バイクにとって夏の首都高C2トンネルは灼熱地獄!! 〜木下隆之の、またがっちゃいましたVol.11〜
首都高C2は、バイクにとって厳しい環境です。夏はミストが噴射されますが、トンネル内の湿度が急上昇、まさに熱湯地獄です。渋滞時などは、ライダーは命の危機さえ感じます。
夏の首都高C2はバイク乗りにとって熱湯地獄!
オープンカーを所有してからかれこれ30年になる。自然と戯れることの爽快感を忘れられないからである。太陽の陽の光を全身に浴びてのドライブは、天にも昇る心地である。夜は夜で、満点の星の煌めきを仰ぎ見ながらハイウエイを飛ばせば、鼓膜のなかで城達也のバリトンが響く。
特に、首都高速中央環状トンネルがお気に入りである。路面が安定していることに加え、山手トンネル18.2kmは日本最長である。それにもまして、トンネルの隔壁に音が反射し、管楽器のベルに潜り込んだようにエキゾーストノートが鼓膜を震わせるのだ。そう、僕はこれでも意外に、センチメンタルなオジサマなのである。
そんなだから、バイク乗りがみな、山手トンネルが大好きなのだろうと決めつけていたら、どうやらそうではないらしいことを昨日知った。
バイクのニュース編集部の取材のその日は、気温38度℃の猛暑日であり、写真撮影の合間ですら汗がとめどなく流れた。ようやく取材が終り、それぞれが借受けた数台のバイクを、それそれが分担しながら返却しようという段になった。すると、スタッフが胸ぐらをつかみ掛からんばかりの剣幕でもめ始めたのだ。
「C2経由から。まっぴらゴメンだね」
「おれも、いやだね。地上を走って帰るよ」
「C2経由ならば、ギャラ倍だ」
侃々諤々、手分けして返却すべきバイクの取り合い譲り合いなのだ。
聞けば、とあるバイクの返却先が、僕がたいそうお気に入りの首都高速中央環状トンネル経由だという。C2とは首都高速中央環状トンネルの略だ。そのトンネルはバイク乗りにとっては地獄のトンネルと恐れられているという。地下に潜ればヒンヤリするのは、怪談話にはででくる秘境のトンネルのことで、灼熱の都内を貫通する首都高速中央環状トンネルは、煮えたぎったマグマに近いぶんだけ熱いそうだ。
「ミストで冷やしてくれているじゃん」
「あれは、熱湯です」
クルマ乗りには快適至極の首都高速中央環状トンネルは地獄の三丁目であり、爽快だと思っていたミストは熱湯地獄だという。
「バイクは暑さや寒さも感じられる素敵な乗り物なのですね」
そう言った僕を、氷柱のような冷たい視線が突き刺したことはいうまでもない。
【了】
Writer: 木下隆之
1960年5月5日生まれ。明治学院大学卒業後、出版社編集部勤務し独立。プロレーシングドライバーとして全日本選手権レースで優勝するなど国内外のトップカテゴリーで活躍。スーパー耐久レースでは5度のチャンピオン獲得。最多勝記録更新中。ニュルブルクリンク24時間レースでも優勝。自動車評論家としても活動。日本カーオブザイヤー選考委員。日本ボートオブザイヤー選考委員。