なぜV型5気筒エンジン!? MotoGP初年度を圧倒的な強さで制したホンダ「RC211V」の時代とは

2002年にスタートしたMotoGPに参戦するため、ホンダは圧倒的な強さを誇った「NSR500」とは全く違うマシンを作り上げました。デジタルとアナログが混在する新世紀に、200psを超える排気量990ccのV型5気筒エンジンを搭載した「RC211V」(2003年型)を紹介します。

初代MotoGPチャンピオンマシン、栄光のメカニズム

 2025年5月に生産台数累計5億台に達したホンダですが、舞台をサーキットに限れば、ホンダ最速のマシンはMotoGPマシンです。

MotoGP初年度の2002年にチャンピオンを獲得したホンダ「RC211V」(2003年型)。ライダーはバレンティーノ・ロッシ選手
MotoGP初年度の2002年にチャンピオンを獲得したホンダ「RC211V」(2003年型)。ライダーはバレンティーノ・ロッシ選手

 1990年代半ばから、環境問題により2ストロークエンジンのストリートバイクはほとんどなくなり、モータースポーツの世界でもそれに同調し、大きな変革を迎えました。それまでの世界グランプリの2ストローク500ccクラスに替わる新たなトップカテゴリーとして作られたのが、4ストローク車を主体とするMotoGPでした。

 MotoGPに使用するマシンの排気量は、第1期と言える2002年から2006年までが990cc、2007年から2011年の第2期は800cc、2012年から現在までは1000ccと、その時代の状況によって車両規則を変更しています。

 ここに紹介するホンダのMotoGPマシン「RC211V」(2003年)は、ホンダがMotoGP初年度に投入し、第1期の5シーズンを走ったマシンです。車名の「RC」はホンダがレースのために少数だけ生産する特別なバイク、いわゆるワークスマシンに使用されるものです。「211」は21世紀に入って最初のトップカテゴリーレーサーであることを示しています。「V」はV型エンジンや5気筒の5を表すローマ数字、または勝利(Victory)の意味も込められています。

 MotoGPが始まる数年前から、メーカーとFIMの間で車両の仕様に関する検討が始まりました。エンジンの排気量上限は990ccに、最低重量はエンジンの気筒数によって異なり、3気筒以下が135kg、4気筒と5気筒が145kg、6気筒以上が155kgと定められました。

 それに従って各メーカーがMotoGPマシンを開発した訳ですが、2002年の開幕戦に登場したマシンが搭載したエンジン形式は、アプリリアが並列3気筒、ヤマハとカワサキが並列4気筒、スズキはV型4気筒、そしてホンダはV型5気筒でした。

 どのエンジン形式が正しいのか? どのメーカーにも分からないまま自分たちの選択を信じて開発を進めたはずです。基本的には気筒数が多い方がより高出力を獲得しやすく、軽量な方がタイヤをレース終盤まで持たせることが期待できます。

 エンジン形式を決める以前に、さまざまな要素が噛み合うニューマシンでしたが、ホンダは振動やエンジンのジオメトリーとエンジン重量という3つの大きな要件をもとに、V型5気筒を選択しました。

 例えばV型4気筒では、一次振動を消す90度のVアングルでは大柄なエンジンになってしまいます。並列4気筒では横に長く、3気筒でもバランサーが必要です。V型3気筒はV型4気筒と大きさがさほど変わりません。6気筒以上は車重が重く、タイヤの摩耗が早く進行する弊害が予想され、検討の初期段階から外されています。

 そんな中、「V型5気筒なんかできると、ホンダらしくて面白い」という上司が発したひと言を聞いたエンジニアたちは、念の為に検討してみると理論上振動は無いため、バランサー不要と分かりました。

 V型のシリンダーの挟み角は75.5度として、エンジン全体が球体のようにコンパクトにまとまり、車体のパッケージングにも優位な形態になりました。

デジタル情報表示窓もあるが、タコメーターはアナログ式。現代のMotoGPマシンに比べるとかなりシンプルなコックピット
デジタル情報表示窓もあるが、タコメーターはアナログ式。現代のMotoGPマシンに比べるとかなりシンプルなコックピット

 現在のMotoGPマシンではウイリー抑制効果がある逆回転クランク=4軸構成(クランクがタイヤと逆方向に回転する)が定石です。しかし「RC211V」開発時にはその効果の確認が十分に行われておらず、よりコンパクトに設計できる3軸構成の正回転クランク(タイヤと同じ回転方向)となっています。

 2014年以降はMotoGPマシンは共通のECU(電子制御ユニット)を使用し、行き過ぎた開発競争を抑制しています。それ以前はホンダを含めた各メーカーが高度化した電子制御技術を持っていました。

 一方、初期の「RC211V」は電子制御は入っているものの、まだシンプルなもので2002年シーズンの後半になってやっとトラクションコントロールのような制御が始まります。

 前後サスペンションのストロークセンサーによる単純なウイリーコントロールが始まったのは、2005年と言われています(6軸センサー導入はずっと後)。

 20年以上の年月を間に挟んで強引に比較すれば、2002年型の「RC211V」は吸排気バルブは金属スプリングでの作動で、スロットルはワイヤー直引き、圧縮比は13.5で238.6psを15000rpmで発揮し、トラクションコントロールは無しです。

 2025年型の「CBR1000RR-R FIREBLADE」は、2004年型の「RC211V」と同じボア×ストローク比でチタンコンロッド、6軸センサー+2モーターの電子制御スロットルを装備し、圧縮比は13.6で218psを14000rpmで発揮します。

 こうして見ると、ロードレースの頂点から市販車に降りて来たテクノロジーが、スポーツバイクの速さや安心感などを供与していることが分かります。

 2002年のMotoGPの開幕戦は、日本の鈴鹿サーキットでした。現地で見たレースファンはコーナーの立ち上がりで豪快にスライド走行する「RC211V」に驚いたはずです。

「RC211V」はそれまで前例の無いV型5気筒エンジンで、MotoGP初年度を駆け抜けました。16戦中14勝という圧倒的な強さで、ライダーとメーカーのダブルタイトルをホンダにもたらします。

 さらに進化した2003年は、バレンティーノ・ロッシ選手が2年連続でタイトルを獲得し、「RC211V」最後のシーズンとなった2006年にはニッキー・ヘイデン選手がチャンピオンに輝きました。

■ホンダ「RC211V」(2003年型)主要諸元
エンジン種類:水冷4ストローク75.5度V型5気筒DOHC20バルブ(1気筒あたり4気筒)
総排気量:990cc
最高出力:238.6PS/15000rpm
最大トルク:117.4N・m/11500rpm
車両重量:145kg(乾燥)
燃料タンク容量:24L

【取材協力】
ホンダコレクションホール(栃木県/モビリティリゾートもてぎ内)

【画像】その強さ圧倒的!? ロッシと共に駆け抜けた新時代最初のチャンピオンマシン「RC211V」を画像で見る(11枚)

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Writer: 柴田直行

カメラマン。80年代のブームに乗じてバイク雑誌業界へ。前半の20年はモトクロス専門誌「ダートクール」を立ち上げアメリカでレースを撮影。後半の20年は多数のバイクメディアでインプレからツーリング、カスタムまでバイクライフ全般を撮影。休日は愛車のホンダ「GB350」でのんびりライディングを楽しむ。日本レース写真家協会会員

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