バイク乗りが口にする「サグ出し」ってなに!? 「リバウンド・ストローク」ってなに??

「走りにこだわる」ライダーなどが口にする「サグ出し」という言葉ですが、会話の流れからサスペンションに関わるようで、「リバウンド・ストローク」などの難解な用語も出てきます。これはいったい何のことでしょうか? 「普通の」ライダーにも関係あるのでしょうか?

いわゆる「プリロード調整」のこと

「走りにこだわる」ライダーなどが口にする「サグ出し」という言葉ですが、会話の流れからサスペンションに関わるようで、「リバウンド・ストローク」などの難解な用語も出てきます。これはいったい何のことでしょうか? 「普通の」ライダーにも関係あるのでしょうか?

リアサスペンションのショックユニットに備わるプリロード調整機構。画像はカワサキ「メグロK3」のリアショック
リアサスペンションのショックユニットに備わるプリロード調整機構。画像はカワサキ「メグロK3」のリアショック

「サグ」=「sag」とは「たわみ」の英語表記で、サグ出しとはサスペンションのスプリングのたわみ量の測定や、たわみ量の調整のことを意味します。なんだか難しそうですが、ザックリ言えば「プリロード調整」のことです。

 旧車や小排気量のバイクでも、リアサスペンションにプリロードの調整機構だけは備えている車両が多く、ハンドブック(取扱説明書)を見ると「乗車人数や荷物が多いときはプリロードを強める」というような記載があります。

 サグ出しは、それをもっと細かく計測したり、調整するイメージで良いのではないでしょうか。

知っておきたい、サスペンション用語

 サスペンションの調整というと、なんとなくサーキット走行やレースなどのイメージを強く感じるかもしれませんが、じつはサグ出し=プリロードの調整は、一般ライダーが公道を安全に走る上でもけっこう重要です。

 そこに関係してくるのが「リバウンド・ストローク」です。

 リバウンド・ストロークとは、簡単に言えば「サスペンションが沈んでいる量」のことで、この量を計測したり調整する作業が「サグ出し」と言えます。

 それではリバウンド・ストロークをもう少し深掘りしてみましょう。

 まずサスペンションが完全に伸び切った状態を「0G(ゼロ・ジー)」と呼んでいます。コレは車体を宙に浮かせてタイヤが地面から離れた状態です。

「0G」の状態。サスペンションが完全に伸び切っている
「0G」の状態。サスペンションが完全に伸び切っている

 次に、車体を地面の上に立て、車体の重量のみでサスペンションが縮んでいる状態を「1G(ワン・ジー)」と呼びます。

 その1Gの状態に、ライダーが跨ってさらにサスペンションが沈んだ状態を「乗車1G(じょうしゃワン・ジー)」または「1G’(ワン・ジー・ダッシュ)」と呼んでいます。

地面に立てたバイクにライダーが跨り、車重+体重でサスペンションが縮んだ状態を「乗車1G」または「1G’」と表現する。
地面に立てたバイクにライダーが跨り、車重+体重でサスペンションが縮んだ状態を「乗車1G」または「1G’」と表現する。

 そして「乗車1G」から「0G」を差し引いた量が「リバウンド・ストローク」になります。

スリップしないために、リバウンド・ストロークが必要

 話が前後しますが、そもそもなぜプリロード調整を行うかというと、ライダーが乗車して走る際に「曲がりやすい=乗りやすい車体姿勢」を作ったり、適切にサスペンションが伸縮して快適な乗り心地を確保するためです。それにはタイヤが路面の凹凸をきちんと追従する必要があります(路面追従性)。

 そこに大きく影響するのが「リバウンド・ストローク」です。

 たとえばカーブで車体を傾けて曲がっている最中に、路面が凹んでいる個所を通過したらどうなるでしょう? 仮にリバウンド・ストロークがゼロだとしたら、それ以上サスペンションが伸びることはないので、タイヤの接地面が宙に浮いてしまいます。当然スリップするので、ともすれば転倒してしまいます。

 しかし適正にリバウンド・ストローク量があれば、凹んだ路面に対してサスペンションが伸びるので、タイヤが路面から離れません。これならグリップを失わずに安全にカーブを曲がることができます。

 そこで重要になるリバウンド・ストロークの量ですが、サスペンションのフルストローク量(もしくはタイヤのホイールトラベル量)の25~30%くらいが適切と言われます。ロードスポーツ車だと後輪のホイールトラベルが120mm前後なので、おおむね30~36mmのリバウンド・ストロークが必要です。

 ちなみに米国では、昔からリバウンド・ストロークは「1インチ(2.54cm)以上」と言われていたそうです。

実際のサグ出しは、どうやるの?

 それでは、実際のサグ出しはどうやるのでしょうか? 厳密には前後サスペンションとも行うべきですが、一般的にはリアサスペンションだけでも十分でしょう。

 先に解説したように、0Gと乗車1Gを計測する必要があります。メジャー(巻き尺)などを使って、後輪のアクスルシャフトと、そこから真上(垂直)のテールカウルの下縁などの間隔を測定します。厳密に計測場所が決まっているワケではなく、比較できるように同じ場所で計測することが重要です。

 0Gは車体(後輪)が路面から浮いてリアサスペンションが伸び切った状態で測る必要があるので、センタースタンドを備えたバイク(ホンダ「GB350」やカワサキ「W800」など)なら簡単ですが、大半となるサイドスタンドのみのバイクだと少々大変です。何人かでシートレールやグラブバーなどを掴んで持ち上げて、後輪を浮かせた状態で計測するのが現実的です(人手が必要)。

 次に乗車1Gは、やはり誰かに車体を直立に支えてもらって、ライダーが跨って両足ともステップに乗せてライディングフォームを取った状態で計測します。

 そして0Gの数値から乗車1Gの数値を引けば、リバウンド・ストロークが分かります。

 リバウンド・ストロークが少ないようなら(体重が軽いライダーの場合)プリロードを弱め、リバウンド・ストロークが多過ぎるようなら(体重が重いライダーの場合)はプリロードを強めます。

 ちなみに、国産バイクのリアサスペンションのプリロードの「標準位置」は、平均体重(おおむね65kg)のライダーが跨った時にリバウンド・ストロークが適正になるように設定されています。

 プリロードのアジャスターは、専用の工具(車載工具に含まれるフックレンチ)を使って調整するタイプが一般的です。ショックユニットが露出した2本サスなら比較的簡単に調整できますが、近年主流のモノサス(1本サス)だと難しい車種もあるので、そんな場合は無理せずバイクショップで調整してもらいましょう。

 というワケで「サグ出し」はバイクのハンドリングやコーナリング性能を引き出すのに必要なだけでなく、不意にスリップしないように適正な「リバウンド・ストローク」を確保して、安全性を高めるためにも大切だと言えます。

【画像】どこをチェックすればいい? 「普通の」ライダーも必見のプリロード調整を見る(10枚)

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Writer: 伊藤康司

二輪専門誌『ライダースクラブ』に在籍した後(~2005年)、フリーランスの二輪ライターとして活動中。メカニズムに長け、旧車から最新テクノロジー、国内外を問わず広い守備範囲でバイクを探求。機械好きが高じてメンテナンスやカスタム、レストアにいそしみ、イベントレース等のメカニックも担当する。

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