え、このまま売ってたの!? 北米ホンダ製カスタムクルーザー おおらかが過ぎる「ワルキューレ・ルーン」の秘めたる挑戦とは!?
2004年にアメリカホンダが世界でも類を見ないクールなカスタムクルーザーを開発し、量産したのが「ワルキューレ・ルーン」です。レトロで個性的なスタイリングに「GL1800」の水平6気筒エンジンを搭載し、それはホンダにとっても新しい挑戦でした。
驚愕の市販クルーザー!! ド迫力のスタイルをそのまま投下!!
アメリカのホンダ現地法人が主体となって企画・製造し、2004年に販売された「Valkyrie Rune(ワルキューレ・ルーン)」(以下、ルーン)は、日本ではあまり馴染みのないホンダのクルーザーモデルです。

まるでマニアが特注したカスタムバイクのような姿ですが、そのルーツは1995年の東京モーターショーに展示されたコンセプトバイクにあります。「ゾディア」と呼ばれたそのコンセプトバイクは、クラシックなレトロラインと新時代の未来技術を融合させたバイクでした。
これに刺激を受けたアメリカホンダは、1999年と2000年のカリフォルニア・ロングビーチのモーターサイクルショーに合計4台のコンセプトバイクを展示します。その中のネオレトロな雰囲気の1台が絶大な人気を博しました。
アメリカ人が好む1950年代のローダウン&チョップドロードスターを彷彿とさせるスタイリングで、アルミツインスパーフレームに片持ちプロアーム、さらに「ゴールドウイング・GL1800」の水平対抗6気筒エンジンという最先端のメカニズムも備えていました。
「このまま市販して欲しい」、「素晴らしいバイクだけど、量産は無理だ」という来場者の声に奮起したアメリカホンダのボスは、開発にGOサインを出します。コンセプトバイクと全く同じバイクを作るべきというファンの視点が、「ルーン」開発の中核となりました。
そのプロジェクトは単なる新型バイクの開発ではなく、ホンダの新たな挑戦でした。販売価格は考慮されず、通常のバイク開発で大事な性能目標よりも、スタイリングやデザインに集中できる贅沢な開発だったのです。
「ルーン」の個性が光るトレーリングボトムリンクフロントサスペンションは、「ゾディア」から引き継がれた魅力的な部分です。ヘッドライトの後ろに2本のダンパーがあり、右側にはメインスプリング、左側にはダンパーと軽量なサブスプリングで機能しています。ベテランライダーに馴染み深い動きを再現するように設計されたと言われています。
ダイヤモンドシェイプの強固なアルミフレームにより、ホイールベースはホンダ車史上最長の1750mmを確保できました。
シャフトドライブを内蔵する片持ちのプロアーム(従来型の「GL1500」は左右持ち)は、MotoGPマシンにも使用されたユニットプロリンクを採用しています。ユニットプロリンクはリアショックの上部支点もスイングアームに固定されるため、フレーム側にクロスメンバーが不要で、フレームを開いたり下げたりと、設計の自由度が増えます。

「ルーン」ではリアのクロスメンバーを省くことにより、シート高を約730mmと限界まで低く抑えられています。もちろんリアショックユニットが見えないことはカスタムクルーザーにとってとてもクールなことです。
「GL1800」の水平対向6気筒エンジンをベースに、6つのスロットルボディを装備し、改良されたカムシャフトや3D噴射/点火マッピングなどの最新テクノロジーも搭載され、クロスレシオ化されたギアボックスと合わせ、ホンダのカスタムシリーズ最強のエンジンとなっています。
普段は迫力ある重低音ですが、フルスロットで加速すれば獣の咆哮にも似た排気音が楽しめるといいます。
「ルーン」はワンオフ・カスタム・スペシャルのオーラを持ちながら、世界で最も近代的なホンダの北米工場で洗練された工業技術が注ぎ込まれています。
コンセプトと現実の境界線を曖昧にするほどの生産能力を見せつけた、それこそがホンダの挑戦でした。
北米における「ルーン」(2004年発売)の当時の販売価格は2万4499ドルでした。
■ホンダ「Valkyrie Rune」(2004年)主要諸元
エンジン種類:水冷4ストローク水平対向6気筒SOHC2バルブ
総排気量:1832cc
全長×全幅×全高:2560×920×1090mm
乾燥重量:約360kg
【取材協力】
ホンダコレクションホール(栃木県/モビリティリゾートもてぎ内)
Writer: 柴田直行
カメラマン。80年代のブームに乗じてバイク雑誌業界へ。前半の20年はモトクロス専門誌「ダートクール」を立ち上げアメリカでレースを撮影。後半の20年は多数のバイクメディアでインプレからツーリング、カスタムまでバイクライフ全般を撮影。休日は愛車のホンダ「GB350」でのんびりライディングを楽しむ。日本レース写真家協会会員