「対向ピストン式」? 「ピンスライド式」? 一体何が違う? 油圧ディスクブレーキキャリパーのナゾ

現行スポーツバイクのほとんどが油圧式ディスクブレーキを装備していますが、メーカーのカタログなどを見ると「対向4POTキャリパー」とか「片押し2ポット」と様々な表記があって違いがよく分からない……。

油圧式ディスクブレーキには種類がある

 現行バイクのブレーキは、一部のスクーターなどのリアブレーキを除けば、ほとんどが「油圧式ディスクブレーキ」を装備しています。

 ブレーキレバーやペダルの「マスターシリンダー」と「ブレーキキャリパー」をホースで繋ぎ、油圧(正確には油ではなくブレーキフルードと呼ぶ液体)によってキャリパー内のピストンでブレーキパッドをディスクローターに押し付けて制動力を発生させる基本的な仕組みは、すべての油圧式ディスクブレーキで共通です。

油圧式ディスクブレーキの概念図
油圧式ディスクブレーキの概念図

 とはいえ油圧式ディスクブレーキは、マスターシリンダーやブレーキキャリパーをはじめ、ブレーキホースやディスクローターなどシステムを構成するパーツの数が多く、近年はABS(アンチロックブレーキシステム)の装備も義務付けられ、ますます複雑化しています。

 ここではブレーキキャリパーに焦点を当て、さらにその中でも要とも言える「ピストン」に的を絞って解説します。

「片押し」から「対向」ピストンに進化

 油圧式ディスクブレーキのブレーキキャリパーは、言うなればシリンダーのような役目を持ち、内部にピストンを備えています。そしてマスターシリンダーが生み出した油圧によってピストンが押し出され、ブレーキパッドをディスクローターに押し付けて摩擦することでブレーキが効きます。

 とはいえ、先に記した油圧式ディスクブレーキの概念図のように、ピストンが片方(一方向)からブレーキパッドを押すだけでは、摩擦力が弱くてブレーキの効きが弱いだけでなく、ピストンやブレーキパッドに押される力でディスクローターが歪んでしまいます。

 実際にはディスクローターを両側からブレーキパッドが挟み込む構造になっていますが、両側から挟み込むには、当然ですが両側にピストンを配置する必要があるのでは……と感じます。それこそが「対向ピストンキャリパー」です。

 ところが市販量産車で初めて油圧式ディスクブレーキを装備したホンダ「ドリームCB750FOUR」や、追撃すべく登場したカワサキの「Z1」や「Z2」は、対向ピストンキャリパーではなく、ピストンがひとつだけの「片押し式キャリパー」を装備していました。

対向ピストンキャリパーは、フロントフォークなどのブレーキブラケット部にボルト留めで固定される。片押し式キャリパーは、キャリパー本体が横方向にスライドできるようにブレーキブラケットにスライドピンで保持される
対向ピストンキャリパーは、フロントフォークなどのブレーキブラケット部にボルト留めで固定される。片押し式キャリパーは、キャリパー本体が横方向にスライドできるようにブレーキブラケットにスライドピンで保持される

 そこで対向ピストンキャリパーと片押し式キャリパーの仕組みについてですが、たとえばフロントブレーキの場合、ブレーキキャリパーはフロンフォークに装備されますが、対向ピストンキャリパーならシンプルにボルト留めされています。

 しかし片押し式キャリパーを単純にボルト留めしたら、ブレーキをかけた際に反力が生じて、ブレーキキャリパーやフォークのブラケット部分に負荷がかかってしまうし、もちろんディスクローターを挟むブレーキパッドの摩擦力も不均等になってしまいます。

 そこで片押し式キャリパーの場合は、キャリパーが横方向にスライドできるピンによって、ブラケット部に取り付けています。この構造により、ブレーキをかけると油圧でピストンが押され、さらに反力でキャリパーがスライドしつつ、ピストンが無い側のブレーキパッドも同じ力の強さでディスクローターに押し付けられます。

 そのため、片押し式キャリパーを「ピンスライド式キャリパー」と表記することもあります。

 ちなみに「ドリームCB750FOUR」のディスクブレーキはピンスライド式ではなく、ヒンジによってキャリパーが「スイング」する構造でした。

 当時のホンダ車のディスクブレーキはそのようなスイング式を採用していましたが、ほどなくピンスライド式に代わりました。

 なんとなく対向ピストンキャリパーの方がシンプルな仕組みに感じますが、市販車で先に登場したのは片押し式キャリパーでした。その理由は、当時は対向ピストンキャリパーを製作するのが技術的に難しかったり、対向ピストン式はキャリパーの厚みが増すため、ワイヤースポークホイールだとスポークに干渉してしまう問題もありました。

