アクセル&クラッチ操作不要でギアチェンジ可能な「クイックシフター」って、そもそもナニ?
日々進化するバイクのメカニズム。英文字やカタカナで表記される最新機構も数多く、いったいどんな機構で、バイクに乗る上でドコに役立つのかいまひとつ解らない「コレってナニ?」という装備が盛り沢山です。今回はその中から「クイックシフター」について解説します
シフトペダル操作だけで、ギアチェンジできる
スポーツバイクの多くは5速、または6速の変速機(トランスミッション)を装備しており、スピードや走行状態によってギアチェンジを行ないます。

ギアチェンジするにはアクセル(スロットル)を戻し、クラッチを切り、シフトペダルの操作が必要になりますが、「クイックシフター」を装備していれば“シフトペダルの操作のみ”でギアチェンジが可能になります(走行中のギアチェンジのみ。発進時や停止時はアクセルやクラッチの操作が必要)。
もともとは、レース用に生れた機構
クイックシフターは速さを競うレースシーンで、ギアチェンジにかける時間を短縮するために生まれた機構です。

加速する際のシフトアップで、アクセルを戻してクラッチを切っている間はエンジンのパワーが後輪から途切れるため、その分加速が鈍ります。またカーブを立ち上がる際は、まだ車体が深く傾いて旋回中にシフトアップしますが、ここで後輪の駆動力が途切れると、走行ラインが膨らんでしまいます。
反対に減速時のシフトダウンは、スムーズに行なわないと強くエンジンブレーキが効いてショックが発生します。これもシフトダウン操作にかける時間が長いことが原因ですが、このショックがカーブに進入する時に起こると、思い通りに曲がり始めることができません。
そこで、アクセルとクラッチの操作が不要で、シフトペダル操作のみで瞬時にギアチェンジできるクイックシフターが必要になったワケです。クイック(quick)は「素早い、迅速な、短時間の」といった意味なので、まさに名前通りの機構です。
シフトアップ側は、けっこう昔から存在した
じつは、シフトアップ側のクイックシフターは、けっこう以前から存在していました。あくまでレース用で同様の装備としては、1970年台頃から使われていました。
そもそもギアチェンを行なう時に、アクセルを戻してクラッチを切るのは、変速機のギア同士がガッチリと噛み合っていてギアが切り替えられないため、その噛み合った力を抜くために行なっています。
そこで、シフトペダルを操作する瞬間にエンジンの点火をカットして、ギアが噛み合う力を抜くのが、シフトアップ側のクイックシフターの大まかな仕組みです。
「ライド・バイ・ワイヤ」の登場で、シフトダウンにも対応!
ギアチェンジ操作では、シフトアップよりシフトダウンの方が苦手……というライダーは多いかもしれません。ギアを落としてクラッチを繋ぐと、ガクンと車体が揺れたり、ともすれば強いエンジンブレーキが効いて後輪がロックしそうになることもあります。このショックを無くすには、シフトダウン操作の最中にアクセルを開けて空ブカシする「回転合わせ」のテクニックが有効ですが、けっこう難易度が高いのです。

これはバイクにとっても同様で、以前のバイクの構造ではアクセルやクラッチ操作ナシで、シフト操作のみでギアを切り替えることはできても、ショックを消すための回転合わせは不可能でした。そのためクイックシフターは、長らくシフトアップ側のみに使える装備だったのです。
しかし、アクセル(スロットル)を電気信号によって電動サーボモーターで開け閉めする「ライド・バイ・ワイヤ(ホンダの呼称はスロットル・バイ・ワイヤ)」が登場したことで、バイク自身が「回転合わせの空ブカシ」(オートブリッパーと呼ぶ)をできるようになりました。
この電子技術の進化によって、2010年代の中頃からシフトダウンにも対応するクイックシフターの装備が始まりました。
仕様の種類やオプション設定もアリ
クイックシフターは(現時点では)、シフトアップ側のみ作動するタイプと、アップ/ダウン対応の「双方向クイックシフター」の2種類があります。また標準装備される場合と、オプション設定の車種もあるので、バイク選びの際には注意が必要です。

また前述したように、クイックシフターはレースから生まれたもので、基本的にスポーツ走行に向けた機構です。アクセルとクラッチ操作が必要ないので、なんとなくオートマの雰囲気もありますがAT免許では乗れませんし、レースやサーキットのスポーツ走行で使わない低回転域(3000回転以下など。メーカーや車種で異なる)では作動しない場合もあります。
とはいえカワサキ「Ninja H2 SX」のように、クイックシフターの作動回転を1600rpmに下げて(カワサキの他モデルのクイックシフターは2500rpm)、ストリートライディングにも対応したモデルもあります。
この辺りもバイク選びの際には、自分の使いたいシーンに合っているか、キチンと調べた方が良いでしょう。
Writer: 伊藤康司
二輪専門誌『ライダースクラブ』に在籍した後(~2005年)、フリーランスの二輪ライターとして活動中。メカニズムに長け、旧車から最新テクノロジー、国内外を問わず広い守備範囲でバイクを探求。機械好きが高じてメンテナンスやカスタム、レストアにいそしみ、イベントレース等のメカニックも担当する。















