クルマとバイクの、決定的なキャラの差 ~木下隆之の、またがっちゃいましたVol.168~
レーシングドライバーの木下隆之さん(筆者)は、クルマのMTは珍しい目で見られるが、バイクにそれは当てはまらないと言います。どういうことなのでしょうか?
クルマでは珍しいと思われるMTは、バイクには通用しない
新型の日産フェアレディZが人気である。お借りしたくせに、僕(木下隆之)が愛車ヅラして走らせていると、たいがい声を掛けられる。

「かっこいいですね」
「写真撮っていいですか?」
マスコミを賑わせている話題のモデルにも関わらず、半導体不足などにより受注中止だから、街中で見かけることはまず無い。希少性が高まって注目度は抜群なのだ。
さらに特徴的なのは、話しかけられた内容の多くがMT(マニュアル・トランスミッション)の話題になることだ。車内を覗くと、中央にニョッキリとシフトレバーが生えている。それを目にすると異口同音にこう言う。
「マニュアルシフト派ですか?」
たいそう珍しい様子。いまや日本で販売されている新車の99%はATらしい。つまり、6速MTを好んで乗るのは、わずか1%の変わり者なのだ。奇異な視線が送られるのも納得する。
国産ピュアスポーツの代表であるフェアレディZなのだから、MT比率はさらに高まると思えるが、それにしても、日増しにAT限定免許取得者が増殖しているというから、やはりシフトレバーがニョッキリ生えているのは昭和の遺物なのかもしれない。
とは言うものの、日頃バイクに乗っていると、MTに対して奇異な視線を突きつけられるケースは、まず無い。ホンダの「スーパーカブ」や「モンキー」の自動遠心クラッチをもATとされ、スクーターなどはイージーライディングである。
だがそれ以上の大排気量バイクになると、ホンダの「レブル1100 DCT」や「NT1100」などに組み込まれたDCT(デュアル・クラッチ・トランスミッション)以外に、ATは見当たらない。

蕎麦屋の出前のように、必然的にクラッチ操作から解放されたバイクは別として、趣味でライディングを楽しむライダーの感覚的には、6割ほどはMTなのだろう。MTだからと言って、誰も話しかけてきやしないのも道理である。
つまり、そこがクルマとバイクの決定的なキャラクターの差ではないか。左手と左足を器用に操りながら走らせるバイクには、不便であるが故の楽しみがある。
目的地まで辿り着くことが目的ではなく、バイクは移動することそのものが目的なのである。バイクからクラッチ操作を省略することは、移動の楽しみを奪うことでもあるのだ。
そんなことを書くと、僕も所有している「レブル1100 DCT」や「NT1100」ユーザーに嫌われそうだが、フェアレディZをコキコキとマニュアル操作しながら走らせていると、それが偽らざる気持ちなのだと感心する。
Writer: 木下隆之
1960年5月5日生まれ。明治学院大学卒業後、出版社編集部勤務し独立。プロレーシングドライバーとして全日本選手権レースで優勝するなど国内外のトップカテゴリーで活躍。スーパー耐久レースでは5度のチャンピオン獲得。最多勝記録更新中。ニュルブルクリンク24時間レースでも優勝。自動車評論家としても活動。日本カーオブザイヤー選考委員。日本ボートオブザイヤー選考委員。