どっぷりインディアンでのバイクライフを楽しんでいたある日、突然余命宣告を受けとしたら…… 余命4日からのリハビリと復活

インディアンモーターサイクルを御夫婦で楽しむ伊藤さん夫妻。ところがある日、突然の余命4日の宣言……伊藤さん夫妻はどのような気持ちで病気に立ち向かっているのでしょうか。モーターサイクルジャーナリストの小林ゆきさんがバイクライフや闘病時の様子についてインタビューを行いました。

いつもかたわらにバイクがあった

 海辺にほど近い西湘地区にお住まいの伊藤さんご夫妻。インディアンのスーパーチーフとスポーツチーフにふさわしい佇まいのお宅の中は、アメリカンなインテリアで素敵に彩られていました。

 若い頃から憧れていたインディアンが、新生インディアンとなって日本でも発売されることになり、一気にバイク熱が高まった睦美さん。お子さんが独立し、奥様の由美さんも二輪免許を取得してご夫婦で毎週のようにインディアンでツーリングを楽しんでいたところ、睦美さんの病気が発覚したのだといいます。

インディアンオーナーの伊藤さん夫妻。再びインディアンで走ることを目標に闘病を続けています
インディアンオーナーの伊藤さん夫妻。再びインディアンで走ることを目標に闘病を続けています

 現在もガンサバイバーとして治療中の睦美さんですが、ご夫妻にバイクライフの変化はあったのでしょうか。

 もともとはライトなバイクユーザーだった睦美さん。空前のバイクブーム世代で、高校時代は「バイクの免許を取らせない・バイクを買わせない・バイクを運転させない」という“3ない運動”真っ只中。校則で免許は取れなかったけれど、神奈川のバイクのメッカ、湘南や伊豆・箱根にほど近い地域のご出身であり、友だちは皆バイクに乗っていて、当然ながらバイクに興味はあったのだそう。

インディアンモーターサイクル「スポーツチーフ」オーナーの伊藤睦美さん。再びスポーツチーフで奥様の由美さんと走ることを目標に闘病をしています
インディアンモーターサイクル「スポーツチーフ」オーナーの伊藤睦美さん。再びスポーツチーフで奥様の由美さんと走ることを目標に闘病をしています

──バイクに乗り始めたのはいつだったんですか?

睦美さん「免許を取ったのは24歳くらいでけっこう遅かったんです。最初に乗ったのは中古のホンダMVX250。次にCBX400F、それからVF400Fに乗って。でも子どもが小さかったんで、しばらくバイクに乗らない期間がありました」

由美さん「子どもが3歳か4歳ぐらいのときに免許を取りに行ってるんで。結婚が早かったんですよね」

──奥様は、旦那様がバイクに乗ることを反対されなかったんですか?

由美さん「実は、もともと実家がバイク一家なんです。父がバイク大好きで、ゴールドウィングを5台乗り継いだほどで。高校3年生のとき、自動車の免許を取りに行きたいって親に言ったら、四輪はダメって言われて。四輪は人を巻き込むけど、二輪は自分だけ転けてればいいから、二輪ならいいって」

 今でこそ、親世代がバイク乗りだったり、バイクに理解があったりするのは当たり前になってきましたが、3ない運動全盛の当時は珍しかったはずです。後に夫妻がインディアンにハマる布石となったのではないでしょうか。しかし、由美さんはそのときバイクの免許は取らなかったそう。

睦美さん「しばらくクルマ趣味の方にいって、バイクはずっと乗っていませんでした。息子が高校入ると同時に原チャリ免許を取りたいって言い出して。で、いや原付きはダメ、中型から取りなさいとか言って。今から23年くらい前ですね」

インディアンモーターサイクル「スーパーチーフ」オーナーの伊藤由美さん
インディアンモーターサイクル「スーパーチーフ」オーナーの伊藤由美さん

──息子さんの免許やバイクは息子さんご自身で?

