【MotoGP第3戦ポルトガルGP】世界戦に挑む中上選手 右鎖骨の痛み抱えながらも今季初のポイント獲得
ロードレース世界選手権MotoGPの第3戦ポルトガルGPが、アウトドローモ・インターナショナル・アルガルベで行なわれ、MotoGPクラスに参戦する唯一の日本人ライダー、中上貴晶選手(LCR Honda IDEMITSU)は10位フィニッシュを果たしました。
開幕から苦戦を強いられて迎えた第3戦、最後尾からの10位フィニッシュ
MotoGP第3戦ポルトガルGPは、アウトドローモ・インターナショナル・アルガルベを舞台に繰り広げられました。このサーキットはアップダウンが激しく、メインスタンドからは11コーナーから12コーナーにかけてハイスピードで下ってくるライダーが見え、メインスタンド下のメインストレートとの高低差が実感できるほど。難コースのひとつに挙げるライダーも多いサーキットです。
このポルトガルGPでは、右上腕骨の骨折のために欠場を続けていたマルク・マルケス選手(Repsol Honda Team)が復帰を果たしました。MotoGPクラスで6度のチャンピオンに輝いた、現役最強・最速と言われるマルケス選手のカムバックは、大きな注目となりました。
中上貴晶選手(LCR Honda IDEMITSU)にとっては、ポルトガルGPは厳しい週末となりました。初日のフリー走行(練習走行)2回目で、セッション序盤に1コーナーに向かうメインストレートで転倒を喫します。その転倒は激しいものでした。バイクはハイスピードで1コーナー外側のグラベルに突っ込み、中上選手自身は1コーナー手前でバイクから離れたものの、やはり高速でストレート上を滑走したのです。
「アウトラップ(コースインして1周目のラップ)から、フロントのブレーキディスクの温度が低いと感じていました。メインストレートエンドで1コーナーへのブレーキングに差し掛かったとき、フロントブレーキの操作が少し鋭すぎたのだと思います。それでフロントブレーキの温度が急上昇し、リアタイヤが浮き始めました。コントロールしようとしましたが、一瞬でした。リアタイヤが地面に触れたとき、バイクのバランスを完全に失ったんです」
中上選手は転倒の状況をそう説明しました。バイクから離れたときに打った右肩は問題なかったのですが、右の鎖骨を痛めてしまいます。骨折がなかったことは幸いでしたが、その痛みはひどく、痛み止めを投与しても治まることはありませんでした。
予選日、中上選手は決断を下します。フリー走行4回目と予選を走らないことにしたのです。フリー走行4回目は30分間で行なわれるセッションで、決勝レースが行なわれる時間帯にも近く、レースシミュレーションには重要なセッションです。そして予選結果でグリッドが決まるため、走らなければ決勝レースは最後尾からのスタートになる……けれど、中上選手はこの日を療養に充て、翌日の決勝レースに向けて少しでも状態を回復させることにしたのです。
その思惑は奏功した、と言えるでしょう。決勝レースで最後尾の21番グリッドからスタートした中上選手は、好スタートを切って1周目で14番手に浮上すると、一時は9番手にまでポジションを上げ、最終的に10位でチェッカーを受けました。中上選手にとって、今季初のポイント獲得となったのです。
「(決勝日午前中の)ウオームアップセッションのあと、前日よりも体の状態がよくなっていました。それで、レースに出ることを決めたんです」
「体の状態が完全ではなかったので、厳しいレースでした。でも、トップ10でフィニッシュできるとは思っていなかったので、いい日になりました。ブレーキングではバイクを抑えるのが大変だったけれど、この状態で、10位でフィニッシュできてとてもうれしいです」
開幕戦カタールGP、第2戦ドーハGPと苦しい戦いを強いられてきた中上選手。このポルトガルGPでは手負いの状態によりレースの準備のためのフリー走行での周回もままならず、それでも手にした10位は、その数字以上の価値があるはずです。
オンラインを介した取材会の最後に、中上選手はジャーナリストに向けてぐっと親指を立てるしぐさを見せました。取材の場では珍しく映ったそのしぐさに、中上選手にとってのポルトガルGPを感じた、というのは深読みがすぎるでしょうか。
次戦(スペイン)のヘレスは中上選手が得意のサーキットです。体調を万全に戻して、活躍を期待したいですね。第4戦スペインGPは2021年5月2日決勝レース開催です。
【了】
Writer: 伊藤英里
モータースポーツジャーナリスト、ライター。主に二輪関連記事やレース記事を雑誌やウエブ媒体に寄稿している。小柄・ビギナーライダーに寄り添った二輪インプレッション記事を手掛けるほか、MotoGP、電動バイクレースMotoE取材に足を運ぶ。