新しい生活様式、小さな高級車の登場、旧車価格高騰。2020年バイク業界に何が起きたのか?

『バイクのニュース』へ寄稿くださっているライターの方々に、2020年の振り返りを伺いました。2輪メディアで活躍中の中村友彦さんの考察です。

コロナの影響は意外に少なかった?

 2020年の最大の話題と言えば、誰もが真っ先に思い浮かべるのは、世界中で猛威を振るった新型コロナウイルスでしょう。このウイルスの影響で、観光業界や飲食業界は大ダメージを受けましたが、意外なことに2輪業界では、コロナ禍の影響は意外に少なく、むしろ前年までより好調……という声が少なくなかったようです。

カワサキ「Ninja ZX-25R SE KRT EDITION」に試乗する筆者(中村友彦)。2020年のバイク業界を振り返り、“小さな高級車”の登場も印象に残る出来事のひとつ

 もちろん、2輪業界のすべてがそうだったわけではありません。イベント運営会社や高額車が主軸の外車ディーラーにとって、2020年は相当に厳しい年だったのですから。とはいえ、私(筆者:中村友彦)がお付き合いをしている少数精鋭のカスタムショップや中古車販売店、パーツメーカーからは、例年以上の忙しさが感じられました。そしてその忙しさは、3月に発出された緊急事態宣言と、5月から交付が始まった10万円の特別定額給付金の効果だと思います。

 あら、何だか不謹慎なことを書いている気がして来ましたが、外出自粛が要請される中、突如として10万円を入手したとなれば、その時点で生活費の苦労がないライダーが、メンテナンスやカスタムにお金使いたくなるのは、不思議なことではないでしょう。そもそも政府は給付金に、消費を期待していたわけですから。なお中古車販売店では、電車通勤に代わる手段として、125cc以下のスクーターを購入するお客さんが多かったようです。

“小さな高級車”の登場

 全面新設計のホンダ「CBR1000RR-R」やヤマハ「テネレ700」、大幅刷新を受けた「YZF-R1」やスズキ「Vストローム1050」など、2020年には魅力的な国産車が数多く登場しましたが、そんな中で私が大きなインパクトを感じたのは、ホンダ「CT125・ハンターカブ」と、カワサキ「Ninja ZX-25R」でした。

2020年6月に発売されたホンダの原付二種レジャーモデル「CT125・ハンターカブ」価格(税込)44万円

 この2台に共通する特徴は、従来の原付二種/軽二輪クラスで必須事項と言われていた、コストダウンの雰囲気をほとんど感じないことです。逆に言うなら、CT125とZX-25Rは“小さな高級車”で、4輪では昔から定番だったその種の車両が、ついに2輪でも登場したことが、私としては非常に嬉しかったのです。

 もっとも小さな高級車という見方なら、2018年にホンダが発売した「スーパーカブC125」、あるいは、2000年以降のカワサキ「エストレヤ」にも、そういった資質は備わっていました。とはいえ、その2台がCT125とZX-25Rのように、従来は小排気量車に関心を示さなかったビッグバイクユーザーや、普段はバイクと無縁の生活を送っている層からも大注目を集めたかと言うと、そこまでではなかったと思います。

 いずれにしてもCT125とZX-25Rは、2輪業界では久々となるメーカーからの新しい提案で、個人的には対抗馬にどんどん登場して欲しいのですが、どちらも他メーカーが参入しづらい、特殊な路線であることを考えると、なかなか難しいのかもしれません。

2020年9月に発売されたカワサキ「Ninja ZX-25R」は、250ccクラス唯一となる並列4気筒エンジンを搭載(写真は上位機種のNinja ZX-25R SE KRT ERITION)

 なおCT125とZX-25Rは、アフターマーケット市場の活性化という面でも、大きな役割を果たしています。すでに両機種とも膨大な数のパーツが登場していますし、私が取材で試乗したCT125とZX-25Rのカスタムは、ノーマルとは一線を画する魅力を獲得していました。つまりこの2台には、カスタム意欲をそそる“隙”、いじる余地が存在するのです。それがメーカーの意図かどうかは何とも言えないですが、CT125とZX-25Rを購入したライダーの多くは、自分好みのカスタムを楽しむことを前提にして、愛車を選択したのではないかと思います。

レーサーレプリカの価格が高騰

 いわゆる名車と呼ばれる旧車の価格は、年を経るごとに上がっています。私はその事実を把握しているつもりでしたが、2020年に取材で訪れたショップで、パラレルツインのスズキ「RG250Γ」に70万円、後方排気のヤマハ「TZR250」に120万円、そしてホンダ「NSR250R」の最終型に250万円のプライスタグが付いているのを見たときは、思わず、自分の目を疑いました。一昔前の2ストレーサーレプリカの敷居は決して高くはなく、RG250Γなら20万円前後で買えたのに、いつの間にここまで……? という感じで。

2ストロークのパラレルツインエンジンを搭載するスズキ「RG250Γ」(1983年)

 後にネットで調べてみると、RZ250/350やRG400/500Γ、さらには4スト250/400ccマルチの価格も、一昔前の1.5倍から2倍になっていました。現代の中古車市場では、往年のカワサキ「Z」やホンダ「CB750フォア」、スズキ「GSX1100Sカタナ」などに迫らんとする勢いで、1980年代から1990年代のレーサーレプリカ全体の相場が上がっているようです。その事実をどう感じるかは人それぞれですが、納車前に重整備が必要な中古車が増えたこと、純正部品の価格が高騰していることを考えると、ある程度の価格上昇は止むを得ないと思います。もちろん中には、ロクな整備もしないのに、中古車市場の動向に合わせて価格を吊り上げる、悪質なショップも存在するのですが。

 なお旧車と言えば、スズキの純正部品に対する姿勢が、(おそらく)2020年から大幅に変わったことも、マニアにとっては事件でした。誤解を恐れずに言うなら、かつてのスズキは旧車に優しいメーカーで、1970年代から1990年代に生産が終了した車両の純正部品を、長きに渡って継続販売してくれていたのです。ところが最近は、欠品が急速に増えると同時に、多くの部品の価格が上昇しました。

 もっとも他メーカーと比べれば、スズキは現時点でも旧車に優しいほう……という説があるのですが、往年の「Γ(ガンマ)」シリーズやカタナなどの購入を考えているライダーは、修理や維持が本格的に困難になる前に、行動を起こしたほうがいいでしょう。

【了】

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Writer: 中村友彦

二輪専門誌『バイカーズステーション』(1996年から2003年)に在籍し、以後はフリーランスとして活動中。年式や国籍、排気量を問わず、ありとあらゆるバイクが興味の対象で、メカいじりやレースも大好き。バイク関連で最も好きなことはツーリングで、どんなに仕事が忙しくても月に1度以上は必ず、愛車を駆ってロングランに出かけている。

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