由美さん「いえ、じいちゃん。私の父親が出してくれました(笑)」

睦美さん「それで、自分もまたバイクに乗り出して。息子はマグナ250、僕は実家のお父さんが乗ってたビッグスクーターを貸してもらって、フュージョン、マジェスティ、フォルツァといろいろ乗りました。
 その後、息子がスティードを自分で買ったんです。で、車検のときバイク屋さんに付いて行ったらスティードのスプリンガーがあったので、それに乗りたくなっちゃって」

──その辺りからだんだんアメリカンの方向に。

睦美さん「それで、お父さんのマジェスティを下取りに出しちゃって(笑)。そのときのスティードはまだ息子が乗ってます」

 ここまでは、よくあるリターンライダーと親子の物語だが、睦美さんの人生にインディアンが登場したことで、さらには奥様の由美さんもどっぷりインディアンの深みにはまることとなります。

──インディアンはいつから興味があったんですか?

睦美さん「息子が小学校の時に観に行った映画に出てきたんですよ。ラストのシーンにちょこっと出て来るぐらいなんですけど。たしかチーフだったかな。それが頭に残ってて」

 何の映画だったかも思い出せないほどのささいなシーンだったそうですが、銀幕のインディアンの姿は強烈に睦美さんの脳裏に刻み込まれました。

睦美さん「もともとアメリカのネイティブ・アメリカンに興味があったんですよ。歴史から入って、インディアンというバイクメーカーにも興味が出てきて。インディアンの会社の歴史も調べて、勉強して凄い会社だなと思いました。
 でもインディアンを目にする機会はないから、オートバイの博物館にインディアンを見に行ったりして。富士宮の“もちや”(※)に2台あったんですよね、スカウトとチーフと」

※「ドライブインもちや」に「二輪車会館」という博物館があった(現在、閉館中)。

インディアンのグッズやウエアであふれ伊藤さん夫妻のご自宅
インディアンのグッズやウエアであふれ伊藤さん夫妻のご自宅

──新生インディアンとなる前、インディアンのアパレルなどが日本でも売られていました。

由美さん「結構、買いました。着るものから靴まで、見つけたら全部買うみたいな。今逃したら買えなくなるって思って。今は逆に正規ディーラーで買えるようになるなんて、夢みたいねって言ってます。探さなくても買えるねって」

 なるほど、伊藤さんご夫妻のご自宅は素敵なレトロ・アメリカンなインテリアに囲まれ、そこいらじゅうにインディアンのグッズやウエアであふれています。

──そして、ついに新生インディアンのモーターサイクルが日本にも入ることになりました。

睦美さん「インディアンが復活したっていうニュースを見て、モーターサイクルショーを見に行きました。いつか買うぞって思ったけど、どこで買えるかも分からないし。そしたら茅ヶ崎にディーラーができたって聞いて、すぐ見に行って。小田原で試乗会をやるって聞いて、さっそく乗ってきて。またがった瞬間に、これに乗るぞって決めました」

 睦美さんのインディアン熱が高まるとともに、由美さんもバイク乗りデビューします。

伊藤さん夫妻が以前に乗っていたインディアン「スカウトボバー」と「スカウトボバートウェンティ」
伊藤さん夫妻が以前に乗っていたインディアン「スカウトボバー」と「スカウトボバートウェンティ」

由美さん「私は54歳で小型二輪の免許を取りました。半年後に中型、1年半後に大型二輪を取りました。その頃はカワサキW650に乗っていたんですけど、インディアンの試乗会で乗ってみたんですよね。大型の免許取ってまだ2、3か月目くらいのとき。
 初めてのアメリカンタイプのバイクで、大丈夫なのかしらとか思いながら、一時停止の時に一瞬倒れそうになったのを、バイクが持ち直してくれたんですよ。絶対今、自分のバイクだったら転けてたよって思うぐらい倒れたんだけど、こう、ふっと持ち上がってくれて。で、私にも乗れるかもって思いました」

 ディーラーのかたがハンドルやレバーを小柄な由美さんに合わせて位置合わせをしてくれたことで、乗りやすさも加わって由美さんも買い換えを決意。夫妻の元にスカウトボバーとスカウトボバートウェンティが揃いました。

夫婦の新たなるかすがいはインディアン

 それからというもの、毎週のようにツーリングを楽しんだという伊藤夫妻。

──憧れのインディアンを手に入れてどんな感想を持たれましたか?

