自転車の原点は、ヨーロッパ貴族のおもちゃ!? 「蹴る」から「漕ぐ」までの歴史を振り返る

はるか昔からある原始的な乗り物と思われがちな自転車ですが、その歴史は意外と浅く、誕生から200年程しか経っていません。自転車の黎明期を振り返ります。

地面から足を離して、「漕ぐ」ようになるまで

 燃料を必要とせず、人の力だけで進むことができる自転車は、シンプルな構造で日常生活の中に当たり前に存在していますが、その歴史は意外と浅く、誕生から200年程しか経っていません。

日本では「だるま自転車」と呼ばれた「オーディナリー型自転車」
日本では「だるま自転車」と呼ばれた「オーディナリー型自転車」

 自転車の原点は、1800年代にヨーロッパの貴族の間で流行し、後にイギリスでは「ホビーホース」、フランスでは「ベロシフェール」と呼ばれた、木馬の前後に車輪を取り付けた、足で地面を蹴って進むおもちゃだと言われています。

 ハンドルは無く、ただまっすぐ走るだけ。曲がるには一度停止して、木製の重い本体ごと向きを変える。当時のヨーロッパ貴族は、一体それの何が楽しかったのか……。

 その後、1813年(1817年ともいわれる)にドイツのカール・フォン・ドライス男爵がハンドルを取り付け、走りながら曲がることができる足蹴り式の2輪車「ドライジーネ」を発明しました。

 最近、公園などで小さな子供が地面を蹴りながら楽しそうに乗っている「ストライダー」などをよく見かけますが、そのキックバイクを大きくしたものをイメージすると分かりやすいと思います。

ハンドル操作が可能な世界で最初の自転車「ドライジーネ」
ハンドル操作が可能な世界で最初の自転車「ドライジーネ」

 地面を足で蹴って進むだけですが、37kmの距離を2時間30分で走ったという記録(平均約15km/h)も残っており、それなりのスピードは出ていたようです。

 それから20年以上が経って、1839年にスコットランドの鍛冶屋カークパトリック・マクミランが、ラテン語で「早足」を意味する、鉄製の「ベロシペード」という2輪車を発明したと伝えられています。

 しかし、この段階でも現代の自転車につながるようなペダルはなく、蒸気機関車のように梃(てこ)の原理を利用して車輪を回す、踏み込み式の2輪車でした。

 足を回転させるのではなく、地面を歩くように足を上下に踏み込むタイプだったそうですが、この2輪車は当時の存在を証明する資料などが残っていないため、現在の研究では本当に実在したのか疑問視する見方が優勢になっています。

 あくまで想像ですが、この時代は多く人が研究を重ね、数々の「自転車もどき」の発明が生まれては消えていたのかもしれません。歴史の中に埋もれた多くの開発者の試行錯誤の一端が見えるような気がします。

前輪にペダルを直接取り付けた「ミショー型自転車」
前輪にペダルを直接取り付けた「ミショー型自転車」

 足蹴り式2輪車から40年以上の月日が流れ、1860年代にようやく現代の自転車のようなペダルがついた2輪車が登場します。ただし、まだペダルの回転をチェーンを使って後輪に伝える後輪駆動ではなく、前輪にペダルを直接取り付けた、ペダルの回転がそのまま前輪の回転になる前輪駆動でした。現在の小児用3輪車のようなものです。

 この発明については「正当な発明者は自分である」と主張する人物が複数いるので断定することは難しいのですが、1861年にフランスのミショー親子が設計した「ミショー型」が工業製品として初めて量産されたことから、ミショー親子によるものと認知されています。

 前輪駆動はペダル1回転がそのまま車輪の1回転になるので、速く走ろうとした場合は、ペダルの回転数を上げて前輪の直径を大きくする必要があります。そこで登場したのが、巨大な前輪を持つ、後輪の直径より極端に大きな形状の「オーディナリー型自転車」です。その呼称は「ペニー・ファージング」や「ハイ・ホイール・バイク」とも言われます。日本では「だるま自転車」と呼ばれました。

 これが、当時盛んに行なわれたレースなどで使われて好評となります。1870年頃にイギリスのジェームス・スターレーがスピードを追求して設計した「オーディナリー」をはじめ、後追いメーカーも現れ、拡大を続けた前輪は直径が1.5mを超えるものもあったそうです。現代の日本人でも身長170cmの場合、平均股下は75cmくらいと言われています。体格が異なる欧州人でも、ペダルを回すのはギリギリだったと想像できます。

「オーディナリー型自転車」はスピードを追求し、レースも盛んに行なわれた
「オーディナリー型自転車」はスピードを追求し、レースも盛んに行なわれた

 しかも乗車位置が極端に高く、乗っている間は地面に足が届きません。転倒した場合はかなりの高所から落ちる危険性もあり、日常用としては普及しなかったそうです。

※ ※ ※

 現在まで続く自転車の原型が生まれるにはもう少し時間がかかりますが、1800年代に発生した自転車の原点(原種?)から、日本では「だるま自転車」と呼ばれ一時は国内でも製造された特徴的なフォルムの自転車が流行した1870年頃まで、自転車黎明期を振り返ってみるのも面白いものです。

 本記事は「自転車文化センター」が所蔵する資料を基にしています。貴重な歴史的自転車を実際に見ることができるので、興味のある方は訪れてみてはいかがでしょうか。

■自転車文化センター(取材・撮影協力)
所在地:東京都品川区上大崎3-3-1 自転車総合ビル1F
入館料:無料
開館時間:9時30分~17時(最終入館16時45分)
定休日:月曜日(祭日の場合は翌平日)、年末年始

【画像】様々なフォルムがあった、自転車の起源を見る(9枚)

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