキピストンを試すなど、日本メーカーとの共同開発は現在も続いている。

「ライダーにとっては追加の作業となりますが、開発はまだ終わっていません。ベースがしっかりしているので、他のコンポーネントでブレーキを微調整でき、コースに合わせ、いろいろなセットアップを施すことが可能なんです」

 MotoGPクラスに参戦した経験を持つフォルガーもニッシンのブレーキシステムを評価している。

「何年もブレンボと仕事をしてきましたが、うまく適応できました。ニッシンと集中的にテストを行いましたが、制動力は十分だし、サポートも充実しています。試行錯誤の連続ですが、小規模なテストの計画もありますし、ブレーキはOKですね」

ねじり剛性を高めた新しいフレームを実戦投入

 イギリス大会では、ねじり剛性が高められた新しいフレームでファン・デル・マークとフォルガーが走った。

BMW Motorrad「M1000RR」を走らせるジョナス・フォルガー(ボノボ・MGM・レーシング)

 事前にスペインのナバラ・サーキットで実施されたテストでサイクス、ファン・デル・マークと共に3種類のフレームを試したフォルガーは「バイクからのフィードバックとブレーキのフィーリングの面で正しい方向に進んでいます。より一貫してブレーキをかけられ、限界をより良く感じることができました。新フレームからは、タイヤやフロントフォークなど、他のコンポーネントの状態を感じることができるんです。それはまさに僕が望んでいたことでした」と事前に語っていたが、ボンガースによると「マイケルとジョナスは次のレースで新しいフレームを使いたいとはっきり述べましたが、トムはそこまで明確にポジティブではありませんでした。ユージンは唯一、新フレームをテストしていなかったので、マイケルとジョナスだけがレースで使うことになったんです」ということだ。

 ドニントンパークではサイクスとファン・デル・マークが好成績を収めたが、ブレーキング時の安定性に加え、ライダーたちはリアのトラクションのかかり具合にやや不満を持っているようだ。

 ファン・デル・マークは「パワーは十分だが、簡単にスピンしてしまう。今はちょうどいいバランスを見つけつつあるけど、放っておくと、ただスピンするだけで前に進まなくなる。開幕戦のアラゴン大会では、トラクションコントロールを使った新しい戦略がうまくいった。多少はスピンするけど、ひどすぎる時はパワーを落として対応するんだ」と話す。

 BMW陣営を率いるショーン・ミューアも当然その課題を認識しており、「ヤマハが得意なようにタイヤを滑らせながらコーナーへ入っていき、そのまま抜けていくようなことはまだできませんが、現在、我々はこの課題に取り組んでいます。私たちは悪くないポジションにいて、もはや追いつけないのはジョナサン・レイ(カワサキ・レーシング・チーム・WorldSBK)とトプラック・ラズガットリオグル(PATA・ヤマハ・WorldSBK・オフィシャル・チーム)だけです。これは我々が一歩前進したことを示しています。いくつか新しいパーツを用意していますし、テストも予定しています。今シーズン中の優勝を目指し、全員で頑張りたいと思っています」とコメントしている。

「トラクションの問題が解決された時、勝つことができるだろう」とサイクスが語った通り、2013年9月のドイツ大会でのチャズ・デイビス以来となるBMWの優勝は、意外にもうすぐかもしれない。

【了】

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Writer: 井出ナオト

ロードレース専門誌時代にMotoGP、鈴鹿8耐、全日本ロードレース選手権などを精力的に取材。エンターテインメント系フリーペーパーの編集等を経て、現在はフリーランスとして各種媒体に寄稿している。ハンドリングに感銘を受けたヤマハFZ750がバイクの評価基準で、現在はスズキGSX-R1000とベスパLX150を所有する。
Twitter:@naoto_ide

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