高速道路走行で見えた性能と特徴 BMWの電動バイク「Cエボリューション」を検証する

BMWモトラッド「Cエボリューション」は、高速道路も走行できる電動バイクです。実際に高速道路を走行したところ、街乗りとは違う「Cエボリューション」の魅力を発見できました。

魅了されるほど面白い、高速道路での走り

 スクータータイプの電動バイク、BMW Motorrad「C evolution(シー・エボリューション)」は、最高出力35kW(48PS)/4650rpm、定格出力19kW(26PS)で、最高速度129km/hの性能を備えています。車両重量は275kgとなかなかの重さ。車格としては、ミドルクラスのスクーターに近いでしょう。身長153cm、体重42kgの筆者としては、またがったときに「うーん、でっかいなあ」と、少し萎縮するくらいバイクの大きさを感じるサイズです。

実際の電費はどうなのか? 実走で検証する筆者(伊藤英里)

「Cエボリューション」は普通二輪免許以上で運転できる電動バイクであり、高速道路も走行することができます。現状では高速道路を走行できる電動バイクは多くはありませんから、これはメリットのひとつでしょう。

 では、高速道路での走行性能や航続距離を確認してみることにしましょう。「Cエボリューション」には回生ブレーキと加速の設定が異なる、4つの走行モードがあります。「ECO PRO(エコ・プロ)」、「ROAD(ロード)」、「DYNAMIC(ダイナミック)」、「SAIL(セイル)」の4つです。

 回生ブレーキとは、ブレーキの際にバッテリーへエネルギーが回生されるもので、乗り手の感覚としては内燃機関のバイクのエンジンブレーキに近いものです。回生ブレーキは電費向上にも役立ちますが、走りの味付けにもなります。「Cエボリューション」は回生ブレーキの利きや加速が異なるモードを選ぶことで、自分の走りや状況に合わせて走りを楽しめるのです。

ハンドル右のスイッチボックスにある「MODE」ボタンを押して走行モードを切り替える。筆者の手の大きさだと、走行中の切り替えは難しい位置

 今回、高速道路を走るにあたり、往路では主に「セイル」モードを使用しました。「セイル」は回生ブレーキなし、加速最大というモードです。高速道路では、スロットルを戻せば慣性のまま、ほぼ減速せずにバイクが前に進みます。安全な状況の中で何度か試してみたところ、90km/h走行中にスロットルを戻して、数十メートルかかって10km/hほどゆっくりと減速していく印象です。握力があまりない筆者(伊藤英里)にとって、高速道路では右手が疲れてしまうことがままありましたが、このモードでは右手を休ませることもでき、楽に感じました。

 ブレーキをかけるシーンがほぼない高速道路の状況であれば、「セイル」モードは最適でしょう。こうしたモードを選びつつ走ることもまた、「Cエボリューション」の面白さです。

 そしてまた、高速道路ではもうひとつの魅力に気づくことになりました。それは、272kgという車両重量の意味でもありました。ご存知のとおり、電動バイクはスロットルを回すと、ゼロから100パーセントのトルクが出ます。設定でその出方に違いはあるものの、特性自体は変わりません。その加速感は内燃機関のバイクとは異なるものです。「Cエボリューション」はモーターの回転数が上がる音もなく“ドン!”と一気に加速するのです。言葉にすれば「ロケットのような加速感」でしょうか。

BMW Motorradにラインナップされるスクータータイプの電動バイク「C evolution」。車両重量は275kgとヘビー級だが、高速道路走行では軽快そのもの

 そうした加速感は、ある種の不安定感を生みます。筆者がこれまで乗ってきた電動バイクは原付一種や原付二種で、一般道を走るばかりでしたが、その速度域でも電動バイクらしい加速による車体の不安定さを感じることもありました。ところが、「Cエボリューション」にはそういう不安定さがほとんど感じられなかったのです。275kgの車両重量と、車体の中央下部に集中するバッテリーによるものでしょう。

 3車線の走行レーンで追い越し車線に入っても、遅れをとることはまったくありません。高速道路の速度域の範囲であれば、追い越しに十分なトルクを素早く発揮します。そうしてサッと再び走行車線に戻る際、車体の動きに重さを感じることもありませんでした。このバイクはある程度スピードに乗って走る方が安定し、楽しめるバイクであるとも感じたのです。

 筆者はこれ以前に、BMWモトラッドの「C400X」というスクータータイプの内燃機関のバイクに乗る機会がありました。そのときに感じたのは、長い距離を走る“快適性”を備えつつ、走りの面白さ、楽しさを同居させたBMWのバイクの理念でした。「Cエボリューション」にも間違いなく、その血脈が流れていると感じることができるのです。

電費にはやや不安……高速道路は短めに!?

 ただし、航続距離は少し厳しい……と言わざるをえません。定まった距離を移動するために高速道路を使うのなら問題ないでしょう。しかし、ツーリングのように流動的な走りをするにはまだ難しいと言えます。「Cエボリューション」は200Vコンセントと車体をケーブルでつないで充電を行ないますが、200Vの充電スポットが少ないからです。

275kgの巨体を取りまわす際に便利なリバース機能を標準装備。ハンドル左の「R」ボタンを押した状態でハンドル右のセルボタンを押すと後進する

 航続距離としては、高速道路を「セイル」モードで40km走り、28パーセントを消費しました。往路では一般道を含め、全体として58.5kmを走り、38パーセントを消費。復路はバッテリー残量が不安だったため、最も回生ブレーキが利き、加速が小さい「エコ・プロ」モードを使用。高速道路と10kmほどの一般道を62.3km走行し、36パーセントを消費しています。

 この日はショートツーリングを想定し、高速道路のインターチェンジ近くにある道の駅を目的地として往復してみました。

 全体として、130.8kmを走行して74パーセントのバッテリー消費でした。復路でも「セイル」モードを使っていた場合、充電スポットまでバッテリーが残っていたか疑問です。かなりギリギリだったと感じています。住んでいる場所にもよりますが、ツーリングとして130kmは少し物足りないでしょう。

ツーリングらしさを味わうため、目的地とした「道の駅はなぞの」(埼玉県深谷市)でトンカツを食す。塩とレモンだけで食べるこのトンカツ、ソースで食べるよりも肉の美味しさが感じられて驚いた

 このバイクを街乗りだけにとどめるには惜しい……そう思えるほど高速道路での走りが素晴らしいだけに、少し残念です。ただ、航続距離の点は「Cエボリューション」だけではなく、現状の電動バイク全体の課題と言えますから、今後の技術革新に期待したいところです。

※ ※ ※

 BMWモトラッド「C evolution」の価格(消費税10%込み)は159万円です。BMWモトラッドの公道仕様モデルにはすべてETC2.0車載器が標準装備されます。

【了】

【画像】BMWの電動バイク「C evolution」を見る(8枚)

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Writer: 伊藤英里

モータースポーツジャーナリスト、ライター。主に二輪関連記事やレース記事を雑誌やウエブ媒体に寄稿している。小柄・ビギナーライダーに寄り添った二輪インプレッション記事を手掛けるほか、MotoGP、電動バイクレースMotoE取材に足を運ぶ。

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