森林を爽快に走る美しきSR400! 乗りこなす美女は意外なあの人?『夏美のホタル』
森沢明夫の同名小説を、恋愛映画の名手である廣木隆一監督が映像化した『夏美のホタル』(2016年)は、将来に迷う大学生・夏美とその恋人が、ひと夏の田舎での経験を通して成長していく青春映画です。
日本の美しい風景に溶け込むヤマハSR400
夏美(有村架純)と慎吾(工藤阿須加)は同じ大学の写真学科に通う学生カップル。在学中に賞を獲るなど華々しい同級生の活躍を横目に、二人は進路を決められないまま。恋人の部屋で怠惰な日々を過ごしています。そんな毎日の中、煮え切らない恋人と写真家への夢を持て余した夏美はひとりで旅に出ることに。

かつて父と一緒に見たホタルを追い求めて、レーサーだった父の形見であるバイクを走らせ、幼いころに過ごした村へやってきた夏美。立ち寄った乾物屋「たけ屋」で、足の悪いおじさん、通称・地蔵さんとその母であるヤスばあさんに出会います。夏美は、当てのない旅をしている自分を温かく迎え入れてくれた2人にやすらぎをおぼえ、やがて夏美を追って村に来た慎吾とともに家に泊めてもらうことに。夏美と慎吾、そして二人を手助けしてくれる親子とのひと夏が始まります。
「似合わないってよく言われます」そう答える夏美が乗るのは、ヤマハSR400。美しいデザインにファンの多い名車です。長年にわたりデザイン変更されずに愛された逸品として、2012年には「グッドデザイン・ロングライフデザイン賞」を受賞。黒く光る美しいボディが、日本の原風景ともいえる山並みに映え、ますます美しく見える点も本作品の魅力のひとつと言えます。作品中で父の形見として夏美が乗りこなしているバイクですが、黒いバイクに赤いフルヘルメットというアンバランスさに、揺れ動く夏美の心が象徴されているようにも見えます。
地元の子どもたちとの心安らぐ交流、夏限定の山での暮らし。たけ屋に居候しながら、都会では味わえない穏やかな刺激を受け、夏の日を過ごす夏美と慎吾。しかし、そんなのどかな暮らしの中、突然、地蔵さんが倒れてしまいます。寝たきりになってしまった地蔵さんと世話するヤスばあさんをサポートする二人ですが、やがて地蔵さんに家族がいたことを知り、ヤスばあさんから反発を受けながらも彼のために動き始めます。このひと夏の経験が二人の未来の礎になるとも知らずに……。

2022年の冬、『母性』(2022年11月23日公開予定)、『あちらにいる鬼』(2022年11月公開予定)、『月の満ち欠け』(2022年12月2日公開予定)と、新作が立て続けに公開される廣木監督。中でも、『月の満ち欠け』では有村架純と再びタッグを組みます。新作公開前に、温かい人々との交流を描いた本作で廣木作品の魅力を確認してみてるのもいいかもしれません。