羽振りのよい友人2人の悩みに、自分が幸せに思えてくる? ~木下隆之の、またがっちゃいましたVol.104~

レーシングドライバーの木下隆之さん(筆者)は、ホンダ「モンキー」1台を後生大事に乗っている自分が幸せに思えると言います。どういうことなのでしょうか?

羽振りのよい友人2人の悩みに、自分が幸せに思えてくる?

 先日、僕(筆者:木下隆之)はたいそう羽振りのいい同級生2人にランチを誘われ、夢のような会話に聞き惚れた。

1992年の発売当時、市販車世界初となる楕円ピストンエンジンを搭載したホンダ「NR」のメーカー希望小売価格は520万円、国内年間販売計画台数は300台だった

 ひとりは雑貨を手掛ける老舗問屋のバカ息子(友人A)であり、家業は順調のようだ。もうひとりは居酒屋を数件経営する父を持つドラ息子(友人B)である。世間がコロナ禍でシュリンクしているというのに、うちでのこづちと太いスネを振ったりしゃぶったりしながら、相変わらずバブルの生活を満喫している。

 となれば道楽の矛先は、乗り物になるのは世間の相場だ。会えばたいがい、高価な新車を買ったとか、レアな中古をオークションで競り落としたとか、金回りのいい話の応酬である。かといって、こっちには2人が喜ぶような羽振りのいい話題などあるはずもない。2人の趣味が一致しているのも困りモノで、僕はただただ自慢話の聞き役に徹するほかないのだ。

 ただ、2人の趣味は大筋では一致しているのだが、決定的に異なることがある。友人Aの趣味はクルマであり、とくにスーパーカーが好み。友人Bの趣味はバイクだ。ともに数台のクルマやバイクを豪邸のガレージに保管するという夢のような生活を過ごしているのだが、金はいくらあっても足りない人には足りないようで、欲しい物件があるのに手が出ないとのたまうのである。

 友人Aが狙っているのは、ご多分にもれずフェラーリである。V型12気筒6.5リッターの「812GTS」にご執心だという。友人Bが物色しているのは、ホンダ「NR」だ。1978年の世界選手権ロードレースへの挑戦から始まった、楕円ピストンエンジンを搭載するレーサー「NR500」の高度な技術をもとに開発された市販車で、その希少性に惚れ込んだという。

 2人が購入できずに悶々としている理由、購入の障害になっているのは、金のことではない。ガレージには十数台のレア車が収まっており、駐車スペースが満杯だというのだ。そこで小さな問答が始まった。

友人A「バイクは嵩張らないから、置き場所に困ることがないよね」

友人B「クルマは鍵を閉められるけどバイクは……」

友人A「バイクは安いからいいね」

友人B「500万円くらいするマシンも少なくない」

友人A「跳ね馬は3000万円もする」

 たしかにバイクはスペース効率がいい。数千万円なんて出さなくても世界のだいたいの市販モデルは購入可能だ。その点でクルマは、1億円を超えるマシンも少なくない。車体もバイクより大きく保管場所にも困るのかもしれない。だったらバイクを趣味にした方が、満足できるような気がしなくもない。

友人A「ところでバイク、何台を持っているんだったけ?」

友人B「20台ちょっとになっちゃった。そっちは?」

友人A「6台だよ」

 どっちもどっちで景気の良い悩みである。モンキー1台を後生大事に乗り回している自分が、なんだか幸せに思えた。

【了】

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Writer: 木下隆之

1960年5月5日生まれ。明治学院大学卒業後、出版社編集部勤務し独立。プロレーシングドライバーとして全日本選手権レースで優勝するなど国内外のトップカテゴリーで活躍。スーパー耐久レースでは5度のチャンピオン獲得。最多勝記録更新中。ニュルブルクリンク24時間レースでも優勝。自動車評論家としても活動。日本カーオブザイヤー選考委員。日本ボートオブザイヤー選考委員。

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