2ストエンジンのクランクを再生 「東洋硬化」のめっき技術と「井上ボーリング」の独自製品 カワサキ「マッハ」で旧車レースも好調!!
自身もカワサキの2ストロークマシン「750SS」(マッハIV/H2)で旧車レースを楽しむライターの後藤武さんが、部品が出なくなった旧車のエンジンを再生し、新車以上の性能を蘇らせる方法についてレポートします。
ガタが出てしまった旧車の性能を維持どころか向上させる
旧車の性能を維持し続けるのは楽しい一方で、苦労もあります。ライターのゴトー(筆者:後藤武)は「マッハ」(カワサキ「750SS」)でレースをしているのですが、全開で走らせ続けるものですから、あちこちにガタが出てきます。
部品があるものは交換すればよいのですが、ものによっては再生して使うしかない場合もあります。マッハの場合、ネックになったのがクランクでした。
2ストエンジンのクランクは、大端部にベアリングを使うため組み立て式になっています。クランクのオーバーホールでは分解してコンロッドやベアリングを交換しますが、分解と組み立てを繰り返すと、圧入部の締め代が少しずつ緩くなってしまいます。
これまでストリートであれば影響が出たことはありませんでしたが、レースではこれが致命的でした。走っているうちに振動が増えてパワーダウン。測定してみると、クランクがねじれてしまうという状況になっていたのです。
こうなると、分解・組み立てをしてもまた同じことになってしまいます。そこでクランクピンに硬質クロムめっきを施して太らせ、圧入代を増やすことにしました。
硬質クロムめっきを得意とする福岡県の「東洋硬化」に確認したところ、「できる」という頼もしい返事をいただくことができました。

依頼するにあたって重要なのが、締め代(圧入代)をどれくらいに設定するかということ。つまり、穴に対して軸をどれくらい太くするかということなのですが、これが実に難しいのです。
太くしすぎて塑性域(変形しても元に戻らなくなる領域)に入ってしまうと、かえって保持力が低下し、簡単に抜けてしまいます。金属が元に戻る弾性変形の範囲で設定しなければなりません。
当時の図面があれば判断しやすいのですが、そうした資料はないため、現在の測定値、材質やクランクの形状、ヤング率などまで考えて検討しなければなりません。
ゴトーが仕事でそうした計算をしていたのは40年も前のこと。もう何も覚えていないので、友人のジェイさんに助言を求めることにしました。現在は海外の2輪メーカーでレーシングマシンを開発している旧車仲間です。
ピン外径とクランクウェブの内径を測定していくと、締め代が極端に少ない部分が判明。この部分に硬質クロムめっきを施すことにしたのです。
今回目指す締め代は0.075mmです。クランクピンの狙い値は25.018mmで、もうひとつのクランクウェブのピン部分は28.055mm。公差はどちらもプラスマイナス0.005mmでお願いすることにしました。
この寸法を出すためには、最初に測定を行って正確に下研削を行い、最終的にもう一度研削して寸法を出さなければなりません。高い加工技術と設備を持ち、切削加工も自社で一貫して行うことができる東洋硬化だからこそ、この加工も安心しておまかせすることができるのです。

戻ってきたクランクピンは、埼玉県の「井上ボーリング」で組み立ててもらいます。センターシールには井上ボーリングのラビリンスシールを使います。
2ストエンジンはクランクケース内で一次圧縮を行っているので、それぞれの気筒をシールしておく必要があります。純正は通常のオイルシールを使いますが、井上ボーリングでは独自にラビリンスシールという非接触タイプのシールを開発、製造しています。非接触なので回転抵抗がなく、しかも摩耗しないので減ることもありません。
ゴトーのバイクでは、レースで使うためにオイルポンプを外して完全混合仕様にしています。そのため、2ストオイルをクランクシャフトに送るオイルシールレシーバーというマッハ特有のパーツも不要になります。
若干回転抵抗になっていたオイルシールレシーバーがなくなることで、ラビリンスシールの効果もより高くなります。
さらに、Oリング入りのベアリングを使うことにしました。エンジンを分解したときに、クランクベアリングの外周部が回ってしまった跡があったからです。
クランクベアリングの外周部が回ってしまうのは、ベアリングをしっかり保持できていない証拠。放置しているとガタが大きくなり、最後にはクランクケースが使えなくなってしまいます。Oリング入りのベアリングが、この症状にどこまで対応できるかテストしてみることにしたのです。
芯出しも完璧にしていただき、見事に蘇ったクランクシャフトを組み込んでみると、振動も減り、パワーも蘇っていました。1レースをこなしましたが、クランクがねじれてしまうような症状は出ていません。今後もレースで使い続けて、耐久性を確認していきたいと考えています。
硬質クロムめっきはクランクピンだけでなく、カムシャフトのジャーナル部にも使えます。その他にも、さまざまな応用が考えられることでしょう。
部品が出なくなった旧車のエンジンを再生し、新車以上の性能を蘇らせるのに、とても有効な方法となるはずです。
■取材協力=(株)東洋硬化、井上ボーリング
Writer: 後藤武
クラブマン誌や航空雑誌の編集長を経て現在はバイク、食、飛行機などのライターと
して活動中。飛行機とヘリの免許を所持しエアレースのTV解説も担当していたことも。2スト、旧車、V8のアメ車など多数所有。











