「天才タマゴ」と呼ばれたミニバン! トヨタの初代「エスティマ」とは
モータースポーツ界の生き字引、現役レーサーの木下隆之氏の新連載コラム「木下隆之のヒストリカルパレード(通称:ヒスパレ)」連載第14回目は、「天才タマゴ」と呼ばれた大型ミニバン初代「エスティマ」を発売当時の世間の状況を踏まえ解説します。
キュートなキャッチフレーズで鮮烈デビュー!
「天才タマゴ」
こんなキュートなキャッチフレーズでデビューした初代エスティマは、世界を震撼させるほどエポックなモデルでした。

それまでのミニバンは、フロントサスペンションの上にコクピットがありました。エンジンもドライバーの下に位置していました。トラックのようなレイアウトでした。そのために、エンジンやサスペンションの上に座るドライバーは乗り心地に悩まされていました。快適性に難があったのです。真下から突き上げられ、尻の下のエンジンが振動するのですからそれも道理ですよね。
エスティマは、フロントサスペンションを前端にずらすことでドライバーを突き上げから解放しました。なおかつ直列2.4リッターエンジンを75度も傾けて搭載することで、驚くほどの低床化を実現したのです。いわばミッドシップレイアウトです。
クルマにとって最重量物であり最大サイズのエンジンは、豊かな室内空間を満たさなければならないモデルにとっては邪魔な存在です。ですが、それがなければ走らない。苦肉の策ではありますが、アイデアと技術の勝利だと思いますね。
それでいて、フォルムはイビツにならず、というよりむしろキュートなそのスタイルは革新的であり、デザイナーの才能を感じさせます。
まさに「天才タマゴ」です、サイドから眺めると、その特異なフォルムで印象的ですね。丸い卵のようでもあり、猫背の恐竜のようでもあります。とても愛らしいのです。

インテリアも特徴的でした。トラックのようにフロントガラスが目の前にそそり立っていませんから、圧迫感がありません。ダッシュボードの造形にも余裕が確認できます。いまでこそ、エスティマに触発されたミッドシップレイアウトのモデルも少なくありません。
衝突安全テストの基準も厳しくなり、ドライバーの前方に衝撃吸収のための生存空間を設けなければならないこともあり、フロントガラスとの距離は伸びています。ですが、当時としてはその革新的でした。その発想の豊かさに気持ちが射抜かれたことを記憶しています。

ただ、全長は4750mmと長めでしたし、何よりも全幅は1800mmにも達しました。日本の道にはやや大き過ぎたのです。価格も決して安くはありませんでした。人気はあったのですが、日本のマーケットでは販売で苦戦しています。
一方、海外での人気も高かったと聞いていますが、2.4リッターの動力性能が非力とのこと、やはり販売的に苦戦したそうです。エポックなモデルですが、バカ売れするとは限らないのですね。
もっとも、時代は変わりました。アルファードの全長は4995mm、全幅は1850mmもあります。エスティマはけして大きくはないのです。自然に街中に溶け込むような気がします。
威圧感のあるミニバン全盛の時代だからこそ、天才タマゴのような愛らしいミニバンがウケるような気がするのは僕だけでしょうか。
◾️トヨタ「エスティマ 2WD」
<エンジン>
形式:2TZ-FE
種類:直列4気筒DOHC16バルブ
使用燃料:無鉛レギュラーガソリン
総排気量(cc):2438
圧縮比:9.3
最高出力(ps/r.p.m):135ps(99kW)/5000
最大トルク(kg-m/r.p.m):21.0 (205.9N・m)/4000
燃料供給装置:EFI(電子制御式燃料噴射装置
燃料タンク容量(リットル):75
<寸法・定員>
全長(mm):4750
全幅(mm):1800
全高(mm):1780
ホイールベース(mm):2860
車両重量(kg):1730
乗車定員(名):7
※ ※ ※
初代「エスティマ」が登場した1990年には、ホンダからスーパースポーツ「CBR400RR」が発売されました。レーサーレプリカブームの集大成とも言える「CBR400RR」は、最高出力59PSを発揮する水冷・ 4サイクル・DOHC・直列4気筒エンジンを搭載し、扱いやすさでもユーザーから注目を浴びていました。
Writer: 木下隆之
1960年5月5日生まれ。明治学院大学卒業後、出版社編集部勤務し独立。プロレーシングドライバーとして全日本選手権レースで優勝するなど国内外のトップカテゴリーで活躍。スーパー耐久レースでは5度のチャンピオン獲得。最多勝記録更新中。ニュルブルクリンク24時間レースでも優勝。自動車評論家としても活動。日本カーオブザイヤー選考委員。日本ボートオブザイヤー選考委員。















