「ホンダが作るヤマハのバイク」!? 異なるメーカーが互いのバイクを生産する「OEM」ってナンダ!?
バイクは趣味性が強い乗りものだけに、メーカーの設計思想やデザインなどが色濃く反映され、バイクファンを魅了する要素のひとつと言えます。ところが他メーカーのバイクを生産する「OEMバイク」が存在しますが、どういうバイクなのでしょうか。
まさかホンダがヤマハのバイクを作るとは!?
バイクは趣味性が強い乗りものだけに、メーカーの設計思想やデザインなどが色濃く反映され、バイクファンを魅了する要素のひとつと言えます。
ところが、他メーカーのバイクを生産する「OEMバイク」が存在します。
「OEM」とは「original equipment manufacturer」の略で、ザックリ言うと他社ブランドを製造するメーカーや製品のことを指し、食品や衣料品、家電製品など様々な分野に存在します。
OEMで供給を受ける側には、開発費や生産コストなどをかけずにラインナップを拡大できるというメリットがあり、OEMで供給を行う側には、販路が拡大することで販売数が増加するメリットがあります。

たとえば、クルマの場合は思いのほかOEM車両がたくさん存在します。とくに配送などに使われる「軽バン」は日本の自動車メーカーの多くが販売していますが、現行モデルだと大抵はスズキの「エブリィ」か、ダイハツの「ハイゼットカーゴ」がベースになり、供給を受けたメーカー名や独自の車名のエンブレムを装着したOEM車両になっています。
バイクも原付1種のスクーターだと、ヤマハの「Vino(ビーノ)」と「JOG(ジョグ)」の現行モデル(すでに生産終了)は、ホンダが生産するOEM車両です。
2016年にホンダとヤマハは原付1種の協業を発表し、2018年モデルからホンダの「Giorno(ジョルノ)」をベースに「ビーノ」が、「TACT(タクト)」をベースに「ジョグ」が作られ、ヤマハが販売するようになりました。そのため「ビーノ」や「ジョグ」のエンジンには「HONDA」のロゴがシッカリ刻まれています。
とはいえ、いずれのスクーターもカラーやエンブレムだけでなく、ヘッドライトなどフロント周りのデザインをベース車から変更しています。
少々話が逸れますが、ホンダとヤマハは1980年代に「HY戦争」と呼ばれた猛烈な販売合戦を繰り広げた経緯があるだけに、当時を知っているライダーやバイク業界の人は両社の協業とOEM販売には本当にビックリしたことでしょう。
原付1種のスクーターは通勤や通学、買い物の「足」に使う人も多く、中にはスポーツバイクほど「メーカーの好み」を問わない人も少なくないかもしれません。
また近年は原付1種の需要が「HY戦争」の頃と比べて激減(実質終了)しており、生産コストの削減(=販売価格の上昇を防ぐ)ためにもOEMのメリットは大きいでしょう。
カワサキとスズキが協業!
スポーツバイクは趣味性を問われる乗りもの(持ち物)です。多くのライダーが性能やメカニズム、デザインやカラーリングなど自分の好みに合ったバイクを探して購入しています。
そこにはメーカーの思想や特色が大きく影響するので、スポーツバイクでのOEM車両はあまりイメージが沸かないかもしれませんが、過去には存在しました。
じつは2000年代初頭に、スズキとカワサキが互いにOEM供給・販売を行っていたのです。

