脈々と受け継がれてきた「アドベンチャーバイク」 新カテゴリー登場の起源とは?
人気のカテゴリー「アドベンチャーバイク」は、どのような経緯で現在の姿となったのでしょうか? その起源をたどります。
海外を舞台に、日本メーカーはブランドを繋いできた
「アドベンチャーバイク」の起源について考えてみます。ドイツのBMW Motorrad「GS(ジー・エス)」シリーズは、2020年で発売40周年を迎える、このカテゴリーの中でも長い歴史を持っています。

また、日本国内より海外で販売され、長く愛されているブランドにヤマハの「テネレ」シリーズがあります。さらに「XLV750」、「トランザルプ」、そして「アフリカツイン」へと繋いだホンダも、その後たしかな認知度とブランド力を得ることになりました。
スズキは「DR650」、「DR750」、「DR800S」と、大排気量単気筒エンジンを搭載したモデルでの人気を、現在の「Vストローム」へとブランドを繋いでいます。
カワサキは「KLX」シリーズから発展した「テンガイ(天涯)」、「KLE」などを中心に人気を集めました。現在は4気筒エンジンを搭載する「ベルシス1000」を頂点とした「ベルシス」シリーズがその流れを汲んでいます。
バイクに万能性を求める生活環境と「冒険ラリー」が活路を拓く
アドベンチャーバイク登場の起源をたどるのに、少し時間を戻します。フランス、イタリア、スペインなどヨーロッパの主要バイク消費国では、コミューターであるモペットやスクーターと同様、デュアルパーパスバイク(例としてはホンダ「CRF250L」、ヤマハ「セロー250」、カワサキ「KLX230」など)が市街地用としても人気を集めていました。

オンロードバイクと比較すると、デュアルパーパスバイクは単気筒エンジン、細身の車体、軽い車重、オフロード走行を前提にしたサスペンションストロークなどが、彼の地の市街地に多い石畳や路面電車の線路を跨ぐときなど有効に機能します。もちろん、朝夕の渋滞でもその車体が生む機動性が好まれたことは言うまでもありません。
また、排気量250ccクラスが中心の日本国内市場とは異なり、350ccや500ccあるいはそれ以上の排気量を持つモデルも販売されていました。
ヨーロッパでは、エンジンの排気量ではなく出力で免許制度や保険などの金額が決まるシステムの国もあり、その点でも燃費性能に優れ、軽い車体で機動性も加速も楽しめるデュアルパーパスバイクは、舗装路の走りも楽しめたのです。
じつは「motard(モタード)」がヨーロッパで人気だったのも、そんな日常から楽しめる万能性に基づいていた部分もあったのです。

しかし、その細身で軽量なパッケージゆえに、燃料タンク容量も最低限で、高速道路移動では走行風圧に耐える必要があり、単気筒エンジンならではの振動の多さも我慢を強いる部分でもありました。
ヘッドライトなども小ぶりなものが多かったため、夜間走行が得意とは言えませんでした。ロードモデルがレーサーレプリカへの道に進み、当時の耐久レーサーを模したデュアルヘッドライト(2灯ヘッドライト)の登場もあり、デュアルパーパスバイクのメリット、デメリットが浮き彫りになりつつあったのです。
そこへ冒険ラリーとして大きな話題になっていた「パリ-ダカールラリー」の存在と、そのラリーに出場するマシンがデュアルパーパスバイクに新たな活路を与えます。
「アドベンチャーバイク」の原点が現れる
砂漠を越えるため、長い航続距離が必要になる大容量の燃料タンク、夜間走行に備えた明るいヘッドライト、そして当時、3週間、1万キロ以上を走破したラリーを快適に乗り切るため、肉厚のシートやフェアリングを装着してサハラのオフロードを疾走する姿は、市販のデュアルパーパスバイクにもすぐに波及します。

長距離ラリーが持つロングディスタンス性能とデュアルパーパスの機動性の融合。これこそアドベンチャーバイクの原点とも言えるでしょう。
こうして1980年、BMW Motorrad「R80G/S(ゲレンデ/シュトラッセの頭文字はオフロード/オンロードを意味するドイツ語)」の登場にはじまり、1983年にはヤマハが「XT600Zテネレ」、1985年にはホンダも「XL600L」を投入します。
スズキも「DR650R」や、カワサキも「KLX600R」などで同種のモデルを次々に投入するのです。しばらくはダカールレプリカとも言える冒険ラリー色の強いモデルが中心となり、長距離性能をもったデュアルパーパスモデルが「ビッグオフ」「トラベルエンデューロ」などと呼ばれ、人気を博すのです。

また、BMWのGSが持つ優位性を追求するかのように、ホンダ「トランザルプ」、「アフリカツイン」、ヤマハ「スーパーテネレ」の登場から、2気筒モデルがトラベルエンデューロの上位モデルとして登場します。
現代のアドベンチャーバイクへと続く道を盤石なものにしたのも、この頃と言えるでしょう。
【了】
Writer: 松井勉
モーターサイクル関係の取材、 執筆、プロモーション映像などを中心に活動を行なう。海外のオフロードレースへの参戦や、新型車の試乗による記事、取材リポートを多数経験。バイクの楽しさを 日々伝え続けている。