排気量1301ccの水冷Vツインエンジンを搭載するKTMのハイパーネイキッドバイクが扱いやすい? 2020年型「1290スーパーデュークR」に乗る
オーストリアのバイクメーカー「KTM」のハイパーネイキッドモデル「1290スーパーデュークR」が2020年型で大きく進化しました。一体どのような乗り味なのでしょうか?
進化した「THE BEAST」は、とても扱いやすくなっていた
2014年に登場し、2017年の改良で劇的に乗りやすくなった「ビースト(野獣)」ことKTM「1290 SUPER DUKE R(1290スーパーデュークR)」がさらに進化しました。第3形態へとカタチを変えた野獣が一体どんな走りを見せるのか? 2020年2月にポルトガルで開催された試乗会でのインプレッションお届けしましょう。

まずライディングポジションですが、835mmのシート高は排気量1000cc超のスポーツバイクとしては高くもなければ低くもない平均値といったところ。一般的な成人男性の体格なら両足のツマ先がしっかり接地し、姿勢に無理はありません。車体の引き起こしや取り回しも意外なほど軽く、ハンドルの切れ角も十分確保されています。
先に書いておくと、最初に感じたこの意外性がずっと続くことになりました。排気量が1301ccもあり、最高出力は180HPに到達。なにより「野獣」というニックネームが露骨にシロートお断り感を放っているにもかかわらず、意図的にスロットルを大きく開けない限り終始穏やかで従順そのもの。それが1290スーパーデュークRというバイクなのです。
エンジンのサウンドひとつ取っても、音質はまろやかと言っていいでしょう。たとえばイタリアのドゥカティなどは、アイドリングからあからさまにガツガツと荒ぶった排気音を轟かせるのに対し、1290スーパーデュークRのそれにはコロコロと丸みがあり、「ドルルルゥ~」と優しく吹け上がっていきます。

いざ走り出すと豹変……することもなく、無頓着なクラッチ操作でもエンジンは止まる気配もなく力強く前進。ストップ&ゴーが続く場面でも誰もがストレスなく乗れるはずです。
エンジンの出力特性が変化するライディングモードには、レイン/ストリート/スポーツ/トラックの4パターンが用意され、徐々にアグレッシブなキャラクターに変貌していきます。
とはいえ、スロットル開け始めの扱いやすさはどのモードにもちゃんと残され、トラック(=サーキット向け)を選んだからといって街中でギクシャクするようなこともありません。
低回転域では排気量800ccから900ccのミドルクラスのように優しく、然るべき場所で高回転を使った時には、5速もしくは200km/h近い領域からでもウィリーするほどのパワーが炸裂。そういう2面性が大きな魅力と言えるでしょう。

エンジンの仕上がりもさることながら、じつは今回のモデルチェンジで大きく変わった部分が車体です。一見して分かるのはメインフレームの構造で、よりシンプルに、より低重心になりました。この結果、車体をバンクさせていく際の手応えが分かりやすくなり、きれいな弧を描くようにコーナリングに。
これまでのモデルがキビキビとした機動性を重視したハンドリングだとしたら、この2020年型は安定性を狙ったもの。新旧スーパーデュークRの間には、そういう違いがありました。
そこに少なからず関係しているのが、リアサスペンションの構造です。スイングアームとリアサスペンションがダイレクトに繋げられていた従来モデルに対し、新型はリンクを装備。このワンクッションによって路面からの衝撃がやわらぎ、とくに街中における乗り心地は大きく引き上げられています。

「パワフルなスーパースポーツのスペックには憧れるけど、自分には扱えそうにないし、日常的に乗るのはツラそうだし……」と、そんな風に二の足を踏んでいるのなら、このモデルを選択肢に入れてみてはいかがでしょう? きっとそのイメージがくつがえされるに違いありません。
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2020年4月より発売予定の新型「1290スーパーデュークR」(2020年型)の価格(消費税10%込み)は217万9000円です。カラーはブラックのみ、生産国はオーストリアです。
【了】
Writer: 伊丹孝裕
二輪専門誌「クラブマン」編集長を務めた後にフリーランスとなり、二輪誌を中心に編集・ライター、マシンやパーツのインプレッションを伝えるライダーとして活躍。マン島TTやパイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライムなど、世界各国のレースにも参戦するなど、精力的に活動を続けている。