止まらないバイク死亡事故 「管下一斉二輪車ストップ作戦」 警視庁+埼玉県警 通勤ライダーに「止まってください」
ただでさえ渋滞するのに、こんな時間に! 先を急ぐ通勤・通学者にとっては、内心迷惑な話だったかもしれません。しかし、あえて通勤時間帯、しかも県境で注意喚起をしなければならないほど、東京都を中心とするバイクの死亡重傷事故は減少の兆しがありません。隣接した警察との連携を続けます。
今年も前年を上回る増加傾向
2024年中の東京都内の交通事故による死者数は146人で、前年から10人の増加でした。そのうち原付バイクを含むバイク乗車中の死者数は38人。前年より6人減少しています。しかし、東京都ではバイク乗車中の死者数は全体の26%を占め、自転車乗車中を上回っています。都内のバイクが多いということを割り引いても、全国平均は18.3%なので、バイク事故の抑制は事故対策の重要なポイントです。

2025年に入っても、バイク死亡事故は減少の兆しが見られません。4月20日現在のバイク乗車中死亡事故は10人。前年同期比で1人増加です。前年の死亡事故は5月、9月、11月といったオンシーズンに多くなる傾向がありました。
警視庁交通部の工藤忠男管理官は、バイクユーザーの運転課題を指摘します
「バイク死亡重傷事故で多いのは単独、(交差点での)右直事故です。単独事故といっても、ツーリングのように遠くに出かけて起きる事故ではなく、通勤、退勤時間帯の事故。スピードの出し過ぎ、安全確認が足りないケースが目立っています」
通勤時に、先を急ぐ運転をやめよう
2025年4月21日朝8時、東京都内97署で「管下一斉二輪車ストップ作戦」と名付けられたバイクユーザーのための交通啓発が実施されました。ストップ作戦には交通事故を止める意味のほかにも、交通検問のようにバイクを1台1台止めて、ライダーに安全運転のポイントを呼びかける運動です。
東京都と埼玉県の境にかかる新荒川大橋(北区岩淵町23)では、埼玉県側から都内に流入するバイクに対して、交通機動隊や女性白バイ隊クイーンスターズのほか、埼玉県警察も合同で、ライダーに慎重なライディングを求めました。
両警察から白バイやサインカーも投入され、片側1車線を規制してバイクを呼び込みます。安全メッセージをまとめたパンフレットと記念グッズを手渡しながら、注意ポイントを話しかけるのですが、先を急ぐライダーの中には、苦情もありました。
「もう30年くらい乗っているから大丈夫です。それより(交通啓発を)やる時間を考えてもらったほうがいいいと思いますよ」
自宅で過ごすゆとりある時間にウェブサイトで見てもらうのではなく、事故多発時間帯に運転しているライダーに、わざわざ止まってもらい、改めて注意を呼び掛けることが「ストップ作戦」です。先を急ぐ気持ちを沈めて、運転ミスを減らして欲しい、という狙いです。
クイーンスターズや埼玉県交通機動隊隊員の対応は丁寧に運転のポイントを説明します。
「お忙しい時間にご協力いただき、ありがとうございます。安全確認と安全運転をよろしくお願いいたします」
「この標識、何を意味するかわかりますか?」
手にするパネルで、ダイヤの路面標示と歩行者横断中の標識が示されます。
「このマークの先には横断歩道があります。歩行者を見かけたら一旦停止して、横断をさまたげないようにしてください」
話しながら、ヘルメットの緩めのあごひも装着や、グローブをしていなければ指摘します。声をかけられて、シート下からグローブを取り出すライダーもいました。
今年の死亡事故は、首都圏で目立っています。神奈川県、東京都、埼玉県と続き、事故死者数で全国ワースト3(2025年4月17日現在)に入っています。同時に注意喚起を行った埼玉県警も、ライダーの運転に対して注意を呼びかけます。
「埼玉県内でも、すり抜けによる事故も起きるている。特に通勤時間帯は高速度で車線の真ん中をすり抜ける運転も見かける。すり抜けは基本的にやめていただきたい」
ライダーの安全運転は、自分自身を守ることにつながります。ライダー向けの交通安全メッセージには、四輪車のドライバー向け以上に、そんな意味が込められています。
Writer: 中島みなみ
1963年生まれ。愛知県出身。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者を経て独立。行政からみた規制や交通問題を中心に執筆。著書に『実録 衝撃DVD!交通事故の瞬間―生死をわける“一瞬”』など。