 しかしロードスポーツ車はワイヤースポークからキャストホイールが主流になり、またブレーキキャリパーの生産技術も向上し、なにより対向ピストンキャリパーはライダーのブレーキ操作に対するレスポンスや、ダイレクトな操作感に長けているという大きなメリットがあります。

 そのため1980年台前半のレーサーレプリカブームが始まる頃から、徐々にスポーツ度の高いモデルに対向ピストンキャリパーが装備されるようになりました。

「POT」「ポット」「ポッド」??

 そしてブレーキキャリパーと言えば、ピストンの数の表記も少々複雑です。「〇POT」(〇には数字が入る)とアルファベットで表記されることもあり、これはポットと読み、ピストンの数を表しています。

 ちなみにカタカナで「〇ポッド」と表記している場合もあり、「〇ポット」と意味は同じようですが、世界的には「〇POT」や「〇piston」が一般的なので、なぜ「ポッド」という呼び方が生まれたのかは不明です。

 話を戻して「〇POT」ですが、対向ピストンキャリパーの場合は2POTや4POTが主流で、かつては6POTもありましたが、構造的に偶数になります。

スズキ「Hayabusa GSX1300R」(1999年/輸出モデル)は、フロントブレーキに対向6POTキャリパーを装備。当時の大排気量モデルは6POTキャリパー装備車が多かった
スズキ「Hayabusa GSX1300R」(1999年/輸出モデル)は、フロントブレーキに対向6POTキャリパーを装備。当時の大排気量モデルは6POTキャリパー装備車が多かった

 現行バイクだと大排気量のスーパースポーツ系や、そこから派生したスポーツネイキッド系の多くはフロントブレーキに対向ピストンの4POTキャリパーを採用する車両が多く、125~400ccクラスの小中排気量のフロントブレーキは片押し2POTが主流のようですが、これは車重や動力性能に加えてコストの影響もあるでしょう。

 そしてアッパーミドルと呼ばれる800cc前後のスポーツ車は、対向ピストン4POTと片押し2POTが混在しています。

 また変わり種では、ホンダには一時期「片押しの3POTキャリパー」が存在ました。これは「CBR1000XXスーパーブラックバード」が装備した前後連動ブレーキの「デュアル・コンバインド・ブレーキ・システム」のメカニズムの特殊な例なので、詳細は割愛します。

 そして現行バイクのリアブレーキは、排気量に関わらず片押し式の1POTが主流ですが、重量のあるクルーザー系だと対向ピストンや片押し2POTキャリパーの場合もあります。

制動力の差よりもコントロール性の違いが重要

 先にも記しましたが、対向ピストンキャリパーはダイレクトでレスポンスの良いブレーキの操作感が大きなメリットです。そのためスーパースポーツモデルのフロントブレーキに採用されるパターンが多く、制動力も高いと言われています。

 とはいえ片押し式キャリパーは制動力が劣るワケではありません。じつは単純に制動力のみで言えば、ディスクローターの直径やブレーキパッドの当たり面積の影響が大きいため、片押し式か対向ピストンかはあまり関係ありません。そのため片押し式でも2POTキャリパー&大径ディスクローターなら、十分以上の制動力を備えています。

カワサキ「W800」(2026年)はフロントに片押し2POTキャリパーとφ320mmのディスクの組み合わせ。クラシック系やスポークホイール車は、フロントに片押し2POTキャリパーを装備する車両が多い
カワサキ「W800」(2026年)はフロントに片押し2POTキャリパーとφ320mmのディスクの組み合わせ。クラシック系やスポークホイール車は、フロントに片押し2POTキャリパーを装備する車両が多い

 おそらくは、対向ピストンキャリパーの方がコントロール性に優れ、ライダーが不安なくブレーキを強くかけられるため、結果として強い制動力を発揮できる……ということが、「対向ピストンキャリパーはブレーキが強力」と伝わった理由ではないでしょうか。

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Writer: 伊藤康司

二輪専門誌『ライダースクラブ』に在籍した後(~2005年)、フリーランスの二輪ライターとして活動中。メカニズムに長け、旧車から最新テクノロジー、国内外を問わず広い守備範囲でバイクを探求。機械好きが高じてメンテナンスやカスタム、レストアにいそしみ、イベントレース等のメカニックも担当する。

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