睦美さん「もう楽しいのひと言です。そんなに数多く色んな車種に乗ってきたわけじゃないですけど、全然違いました。乗ってて楽だし安定してくれるし、なんせ楽しい。ボバーだったんで思ったより足を出して乗るんですけど、下手なバイクよりも曲がってくれるし」

インディアンオーナーの伊藤さん夫妻。再びインディアンで走ることを目標に闘病を続けています
インディアンオーナーの伊藤さん夫妻。再びインディアンで走ることを目標に闘病を続けています

──どんなところを走っていますか?

睦美さん「まずは練習って感じで、慣れてもらわないと困るんで、東名の脇を走る山道があるんですけど、そこを走って、相模湖から大垂水に行ったり。20号線をそのまんま勝沼へ。御坂を越えて、あるいは三富の方まで行って」

由美さん「あと富士山。得意なのは富士山一周ですね。朝8時出発とかで、昼過ぎには帰ってきちゃうよね。それを休みの度に。伊豆半島に行ったりもしました」

ご自宅のインディアンの壁掛けフラッグとともに、インディアンの正規輸入元ポラリスジャパンのスタッフと、本国のチーフデザイナー、オラ・ステネガルド氏が睦美さんの全快を願って送った寄せ書きが。闘病の励みになったそうです
ご自宅のインディアンの壁掛けフラッグとともに、インディアンの正規輸入元ポラリスジャパンのスタッフと、本国のチーフデザイナー、オラ・ステネガルド氏が睦美さんの全快を願って送った寄せ書きが。闘病の励みになったそうです

──ツーリングの楽しみはランチとかですか?

睦美さん「あんまりないね(笑)」

由美さん「それこそコンビニとか(笑)。走ったらもう帰ろうかみたいな。三崎まで行ってマグロ食べないですから。本当に単純に走るのが楽しくて」

 そんな風にして毎週ツーリングを楽しみ、インディアンにハマっていったお二人。わずか1年ほどで二人とも買い換えに至ります。

伊藤由美さんの現在の愛車、インディアンモーターサイクルの純・空冷エンジン搭載車「スーパーチーフ」
伊藤由美さんの現在の愛車、インディアンモーターサイクルの純・空冷エンジン搭載車「スーパーチーフ」

睦美さん「先に奥さんがスカウトトウェンティからスーパーチーフに乗り換えたんですけど。箱根の試乗会があった時に、大きい方にまたがって、乗ってみたらめちゃくちゃ楽しくて」

由美さん「全然違う! 楽! ってインカムでしゃべりながら試乗したんですけど、あっと言う間にもう終わっちゃうのとか文句言ったり。そのくらい楽しくて。
 その後、茅ヶ崎のディーラーさんに行ったら、ちょうど赤いスーパーチーフがたまたま入庫してて。もう無理。我慢できない(笑)」

伊藤睦美さんの現在の愛車、インディアンモーターサイクル「スポーツチーフ」。由美さんと同じく、空冷ビッグツインのテイスト、引き起こしの軽さに魅了されたようです
伊藤睦美さんの現在の愛車、インディアンモーターサイクル「スポーツチーフ」。由美さんと同じく、空冷ビッグツインのテイスト、引き起こしの軽さに魅了されたようです

 睦美さんは睦美さんで、ローンや保険代など頭でシミュレーションし、由美さんの買い換えを後押ししたといいます。

睦美さん「東京モーターサイクルショーを見に行って、スポーツチーフにひとめぼれして、次の日にはもうディーラーで注文(笑)」

【画像】こんなレアグッズも!? 伊藤夫妻のインディアン秘蔵アイテムを画像で見る(17枚)

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