現地で見た『E-Xplorer』 電動バイクによる新しいレースのかたち

大阪府の「万博記念公園」で行なわれた電動バイクによるレース『FIM E-XPLORER WORLD CUP』の会場には、いつもとは違う雰囲気が流れていました。そしてまた、レース観戦らしい、熱い空気もありました。それらの混在は、新しいレースのスタイルだったのかもしれません。

まだ2年目の新しいカテゴリー、世界戦の開幕は大阪で

 2024年2月16日(金)、17日(土)に、大阪府の『万博記念公園』に設けられた特設会場で『FIM E-XPLORER WORLD CUP 大阪大会』が行なわれました。「E-Xplorer(イー・エクスプローラー)」とは、2023年にスタートした電動バイクによるオール・テレイン・レースです。2024年は初めて日本で開幕戦が行なわれ、その後ノルウェー、フランス、スイス、インドと全5戦が開催され、例えばスイスの山頂、とある市街地、今回の大阪大会のように、都市の中に位置する公園まで、場所を選びません。

エキゾーストノートが無くとも、トップライダーたちのバトルはとても迫力があり、圧倒される
エキゾーストノートが無くとも、トップライダーたちのバトルはとても迫力があり、圧倒される

 今大会には全8チーム16名のライダーが参戦しました。その中には、ホンダの電動モトクロスバイク「CR ELECTRIC PROTO」で参戦するファクトリーチーム「Team HRC」も含まれています。

 各チームは男性ライダー1人、女性ライダー1人で構成されています。つまり、チーム戦でもあるわけです。

 大阪大会のおおまかなタイムスケジュールは、以下の通りでした。

<2月16日(金)>
男子フリー走行1
女子フリー走行1
男子フリー走行2
女子フリー走行2

※「フリー走行」=練習走行のこと。

<2月17日(土)>
男子フリー走行3
女子フリー走行3
男子予選
女子予選
男子レース1
女子レース1
男子レース2
女子レース2
男子レース3
女子レース3

ブース出展エリアも用意された。こちらは電動モトクロッサー『SUR-RON(サーロン)』のブース。3チームがサーロンの「Ultra BEE」を起用していた
ブース出展エリアも用意された。こちらは電動モトクロッサー『SUR-RON(サーロン)』のブース。3チームがサーロンの「Ultra BEE」を起用していた

 男性ライダーと女性ライダーは分かれてフリー走行、予選、レースを行ないます。レースは3回行なわれ、それぞれのレースで優勝者から順次ポイントが付与されます。

 3回のレースのポイント合計によって、男性・女性ライダーそれぞれのトップ3が表彰される(優勝、2位、3位)というシステムです。

 今大会では、男性ライダーも女性ライダーも、優勝は2023年の参戦でチャンピオンを獲得したチームのライダーでした。走りのポテンシャルに加え、電動バイクレースによる戦い方の経験値も一役買っていたようです。

 また、男性・女性ライダーのポイントを総合して、最も多くのポイントを獲得したチームが優勝となります。今大会では「Team HRC」が優勝を飾りました。

電動バイクだからこその新しい可能性。その印象は?

「E-Xplorer」の取材をスタートした16日の午前中、わたし(筆者:伊藤英里)にとって印象的な出来事がありました。このとき、我々の仕事場となるメディアセンターは建物の地下に位置していて、地上の風景を見ることはできません。そろそろ走行時間かと階段を上がると、すでに走行が始まっていたのです。おそらく、内燃エンジンのバイクなら、走行が始まったことに気付いたでしょう。

1レースは8分+1周と短く、バッテリー残量に気を遣うことなく全力で特設コースを駆け抜ける
1レースは8分+1周と短く、バッテリー残量に気を遣うことなく全力で特設コースを駆け抜ける

 わたしは電動バイクによるロードレース選手権である、『FIM Enel MotoE World Championship』を初年度の2019年から取材し続けています。電動バイクの静かさについては分かっているつもりでしたが、体に染みついた「バイク=音」を、あらためて認識した一幕でした。

「E-Xplorer」は、そのようにエキゾーストノートが無いレースです。エキゾーストノートが無いことで、興奮の半減を懸念するモータースポーツファンも多いかもしれません。しかし、わたしが今大会で感じたのは、「静かなモータースポーツ」の可能性でした。

 例えば、予選が始まるころには、会場に入らない人も眺めている様子がありました。会場は万博記念公園の「お祭り広場」という場所で、とても開けています。チケットを購入した人はコースに近いスタンド席や芝生席で観戦しますが、その周辺の柵の外から、「E-Xplorerがあると知らずに来た」人も見ることができるのです。

 柵の外側には、おそらく休日を家族で過ごそうと来たのでしょう、年齢を重ねた夫婦や、小さな子供をつれた家族がいました。会場では音楽が流され、合間にはDJステージなども行なわれていて、「バイクのレース」でありながら「イベント」という雰囲気も満ちているのです。

レース日(土曜日)には大阪府の吉村洋文知事が来場。じつは学生時代にバイクの免許をとり、ホンダが初バイクだったという。「CRエレクトリック・プロト」に笑顔でまたがった
レース日(土曜日)には大阪府の吉村洋文知事が来場。じつは学生時代にバイクの免許をとり、ホンダが初バイクだったという。「CRエレクトリック・プロト」に笑顔でまたがった

 芝生席では子供をベビーカーに乗せた家族が、ピクニックみたいにランチをほおばりながら、電動バイクが特設コースを走り抜ける様子を眺めています。

 これまでのレース観戦とはまた違った、どこかのほほんとした雰囲気が流れているのです。その「レースとともに会場にいる丸ごとを楽しむ」雰囲気は、少し、ヨーロッパでの観戦スタイルに似ているようでした。

 しかしレースが始まると、空気がピリッとしたものに変わったのです。ライダーの激しいバトルを、観客が前のめりになって見入っている雰囲気が伝わってきます。

 観客を引き付けるのは、一流のライダーが本気で抜き、抜かれるトップクラスの戦いです。少なくとも観戦が至近距離となる会場で行なわれる電動バイクレースでは、音が無いことが、大きなネガティブポイントにはならないのかもしれません。

 むしろ、エキゾーストノートという、慣れない人には緊張を感じる音が無いことで、モータースポーツが多くの人に──特に子供などには──開かれているようでした。

【画像】『FIM E-XPLORER WORLD CUP』大阪大会の模様を画像で見る(22枚)

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