絶景ヒルクライム厳選3峠!! ペダルを回し続けてトンネルを抜けた先に広がる感動のクライマックスとは
ペダルを踏み続けて、ようやくたどり着いた峠のトンネル。暗闇を抜けた瞬間、視界いっぱいに思わず息を呑むような絶景が待っています。そんな特別な体験ができる峠を3つ紹介します。
トンネルを抜けると、そこは絶景だった峠3選
ヒルクライムの末に現れるトンネル。その暗闇を抜けた瞬間、目の前にまったく別の世界が広がる……。
そんな「トンネルの先に待っている感動」を味わえる峠があります。ヒルクライムとしての走り応えと、トンネルを抜けた瞬間の絶景を同時に味わえる、3つの峠を紹介します。
■白沢峠(長野県)
標高:約1090m
ルート:長野市鬼無里~国道406号~白沢洞門

長野市の北西、戸隠と白馬の中間に位置する白沢峠では、鬼無里(きなさ)から登る国道406号で山あいを縫うように天神川沿いをゆるやかに登っていきます。
ヒルクライムとしての難易度は高くありません。急勾配はほとんどなく、穏やかな斜面が続くため、淡々としたペダリングで標高を上げていくタイプのルートです。そしてこの峠の真の魅力は、最後に待っています。
暴風雪を防ぐスノーシェイドと、トンネルが組み合わされた「白沢洞門」が現れたら、登りは終わりです。洞門の先に差し込む光が、まるで「この先に何かがある」という期待とともに導いてくれます。
そして、その暗がりを抜けた瞬間。目の前に、北アルプスの白い峰々が一気に広がります。唐松岳、五竜岳、鹿島槍ヶ岳。雪をまとった山の壁が、春の青空に映え、思わず息を呑む美しさです。
この景色を狙うなら、5月がベストシーズンです。残雪のアルプスと新緑のコントラストが鮮やかで、長野の春らしい空気を全身で感じることができます。無数の峠がある長野県ですが、トンネルの先にこれほどの絶景が待っている峠は、なかなかありません。
■ 御坂峠(山梨県)
標高:約1300m
ルート:甲府盆地~国道137号~県道708号~御坂隧道

甲府盆地と河口湖を結ぶ御坂峠。現在の国道137号は「新御坂トンネル」で峠の地下を貫いていますが、サイクリストが走るべきは旧道にあたる県道708号です。
登りは中央道「一宮御坂IC」付近から始まります。長い距離、広い国道を進みますが、後半で左折して県道に入ると、空気がガラリと変わります。
木々に包まれた静かな道に、九十九折のカーブが現れ、峠の雰囲気がぐっと高まります。舗装も良好で、交通量も少なく、安心して走れる道です。
峠の頂上には、昭和6年(1931年)に開通した「御坂隧道」があります。石造りの重厚なトンネルで、山梨県内でも屈指の歴史を誇ります。その絶景から、河口湖側には「天下第一」と刻まれた扁額(へんがく)が掲げられ、昭和の時代には富士山を望む名勝として多くの旅人に愛されました。
このトンネルを抜けた瞬間こそが、最大のハイライトです。暗闇を抜けたその先に、美しい富士山が現れます。眼下には河口湖が広がり、まるで絵画のような美しさです。
峠のすぐそばには「天下茶屋」があり、太宰治が執筆のために滞在したことでも知られています。彼が眺めたのと同じ富士を前に、お茶を一杯。そんな時間を過ごすのも、御坂峠の楽しみ方のひとつです。
■金精峠(群馬県~栃木県)
標高:約1850m
ルート:群馬県片品村~国道120号~金精トンネル

国道120号の最高地点に位置する金精峠は、群馬県と栃木県の県境にある峠です。日本の国道の中でも第3位の標高を誇ります。
峠を越える全長755mの「金精トンネル」は1965年に開通しました。一般車両が通行できる日本で最も標高の高い舗装路トンネルです。
登りの起点は、群馬県側の「道の駅 尾瀬かたしな」です。ここから峠までは約25kmで、極端な急勾配はなく、全体的に緩い登坂ですが標高差は1000mを超えます。
前半は、日光白根山が山間から顔を出す峠道を進みます。途中にはスノーシェイドが連続し、冬の厳しさを感じることができます。中盤以降には丸沼や菅沼と言った小さな湖沼が現れます。
そしてトンネルの手前に差しかかると、いよいよクライマックスです。暗いトンネルを抜けると一気に視界が開けます。
目の前に現れるのは、中禅寺湖の青い湖面と、どっしりとそびえる男体山です。日光の象徴とも言える山容を前に、長い登坂の疲れも吹き飛んでしまいます。
金精峠は標高が高いため、冬季閉鎖期間が長いので注意が必要です。例年12月下旬から翌4月下旬まで通行止めとなるため、実際に走れるのはわずか8カ月ほど。開通直後も天候次第では積雪で通行止めになります。天候情報をしっかり確認してから出かけましょう。
トンネルを抜けた、その先に
どの峠も、トンネルを抜けた瞬間にヒルクライムのクライマックスを迎えます。暗闇の向こうに広がるのは、峠に挑んだサイクリストだけが見られる絶景です。
白沢峠の北アルプス、御坂峠の富士山、金精峠の男体山。どれも心に深く残る、忘れられない光景になるでしょう。ペダルを回し続け、山に挑み、自分自身と向き合った末に、最後のトンネルを抜ける。その瞬間にこそ、ヒルクライムの本当の魅力があるのかもしれません。
Writer: 才田直人
1985年生まれ。学生時代に通学用に購入したロードバイクをきっかけにトレーニングを開始。サイクルロードレースの全日本選手権参戦やフランスでの選手生活、国内での社会人兼選手生活を経て2023年に引退。日本だけでなく東南アジアなど自転車旅をこよなく愛し、現在はワーケーション自転車旅を続けている。専門的な知識と経験でTV出演やヒルクライムイベントのアテンド、講師なども務める。










