MotoGPの現場で進化する空力と快適性とは? アルパインスターズのヘルメット・レーシングサービス担当者に聞く

イタリアのライディングギアメーカー「alpinestars(アルパインスターズ)」は、MotoGPでヘルメットのサポートを行なっています。MotoGPライダーが使用するヘルメットはどのようなものでしょうか? 2025年シーズンのMotoGP第12戦チェコGPで、担当者に話を聞きました。

MotoGPライダーが使用するヘルメットは、市販製品「SUPERTECH R10」

「alpinestars(アルパインスターズ)」と言うと、日本ではライディングウエアやレーシングスーツのメーカーという印象が強いかもしれません。しかしじつは、そのラインナップにはヘルメットも含まれています。

ホルヘ・マルティン選手のヘルメット。「SUPERTECH R10」を使用しているが、トップ部分の通気孔だけが市販製品と異なる部分
ホルヘ・マルティン選手のヘルメット。「SUPERTECH R10」を使用しているが、トップ部分の通気孔だけが市販製品と異なる部分

 ヘルメットの開発は2010年にスタートし、2018年にモトクロスライダーたちへのサポートが始まりました。MotoGPライダーへのサポートがスタートしたのは2023年です。開発には元MotoGPライダーで現ヤマハのテストライダーであるアンドレア・ドヴィツィオーゾ選手が携わったということです。

 フルフェイスヘルメットである「SUPERTECH R10(スーパーテック・アール・テン)」は、2024年にヨーロッパで市販が始まっており、日本での発売が待たれるところとなっています。

 そんなアルパインスターズは、2025年シーズン、ホルヘ・マルティン選手、ペドロ・アコスタ選手、ジャック・ミラー選手という3名のMotoGPライダーと、Moto3ライダーの古里太陽選手、合計4名をサポートしています。

 MotoGPパドックにおけるヘルメットのレーシングサービスについて、シーズン前半戦締めくくりのチェコGPで、ヘルメット・レーシングサービスを担当するライアン・エストメントさんにお話を聞きました。

 ヘルメットのレーシングサービスは、レーシングスーツのサービスと同じようにアルパインスターズのサービストラックの中にあります。油圧でトラックの上部が伸び、2階建てになったサービストラックの1階部分がレーシングスーツのサービスで、ヘルメットのサービスエリアは2階の一角です。

 MotoGPライダーが使用するヘルメットと言うと、特別なヘルメットではないかと思うかもしれませんが、じつはそんなことはありません。アルパインスターズのサポートライダーたちが使用するのは、市販されているフルフェイスヘルメットである「スーパーテックR10」です。

「(MotoGPライダーが使用する)ヘルメットは、市販されている製品と全く同じです」と、エストメントさんは実際のヘルメットを見せながら説明してくれました。

 ただ、ひとつだけ異なる点があります。「トップ部分の通気孔」です。

「このトップ部分の通気孔によって、レースコンディションでより多くの空気をヘルメット内に取り込めます。それ以外の部分は全て、市販されているヘルメットと同じです」

「それから、デザインですね。どのライダーのヘルメットも、それぞれ本人がカスタマイズしています。デザインを決めるのはライダー自身で、もちろんそこにスポンサーが関わってくることもあります」

「例えば、マルティンのヘルメットには家族と飼い犬のイニシャルが入っています。犬の足跡もあって、もちろん“1”のナンバーもあります。彼はこれまで2度のチャンピオン(2018年Moto3、2024年MotoGP)に輝いているので、それが2つの星で表現されています。そして“ザ・マルティネーター”ですね。ターミネーター風のデザインを、彼自身のアイデアとして取り入れたものです」

「Moto3の古里太陽は、このデザイン全体をほぼ自分で、私たちのデザインチームと一緒に作り上げました。これはアルパインスターズ社内で制作され、太陽の意見を取り入れたものです。彼が希望したデザインである太陽、日の出、そして太陽自身のロゴが入っています」

 これらMotoGPライダーのヘルメットは、市販のヘルメットと違い、85%はエアブラシを使った手作業でのペイントです。ただ、ペインターが塗装前に表面を整えるので、最終的な重量は、市販製品と同じくらいになるそうです。

 シールドについても市販のヘルメットに付属しているものと同じものがMotoGPの現場で使用されています。私たちは、MotoGPライダーと同じヘルメットを購入し、使用できるわけです。

