ビジネスバイクの作りに感心しきり ~木下隆之の、またがっちゃいましたVol.171~
レーシングドライバーの木下隆之さん(筆者)は、スーパーカブには高度成長期の日本経済が透けて見える気がすると言います。どういうことなのでしょうか?
脚光を浴びるスーパーカブ、商用目的の開発スタイルにあらためて感心
ホンダの「スーパーカブ」にまたがる度に、僕(木下隆之)はその合理性に感心させられる。いまでこそ趣味性も認められているスーパーカブだが、かつては商用的な目的で開発されたわけで、だからこそ使い勝手を最優先に開発された痕跡がアリアリなのだ。

クラッチ操作を必要としない独自のチェンジ機構は、そば屋の丁稚が片手で岡持ちを担ぐには都合が良い。
燃料タンクはシート前方ではなくシート下に配置され、ハンドル手前の足元には空間があるから、ママチャリのように片足を前に回してまたぐことができる。そもそも後ろの荷台に荷物を山積み前提だから、片足を後ろに回してまたぐこともできないわけで、だからこの位置とフレーム形状になったのであろうと想像する。
片手運転でシフトチェンジができるという点で、スーパーカブは商業的な世界を果てしなく広げた。大発明だと言って良い。
そこで思うのは、トヨタのプロボックスとサクシードである。その名を聞いてピンとくる人は少ないかもしれないが、コンパクトサイズのバンであり、商用車だから4ナンバーだ。主にセールスマンがお得意様回りをするための営業車として、スーパーカブ同様に日本の経済を支えている。
プロボックスとサクシードには、スケッチブックサイズの大きな地図が挟み込みやすい細工がされている。カーナビの時代にそれが必要なのか疑問だったのだが、どうやらマストアイテムらしい。曰く「お得意様の場所も覚えとらんのか!?」と上長に叱られるから。
カップホルダーは四角く縦に長いサイズが収まるようにレイアウトされている。仕事は朝イチで事務所を発ってから夕方の帰社まで、一日中外回りをしているケースが多い。そんな彼らにはスーパーかコンビニで買える1リッターサイズの紙パックが安価で都合が良い。だが、スクリューキャップではないから、一度開封したら横に倒せない。そのために、四角く縦長のカップホルダーなのだ。
助手席の広いテーブルは、車内で愛妻弁当を食べるときのため。サンバイザーのホルダーが多いのは、営業所が契約するガソリンスタンドの法人カードと、得意先の駐車場カードのためだ。
ちなみに、車両価格は200万円をわずかに下回る。と言うのも、営業車購入の決済権を握っている人の多くは、「贅沢はさせられない。200万円以下にしなさい」となるからだそうだ(聞いたハナシ)。
かくかくしかじか、本来の目的が商用的な使い方となると、趣味性の高い乗り物とは開発スタイルが異なる。
スーパーカブとプロボックス、サクシードには、高度成長期の日本経済が透けて見える気がする。
Writer: 木下隆之
1960年5月5日生まれ。明治学院大学卒業後、出版社編集部勤務し独立。プロレーシングドライバーとして全日本選手権レースで優勝するなど国内外のトップカテゴリーで活躍。スーパー耐久レースでは5度のチャンピオン獲得。最多勝記録更新中。ニュルブルクリンク24時間レースでも優勝。自動車評論家としても活動。日本カーオブザイヤー選考委員。日本ボートオブザイヤー選考委員。