スズキとカワサキは2001年8月に「二輪車、ATVの商品開発・調達・生産などの分野において、互恵と平等の精神に基づき業務提携を行うことを基本合意した」と発表しました。
そして2002年に、カワサキの250ccクラスの4気筒のネイキッド車「バリオスII」が、スズキから「GSX250FX」の名称で、「D-TRACKER」が「250SB」の名前で発売されました。
反対に、スズキからはビッグスクーターの「スカイウェーブ250」と150ccクラスのスクーター「アヴェニス150」がOEM供給され、カワサキから「イプシロン250」「イプシロン150」の名前で販売されました。
前述したように、OEMは開発費や生産コストなどをかけずにラインナップを拡大できるというメリットがあります。その意味ではカワサキはそれまで(現在も)スクーターを生産していなかったので、扱うカテゴリーの拡充という部分で効果があったのではないでしょうか。
とくに当時はビッグスクーターが流行しており、ユーザー側も(とくにカワサキファンは)カワサキブランドのスクーターを購入できる、という喜びがあったでしょう。
スズキも当時は250ccクラスの4気筒車は「バンディット250」が生産終了しており、人気が高まりつつあったスーパーモタード系も2004年に「DR-Z400SM」が発売されるまで空白だったので、ラインナップの補完に役立ったと考えられます。
ちなみに、国内の市販モデルでのOEM供給・販売は上記のバイクのみですが、輸出車だとエンデューロ競技車両のスズキ「DR-Z125」→カワサキ「KLX125」や、「DR-Z400」→「KLX400R」があり、モトクロッサーではカワサキ「KX65」→スズキ「RM65」があります。
また輸出車の公道モデルでは、アドベンチャーモデルのスズキ「Vストローム1000」→カワサキ「KLV1000」、大型クルーザーのカワサキ「バルカン1600ミーンストリーク」→スズキ「マローダー1600」があります。
他にもATV(4輪バギー)なども含めると、スズキからカワサキへ9機種が、カワサキからスズキへは7機種がOEM供給されたそうです。
OEMを超える共同開発モデルも登場するが……
じつはスズキとカワサキは、OEM供給・販売だけでなく競技用モトクロッサーを「共同開発」しています。それが2004年のスズキ「RM-Z250」とカワサキ「KX250F」です。
「RM-Z250」はスズキにとって初の4ストロークエンジンのモトクロッサーです。またカワサキも2003年に新設計の4ストロークエンジンを搭載したワークスマシ「KX250F-SR」をレースに投入し、翌年に用意した市販モトクロッサーが「KX250F」になります。

既存の2ストロークエンジンに加え、新規で4ストロークのモトクロッサーを開発するにはコストも労力もかかります。そこでスズキとカワサキは共同開発に踏み切りました。
国内では競技用モトクロッサーが大量に売れるワケではありませんが、アメリカをメインとした海外市場では大きなパイがあるからでしょう。
そして2社が技術を投入した「RM-Z250」と「KX250F」は人気を獲得し、2005年モデル(主にカラー変更)も販売されましたが、2006年はカワサキのみモデルチェンジしてスズキは継続販売、そして2007年はスズキがモデルチェンジ……と、共同開発車は実質的に2004年モデルの1回のみで終了となってしまいました。
理由は定かではありませんが、コスト削減やラインナップ拡充のメリットがあるOEM車両と同じようにはいかなかったようです。
そしてスズキとカワサキの業務提携は2007年に解消されましたが、OEM車両の方はその間にモデルチェンジやマイナーチェンジを重ね、スズキからは2万3000台、カワサキからは7000台が供給されたそうです。
ホンダからヤマハへの原付1種スクーターのOEM供給もすでに終了しています。協業やOEM提携を解消したわけではなく、原付1種そのものが最新の排出ガス規制の基準に対応困難なため生産終了した……というのが現状で、既存の原付1種に代わる「新基準原付」は、両社とも独自に開発、生産を行っています。

というワケで、現時点では日本メーカーのOEM車両はゼロになります。クルマ(4輪車)とは用途や選択基準がかなり異なるので単純に比較はできませんが、バイクのOEMは難しいのかもしれません……。
Writer: 伊藤康司
二輪専門誌『ライダースクラブ』に在籍した後(~2005年)、フリーランスの二輪ライターとして活動中。メカニズムに長け、旧車から最新テクノロジー、国内外を問わず広い守備範囲でバイクを探求。機械好きが高じてメンテナンスやカスタム、レストアにいそしみ、イベントレース等のメカニックも担当する。