「一部のレプリカモデルは用意していますし、オンラインでも販売されています。ただし……レッドブルなどのスポンサーのデザインを除いて、ということになりますけどね!」

MotoGPで培われた技術は、市販製品に生かされる

 世界最高峰の舞台でのフィードバックは、日夜、市販製品の開発に生かされています。これについて説明してくれたのは、メディア・リレーションズ・マネージャーのクリス・ヒラードさんです。

Moto3ライダーの古里太陽選手(ホンダ・チームアジア)
Moto3ライダーの古里太陽選手(ホンダ・チームアジア)

「分かりやすい例のひとつとして、サイドにエアロパーツがあります。このヘルメットが最初にサーキットに登場したとき、これはまだ付いていませんでした。FIMのホモロゲーションを取得していなかったからです」

「このパーツを初めて装着したレースは、ムジェロ・サーキットでした。ムジェロでは360km/hで走行し、そのあとスクリーンの後ろから身を起こして減速します(メインストレートが1km以上ある)。この空力パーツが“機能するか”を確認するには、最適な状況でした」

「風洞テストでは安定性が向上すると分かっていましたが、ムジェロではライダーたちがその効果をすぐに実感したんです。彼らは『これをつけると、頭部が安定する感じがある』と言ってくれました。それでこのパーツはすぐに実戦投入され、以降も継続して採用されました。そしてもちろん、この開発によって最終的には市販モデルにもその恩恵が及ぶことになります」

「つまり、風洞テストからMotoGPのサーキット、そしてそれらが市販製品へとつながっていくのです。それが、私たちのヘルメットと他社製品との大きな違いのひとつだと思います。ウイングは完全に頭部の安定性と空気抵抗の低減を目的としており、ライダーが常に首を踏ん張らなくてもいいようにするためなんです」

「それから、バイザーにも工夫があります。ヘルメットにある小さな“タービュレーター”などです。これもまた、ドゥカティやKTMと一緒に行なった多数の風洞テストの成果で、(風による)ノイズを抑える効果があると分かっています」

 エアロダイナミクスは、アルパインスターズヘルメットの特長のひとつです。

「私たちはヘルメット製造の歴史も伝統も持っていなかったので、このプロジェクトを始めた2023年は、MotoGPライダーたちを支援するためのものでした。だからこそ、エアロダイナミクスには大きく注目しましたし、多くの風洞テストを行なったのです」

「そして視界をできるだけ広く確保することも意識しました。水平方向に220度、垂直方向に57度の視野を確保しています。ライダーたちもこれを高く評価してくれています。それに加えて、ベンチレーション、シェルそのものの構造、そして安全性も重視しました」

「そして、もうひとつの重要なポイントとして“快適性”が挙げられます」

 ヘルメットを快適にかぶっていられるということは、つまりライダーが「ヘルメットのことを気にしないで済む」ということです。それは「ライダーが100%、レースだけに集中できる状態」であるということなのです。

 ヘルメットは、ライダーの安全を守らなければなりません。しかし同時に、使用されている間は、走りを妨げることがあってはならないのです。極限の世界で求められた快適性は、市販製品のパフォーマンスにも大いに影響することでしょう。

 さて、ここで古里太陽選手が使用するヘルメットについても尋ねることにしました。前述のように、現在アルパインスターズのヘルメットは日本での発売が待たれている状態ですが、古里選手は、アジア仕様のヘルメットを使用しているということです。一般的に、ヨーロッパ人とアジア人の頭の形状が異なっているからです。

「この“アジアフィット”のヘルメットは今年リリースされたものです。太陽は“アジアフィットの初代アンバサダー”と言いたいですね。でも、基本的にはヨーロッパ仕様と同じヘルメットです。ただ、シェルのバリエーションがやや異なっていて、パッドも少し違います」と、ヒラードさんは説明します。

「ただ、ヨーロッパ仕様のものと、それほど大きくは違いません。太陽も、アジア仕様のヘルメットが公認されるまでは、ヨーロッパ仕様のヘルメットを使っていたんですよ。全く問題なくね。つまり、完全に別の頭の形に合わせているわけではなく、特定の市場に合わせた微調整がされているということなのです」

 アルパインスターズは、世界最高峰の舞台でライダーに安全と快適性を提供し、同時にヘルメットを進化させ続けているのです。

【画像】「えっ、市販製品と同じ!?」MotoGPライダーが使用するアルパインスターズのヘルメットを見る(7枚)

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Writer: 伊藤英里

モータースポーツジャーナリスト、ライター。主に二輪関連記事やレース記事を雑誌やウエブ媒体に寄稿している。小柄・ビギナーライダーに寄り添った二輪インプレッション記事を手掛けるほか、MotoGP、電動バイクレースMotoE取材に足を運ぶ。

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