【MotoGP第1戦ポルトガルGP】最高峰クラス唯一の日本人ライダー中上貴晶選手 参戦6年目の開幕戦は12位 主な問題はリアグリップ

2023年3月24~26日、MotoGP第1戦ポルトガルGPがアウトドローモ・インターナショナル・アルガルベで行なわれ、2023年シーズンもMotoGPクラスにフル参戦する唯一の日本人ライダー、中上貴晶選手(#30/ホンダ)はスプリントレースを15位、決勝レースを12位でゴールしました。

課題を抱えたままの開幕戦、中上選手にとって芳しくない結果に

 2023年シーズンのMotoGP開幕戦となるMotoGP第1戦ポルトガルGPが、3月24~26日にアウトドローモ・インターナショナル・アルガルベで行なわれました。ここはポルトガルの南部に位置するサーキットで、ポルトガルGPが開催された週末は、金曜日の少しの時間に雨がぱらぱらと落ちたことを除けば天候に恵まれ、抜けるような青い空に、強い陽射しが降り注ぎます。けれど、吹く風はまだ、少しの涼しさをはらんでいました。

MotoGP参戦6年目となる中上貴晶選手(#30/LCR Honda IDEMITSU)。後ろを走るのはジョアン・ミル選手(#36/Repsol Honda Team)
MotoGP参戦6年目となる中上貴晶選手(#30/LCR Honda IDEMITSU)。後ろを走るのはジョアン・ミル選手(#36/Repsol Honda Team)

 2023年シーズンのMotoGPには新たに導入されたレースがあります。土曜日に行なわれる、スプリントレースです。

 2022年までのMotoGPでは土曜日に予選、日曜日に決勝レースが行なわれるスケジュールでした。それが、今季からは土曜日に予選とスプリントレース、日曜日に決勝レースが開催されることになりました。つまり、1度のグランプリで土曜日のスプリントレースと日曜日の決勝レース、2度のレースが行なわれることになったのです。

 スプリントレースについてもう少し補足すると、日曜日の決勝レースの半分の距離で行なわれます。ポルトガルGPについては、スプリントレースが12周、決勝レースが25周でした。なお、予選順位についてはスプリントレースと決勝レース、ふたつのレースに適用されます。

 2023年で参戦6年目となる、MotoGPにフル参戦する唯一の日本人ライダー、中上貴晶選手(#30/ホンダ)のポルトガルGPは、端的に言えば芳しくない結果に終わりました。予選では18番手です。

6列目からスタートのレース。グリッドポジションの改善も今後の課題になるだろう
6列目からスタートのレース。グリッドポジションの改善も今後の課題になるだろう

 中上選手に何が問題だったのかと聞くと、「バイクのフィーリングが良くて、ここまで攻められてこのタイムが出る、という感じでは正直なかったんです。細かなところで、まだもうちょっとこうなって欲しいとか、こういう動きになって欲しいという、感覚を抱えながらのアタックだったので」と言います。

 バイクのパフォーマンスについて、自信を持つことができていないようでした。

 6列目からスタートしたスプリントレースは15位。決勝レースは、前の予選順位のライダーが怪我により欠場したことで17番手からスタートし、12位でした。

 走行が始まった金曜日から日曜日まで、中上選手が一貫して挙げていた問題は、リアタイヤのグリップ不足。これは、ホンダが2020年から抱える課題です。

 リアタイヤについては、このためにほとんどソフトタイヤしか使えないという問題もありました。MotoGPクラスにはミシュランがワンメイクタイヤサプライヤーとして供給しており、ポルトガルGPではソフトタイヤとミディアムタイヤ、2種類のコンパウンドが用意されていました。

 通常、ソフトタイヤは温まりが良いため、すぐにグリップが出やすい反面、耐久性には劣ります。ミディアムタイヤはより耐久性に優れますが、リアタイヤのグリップに苦しむ中上選手は、12周のスプリントレースでも25周の決勝レースでも、少しでもグリップが良いソフトタイヤを選ぶしかない状況でした。

スプリントレースで3位表彰台を獲得したマルク・マルケス選手(#93/Repsol Honda Team)。ただ、決勝レースでの他者との接触により、次戦のレースに適用されるペナルティを受けている
スプリントレースで3位表彰台を獲得したマルク・マルケス選手(#93/Repsol Honda Team)。ただ、決勝レースでの他者との接触により、次戦のレースに適用されるペナルティを受けている

「タフでした。このレースだけじゃなくて、このレースウイークとしてね」と、中上選手は日曜日の決勝レース後の囲み取材で語りました。

「パフォーマンスはベストではありませんでした。今日は17番手からのスタートで、かなり苦戦しました」

「僕たちはリアをソフトタイヤで行くことに決めましたけど、それは正しかったと思っています。ミディアムタイヤが使えないことは分かっていたからです。外から見るとギャンブルに見えたかもしれませんけど、僕たちとしては反対で、ミディアムの方が賭けでした」

「レース中はベストを尽くしました。レース中盤には自己ベストの1分39秒3を出しましたし、リズムに乗るとペースは悪くなかったです。でも数ポイントを稼ぎたいわけじゃなくて、もっと良い結果を求めています。この先に向けて、(次戦の)アルゼンチンでももっと改善を続けます」

 ホンダ陣営で、苦しい開幕戦を強いられたのは中上選手だけではないのです。

 ファクトリーライダーのジョアン・ミル選手はスプリントレースで転倒、決勝レースでは11位。そして中上選手のチームメイトであるアレックス・リンス選手はスプリントレースで13位、決勝レースで10位。ミル選手は2020年のMotoGPチャンピオンで、リンス選手は2022年シーズンに2勝を挙げている実力者ですが、ともに10位以下に沈みました。

 ファクトリーライダーで6度のMotoGPチャンピオンを獲得してきたマルク・マルケス選手は予選でポールポジション(予選1番手)、スプリントレースで3位表彰台を獲得しましたが、決勝レースでは他者に突っ込む形でクラッシュしてリタイア。マルケス選手をもってしても、本当にぎりぎりの限界で走らねばならない、ホンダの状況を感じさせた週末でもありました。

走行に出る前は、ライダーは奥のチェアに腰かけてミーティングをしたり、走行の映像やタイムを見たりしている
走行に出る前は、ライダーは奥のチェアに腰かけてミーティングをしたり、走行の映像やタイムを見たりしている

 そんな中上選手に、次戦に向けて決勝レースから得たものは何かと聞くと、「週末を通してたくさんの重要なデータを得ました。アルゼンチンでは同じバイクだとしても、ポルティマオよりも良いパフォーマンスができると思っています」と答えています。

 ホンダが入り込んだ長いトンネルは、今季も続いています。しかし、だからこそ、一歩一歩「この先に向けてもっと取り組み続ける」しかないのです。

 MotoGP第2戦アルゼンチンGPは2023年3月31日から4月2日にかけて、アルゼンチンのテルマス・デ・リオ・オンドで行なわれます。

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Writer: 伊藤英里

モータースポーツジャーナリスト、ライター。主に二輪関連記事やレース記事を雑誌やウエブ媒体に寄稿している。小柄・ビギナーライダーに寄り添った二輪インプレッション記事を手掛けるほか、MotoGP、電動バイクレースMotoE取材に足を運ぶ。

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